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第18話 ゲームバランス崩れてない? 2

「ゴーレムって言うのかな。……あんなのがいるんだね、ここ」


 十分ほど飛行を続けて少し安心したのか、おはぎが口を開いた。

 あずきは箒を飛ばしながら、無言で空を指差す。

 そこに何かあるのかと、おはぎも空に目を向けた。


 空には月が浮いていた。

 否。そこにあったのは地球儀そっくりの模様を持つ惑星だった。


「位置関係からすると、ここが月だってことは間違いないと思う。正直サマンサに言われてもそれだけは半信半疑だったんだけどね。学校で『月』は、表面が真空で重力は地球の六分の一。照ると灼熱、陰ると極寒で、とてもじゃないけど人の住める環境じゃ無いって習った。でもここは見た目、地球とそっくり。教科書とわたしの目、どっちが正しいのかな」


 あずきは考え考え言う。


「どういうこと?」

「月から見た地球があんな風だってことは、地球から見た月だって同じように見えるはずでしょ? 実際の景色がコレなのに、クレーターだらけになんて見えるわけ無いじゃん。ってことは何らかの誤認魔法が掛けられているんだわ。地球からの望遠鏡観察や月面探査程度、やすやすと騙しきれるくらい高度で大規模な認識阻害魔法がね」

「何のために?」


 おはぎが首を傾げる。


「普通に考えたら、やっぱり守るためでしょ? この世界を。月に文明があるなんて知られたら、軍隊を使ってちょっかい出してきそうな国とかいっぱいありそうじゃん」

「まぁ……あるかもねぇ」


 あずきとおはぎは、どちらともなく顔を見合った。

 何となく背筋が寒くなる。 


「今日はいい天気だね、おはぎ」

「そうだね、あずきちゃん」


 それ以上話していると怖い想像をしてしまいそうになったので、二人とも話を打ち切って飛ぶのに専念した。


 ◇◆◇◆◇


 更に箒で飛び続けると、前方に森が見えてきた。

 ここまで川に沿って飛んできたが、ここから川は横に()れていく。


 あずきはその場に滞空しながら懐から杖を取り出し、空中に小さな魔法陣を描いた。


「ダイレクショネム コンポラバティオ ルーナレジア(方角確認・月宮殿)!」


 直径二十センチ程度の小さな魔法陣は、あずきの声に応じて一瞬だけ光ると、スーっとあずきの杖に吸い込まれて消えた。

 だが杖の先端は、ほんのり光ったままだ。


 あずきは杖を前に向けたまま、その場でゆっくりと旋回した。

 杖が森の方を向いたときだけ、先端がまばゆく光る。


「どう見ても、森を突っ切るコースっぽいね、あずきちゃん」

「あの森を越えるのは結構時間が掛かりそうよ? その前に腹ごしらえしよっか」


 今いる位置からも森の深さが見て取れる。

 迷うことだってあるだろうし、敵だっているかもしれない。そうしたら休憩どころではない。

 そう思ったあずきは、リュックから朝サマンサに貰った包みを出し、開いた。


「うわぁ、美味しそう!」


 中に入っていたのはラップに包まれたサンドイッチだった。

 具はシンプルに卵とツナ。

 おはぎ用には瓶に入ったペーストだ。

 スプーンで(すく)っておはぎのお皿に盛ってあげる。


「これ、美味しいよ!」


 余程お腹が減っていたのか、おはぎがガツガツ食べる。

 その様子に触発され、猛烈な空腹を覚えたあずきも、サンドイッチに勢いよくかぶりついた。


 ――美味しい! 美味しいけどこれって……。


 食べながらあずきの頭に一つ疑問が浮かぶ。

 食事の形態が似過ぎている。


「これさ……」

「ん? なに?」


 あずきに話し掛けられて、おはぎが顔を上げる。

 口の周りがペーストだらけだ。

 

「卵はまぁいいよ? マヨネーズもまぁ作れたとするよ? でもツナは? このツナ、ママが使っているツナ缶にそっくりの味よ? 月にツナ缶工場なんてあると思う? しかもそれを包むのがラップ? 冗談でしょ?」

「確かに」


 口の周りを綺麗に舐めとったおはぎが、上目遣いにあずきを見る。


「サマンサの暮らしぶりから想像するしかないけど、地球ほどは文明が進んでいない気がした。ほら、家にTVとかエアコン、電話とか無かったしね」

「でも冷蔵庫はあったよ?」

「そうね。余ったピザを冷蔵庫に入れたけど、ちゃんと中は冷えていたもんね。でもあれは電気で動いているモノじゃ無かった。魔法で冷やしてた。じゃあ中に入っていた食品はどこから調達しているの?」

「配達?」

「どこから?」  


 答えられなくておはぎが黙る。


「この土地のことは地球の人たちにとって秘密のはずよね。勿論わたしが通って来たようなゲートがあるんだから持ち込む魔法使いがいてもおかしくはないけど、あんなすぐ閉じちゃうようなゲートでそんなに大量に流通するものかな。実は開きっ放しになってる巨大ゲートがあるとか、もっと大規模に行き来できる方法があるんじゃないのかな」


 同じようなことを、おはぎも思ったようだ。

 隅々まで舐めて、ピカピカになった小皿をあずきの方に押しながら、少し困惑した表情でおはぎが言う。


「あずきちゃん、このペースト、ボク食べたことあるよ」

「え?」

「そっくりなだけなのかもしれないけど……」


 思っている以上に地球と月の交流は大規模なのかもしれない。

 それこそ、知らないだけで、実はあずきが電車に乗って祖父母の家に来た程度の労力ですんなり来れちゃう、みたいな。

 この調子だと、都市部にはコンビニや自動販売機があってもおかしくない。

 お昼ご飯を終えたあずきは考えながら、再び箒にまたがった。

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