第7話 記憶
「起きろセルリア。」
「……ん……?」
私が目を覚ましたのはセレナさんの背中の上だった。
「うわっ!ご、ごめんなさい!」
「よいよい。こうしてテレパシーを使わずお前と話せておるのだから。」
「あっ、そういえば……普通に話せていますね。」
「セルリアのおかげだ。ありがとう……」
「まだお礼を言うのは早いですよ。まだ後6本もあるのですから。」
「そうだな……これからも頼んだぞ。」
セレナさんが少し笑った様な気がしました。ドラゴンの表情は私には分かりません。でも、何となくそんな気がしたのでした。
「次の矢を抜くのは明後日でよろしいですか?手を少し回復させたいので……申し訳ございません。」
私はズタボロになった手を見せます。セレナさんは早くこんな呪いは解いて欲しいと思いますが……このままでは6本抜く前に私の手が使えなくなってしまいます。なのでとても申し訳ない気持ちで謝罪していると思わぬ答えが返ってきました。
「何を言っているのだ!まさかそんな手になってまでやっておったのか!?明後日と言わずしっかり完治してからやるのだ!」
「えっ!?でも、そんなの待っていてはセレナさんの時間を奪う事になりますよ!?」
「セルリアよ、その気持ちは嬉しいが我が治ったとてセルリアに後遺症が残ったら我は我を許せなくなるんだ。だからそこまで急がなくて良い!」
まさか患者さんから怒られるとは思いませんでした。これは少しゆっくり休む事にしましょう。
「あの……セレナさん。」
「なんだ?」
「私ですね。先程矢を抜いた時にセレナさんの記憶が少し見えました。」
「ほぅー……どんな記憶だったのだ?」
「お、怒らないのですか?」
「不可抗力じゃ。気にしてはおらん。」
怒られないと分かり少しホッとしました。そしてさっきの事を思い出します。
「ええっと……セレナさんが20歳と言っていました。人との交流について話しておりました。」
「ほぅ……そうか。では、あの時のかのう。」
少し考え込むセレナさんでしたがすぐに元の調子に戻りました。
「まぁ良い。セルリアよ。お主今は仕事はしておらんのか?」
「……何故急にそんな事を?」
「何、人は働いて生活を支えておるのだろう。これほどの腕じゃきっと名医なのじゃろう。我にばかり構っていては他の患者に迷惑じゃろう。」
私はドキッとしてしまいます。今の私は無免許に近い状態なのですから。ですがここで嘘を吐くのはいけない事なので。正直に話します。
「実は……私無職なんです。」
「そうなのか……だがその医療の腕ならば引くて数多だろう。」
「いえ……私医療ミスをして懲戒解雇になったんです……」
「そうなのか……嫌な事を思い出させたな。」
「いいえ。セレナさんが謝る必要はありません……」
「しかし……セルリアでもミスする事があるのだな。」
「そうですね……私は気づく事も出来なかったのですから……」
「ん?何故泣いておるのだ?」
私は知らぬ間に涙が溢れていました。
「えっ……あれ……?」
「それほど後悔しておるのか?」
「……はい……私はミスをしてその患者さんの事すら知らないと言い張ってしまいました。でも……結局私がやったのだと思うと……私は……なんと愚かだったのかと……」
「……セルリアよ。お前本当にミスをしたのか?」
「えっ……なんでですか?」
「いや、セルリアとはまだ会って数日だが、記憶力が悪いとは思えんのだ。それにそんなに他人を……いや、患者の事を思ってる人間がミスをするとは思えないのだ。大体、どんなミスをしたのだ?」
私は事の内容をセレナさんに話しました。本来ならば関係のない話ですが、親身に聞いてくれるので話してしまいました。話を聞き終えてセレナさんはふーっと息を吐きます。
「セルリア。お主嵌められたやもしれんぞ。」
「えっ?」
「まぁ良い。我がセルリアの無罪を証明してやろう。だからまずはセルリアはその手を治すのだぞ。」
「そんな事して頂いてよろしいのですか?」
「野暮な事を聞くでない。いいから今は休むのだ。」
セレナさんの言葉はとても心強い物でした。そして今日はこれで治療を終えるのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次回もお楽しみに!
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