第30話 あずきはレベルアップした 2
その晩、あずきとおはぎは、ミーア宅の食事にお呼ばれした。
家に入ってみるととにかく人数が多く、食事会は最初から最後まで騒々しく、その迫力に圧倒された。
何か動物の肉を煮込んだスープ鍋。何種類かの豆とチキンの欠片が入ったトマト系の煮込み。ジャガイモメインで色々な食材が入ったサラダ。コーンか何かが練り込まれたちょっと硬めのパン。
味覚は人間とさほど変わらないようで、最初はおっかなびっくり食べていたあずきも、最後には他のブラウニーたちと一緒になって、夢中になって食べた。
そこであずきは、一際大きいブラウニーを紹介された。
それが一家の大黒柱、工房の職人にしてミーアの亭主、エメロンだった。
父のエメロン、母のミーア、プラス十人ほどの子どもたち。
ほど、というのは、子どもたちが誰一人じっとしていなかった為、まったく把握が出来なかったからだ。
特に、この里では猫が珍しかったらしく、おはぎは滞在中、家の中をずっと追いかけ回されていた。
結局あずきには、実際に何人居たのか、最後まで分からなかった。
分かったのは、あずきが東京タウンで保護したリーロイとルーミィが、兄妹としては真ん中くらいだったということくらいだ。
――まぁ、これだけ居たら、一人や二人居なくなってもあんまり気にしないんだろうな。
あずきは内心とっても失礼なことを考えつつも、表面上は笑顔で、食事をごちそうになったのであった。
◇◆◇◆◇
食後、あずきはエメロンの案内で工房の見学をさせて貰った。
エメロンだけでなく、ミーア、リーロイ、ルーミィも付いて来る。
工房の入った洞窟は広く、学校の体育館くらいのスペースに幾つも窯が置かれ、その全てに火が入っている。
夜だというのに、それぞれの窯の前で火除けの分厚いエプロンを付けたブラウニーが幾人も仕事をしていた。
工房の中ほどに柵があり、その横を通り過ぎると、柵の中で小火竜が四、五匹寝ているのが見えた。
近寄って見てみたが、逃げ出した火竜がどれだかあずきには分からなかった。
「どれ。杖を見せてごらんなせぇ」
奥の方にあった窯の前で火除けエプロンを付けたエメロンに促され、あずきは自分の杖を差し出した。
これがエメロン担当の窯なのだろう。
あずきには窯の良し悪しは分からないが、その窯が、相当に年期が入っていることだけは分かった。
あずきは改めて杖を見た。
先端十センチ程がバキバキに弾け飛んで、見るからに痛々しそうだ。
「おばあちゃんに貰った大切な杖なんです。直りますか?」
エメロンは様々な角度から杖を眺めていたが、やがてため息を付いた。
「いや、ダメだな。むしろ、小火竜相手によく魔法が使えたな。完全に死んでいるよ。これじゃ魔力が循環しない。復活は無理だ」
「そうですか……」
さすがにショックだった。
「ねぇあなた。修復は出来なくても、欠損部分を何か別のもので補うことは出来ないかしら」
「まぁそれなら出来ないことは無いが、さて、何で補うかだな」
エメロンとミーアが考え込む。
「ねね、あずき、あれ、どうした?」
「あれ?」
「ほら、警察署で見せてくれたろ? 何かの爪だか牙だか。あれ出しなよ」
「あぁ、あれ? あんなの役に立つの?」
「触媒ってやつ。きっと使えるよ」
リーロイに言われ、あずきはゴソゴソとポケットを探った。
地の気。森の案内人、リリィの飼っていたラクのツノ。
水の気。水蛇の牙の欠片。
風の気。飛竜の爪。
火の気。湖で見つけた、小火竜の牙の欠片。
そして最後に、青い宝石、ゴーレムの核。
あずきはそれらを、窯の脇に設置されていたテーブルに置いた。
「これは……エレメント四元素が全て揃ってやがる。おまけにブースターまで」
エメロンが絶句する。
「いけそう?」
ミーアが心配そうにエメロンを見た。
「お前の助けがあればな。だが、この子に扱えるかな」
「大丈夫よ。この子なら使いこなせるわ。リーロイとルーミィを東京タウンから連れ帰ってくれた恩もあるし。わたしの魔法が必要なんでしょ? 手伝うから何とか直してあげて。お願い」
エメロンは一つうなずき、リーロイを見た。
「リーロィ、あずきさんをパパとママの寝室に案内してやってくれ。今夜はそこで寝てもらおう。ちょいと大仕事になるから、パパとママは今夜は帰れないからな。くれぐれも頼んだぞ」
「え? そんな! いいです、いいです。そんなにしてもらうなんて申し訳ないです」
「リーロイとルーミィの恩人だ。それくらいさせて貰ってもよかろうよ。明朝には渡せるから、今夜のところは家でゆっくり寝ててくだせぇ」
エメロンとミーアが揃ってうなずく。
「行こう、あずき。パパとママの邪魔しちゃいけない。ここからは職人の真剣勝負が始まるんだから」
あずきはリーロイとルーミィに手を引かれ、工房を出た。
あずきは改めて隠れ里を見渡した。
暗い夜の世界を照らす、森のあちこちに生えた淡く光るキノコ。
上空、木々の間から見える星の瞬き。
そして家々の明かり。
――まるで夢の中の世界みたい。こんな風景、学校の友達は見たことないんだろうな。
隠れ里を覆う幻想的な風景に、あずきは思わずため息をついた。
数日前まで自分が属していた世界とは、まるで違う世界に自分は居る。
あずきは残してきた両親、そして祖父母のことを思いつつ、リーロイとルーミィの家に向かった。




