第3話 出会いは突然に
王都から馬車に揺られて2時間の場所にウエスティンの街があります。私の実家はそこから少し離れた場所にあります。昔は村だったのだけどみんな引っ越して行った為に今では私の父と母しか住んでいません。でも、山道は昔のままの様でこの道を通ると何だかホッとします。
「グオォ……」
……と思ってたのですが……どうやら何かいるようです。私は茂みをかき分け声のした方へ歩いていくと大きな洞窟がありました。
「この中からかな?でもこんな洞窟昔はなかった様な……」
不安を抱きつつも先程のうめき声が気になるので入っていく事にします。少し中へ入ると外の光は届かなくなりました。なので指先に火の魔術を使って足元を照らします。
「あっ……」
私は思わず声を上げてしまった。でもそこにあったのは大きな尻尾でした。そしてその尻尾を辿って見上げるとそこにいたのは身体中に矢が刺さったドラゴンだったのです。
「えっ……大丈夫ですか⁉︎」
『かえ……れ……』
「えっ?」
『かえ……れ……さもなくば……殺す……』
私の脳内に直接流れる声……テレパシーでそう言われましても……こんな傷だらけの子を放って帰れません。
「怪我してるじゃないですか!待ってて下さい。すぐに治しますから!」
『来るな!薄汚い人間め!』
私は硬直してしまいました。そのくらいの威圧感だったのです。
『我々の住処を奪い、仲間を殺した人間の手など借りん!借りるくらいならば我は死を選ぶ!』
「……です。」
『ん?』
「嫌です!」
『なっ……⁉︎』
「私は昔あなたの仲間に助けられました!だから、私はあなたを助けれないなら私も死ぬ事を選びます!」
少し睨み合った後、ドラゴンさんがテレパシーで話しかけきました。
『……なるほど……貴様には貴様の信念があるのだな。だが……我はもう助からん。だから気にする必要はない。』
「なんでそんなこと言うんですか⁉︎諦めないで下さいよ!」
私の悲痛な叫びにドラゴンさんはゆっくりと話してくれた。
『我はもうかれこれ2年ここで治癒を試みた。それでも容体は変わらずむしろ悪化して行っている。もはや全てに疲れたのだ……もう……休ませてくれぬか?』
「でも……まだ死にたくないのでしょう?」
『……そうだな……またあの空を飛んで……里の景色を見たいのぅ……』
「分かりました!でしたらあなたは今日から私の患者様です!元気になってその夢を叶えてあげます。」
『愚かな事を……』
「もし治さなければ私もあなたと死にます。」
『なっ!何を言っておるのだ貴様!』
「良いんです。元々あなたのお仲間に助けられてここまで生きて来れたのです。ですので、ここであなたを治せないのなら生きていても無意味です。」
私の真剣な目には覚悟がみなぎっていました。
『ならば。その覚悟に我は最後の希望をかけるとしよう。お主名は?』
「セルリア・ハーネスです。」
「では、セルリア……貴様に我の命……預けたぞ。」
「任せてください!」
まずは外傷を見て回る。そして問診……
「ドラゴンさん。お名前聞いてもよろしいですか?」
「何故だ?」
「いえ、呼ぶ時に必要ですし、カルテもわかる様に書いておきたいのです。」
「なるほど。では、名乗っておこう。我が名はセレナ・ブルックだ。」
「セレナ・ブルックさんですね。」
私はメモ帳を取り出してドラゴンさんの名前を書く。ここでメモを取った後帰ってから正式にカルテを書くことにしました。
「では、問診です。この怪我はいつの物ですか?」
「2年前だ……あの戦争の終わる間際に矢を放たれてそれ以降は空も飛べず、自己再生能力も無くしてしまった。」
「セレナさんは自己再生が出来るのですね。」
「ドラゴンの権能の1つだ。飛行能力、自己再生能力、多様な言語能力、高い魔力保有能力、そして超寿命。これがドラゴンの権能だ。」
医学以外は全く無関心な私なので勉強になりました。
「よし、じゃあまずは大まかな傷を治します。ヒール!」
私は簡易的な回復魔術を使いました。強めの回復魔術を使ってしまうと皮膚の活性とともに矢が折れてしまい矢の先端だけ残ってしまいかねないからです。だけどセレナさんの傷は全く治っていませんでした。
「あれ?なんで……では、ハイヒール!」
こちらも全く効いていませんでした。
「あの……もしかしてセレナさん時間停止系の魔術を使ってますか?」
『あぁ……自己再生が使えぬ今生きながらえる為にな。』
「すいませんが解いてもらえますか?回復魔術が効かないんです。」
『おぉ、そうであったか……すまんな。』
そう言うとセレナさんの身体から光の粒子が霧散していきました。
「では、もう1度ハイヒール!」
しかし結果は変わりませんでした。これは恐らく回復阻害がかけられているのでしょう。
「すいません。恐らくですが、回復阻害の呪いを受けている様なので一旦ここに固有結界を張りますね。」
『固有結界だと……何故だ?』
「まず1つ目はここには雑菌が多すぎます。それを排除する為です。2つ目は怪我の進行を抑える為です。見たところセレナさんはだいぶ魔力を消費しています。なのでここからは私がセレナさんの為に時間の流れを遅くします。3つ目はリハビリも兼ねてです。結界内だけですが運動も出来るスペースを作ろうと思っていますので。」
『そんな事をしてはセルリアの魔力が持たんのではないか?』
「ご心配ありがとうございます。ですがご安心ください。私は普通の人より魔力が多いので簡単に枯渇する事はありません。」
『本当に大丈夫なのか?』
「はい。ではいきます!固有結界!」
私の魔術で暗かった洞窟は明るくなり青い空と緑の大地が現れます。
「今日はここで休んで下さい。明日から本格的な治療に入りますので。」
『まさか……ここまでの結界を張れるとはな……セルリアよ。我はお主を信じる事にしよう。』
「任せて下さい!絶対完治させますから!それからこれを。」
そう言って私は持っていた果物を渡して一旦帰りました。辺りはもう真っ暗ですので急いで帰ります。危ないからではありません。医師としてのやり甲斐ある患者を見つけたからです!
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