遠い小指
胸に造花をつけた卒業生たちは、記念写真を撮ったり寄せ書きをしたり泣いていたり。みんなそれぞれの青春の終わりに夢中で、だからその中で彼女に声をかけたことはきっと誰にも気づかれていないはず。
屋上で、なんてカッコつけたことはできないから教室の端で、スカーフが欲しいと願う。『第二ボタン』の友情版だと、陳腐な嘘を信じた彼女は「そんなこと」と笑いながらスカーフを外す。しゅるりと音を立てて彼女から離れる真っ赤なスカーフに心臓がおかしく跳ねた。
緊張で少し震えた声で感謝を伝えると、丁度彼女のスマホが鳴る。画面を見て、初めて見る笑顔を浮かべて、あとなんか用事ある?と問いかける彼女。あるけど、言えない。その言葉すら胸にしまって、小さく頷く。
「じゃあ私、行くね」
タタタッとローファーの音を響かせて、ひらりと短いスカートを靡かせて、全校生徒の誰よりも可愛いらしい顔で、彼女が行く先はきっと恋人のもとで。
スカーフくらいじゃ、いくらほどいて糸にしたって、君の小指にはとどきっこない。