第10話 添い寝
お風呂から上がって綺麗になった私たち、セレナさんは凄くぴちぴち、私はボロボロだった。
「あら、セルリアはなんでそんなに疲れてるの?」
「気にしないで……」
自信喪失どころじゃない。完膚なきまでに叩きのめされた私の心を誰かに癒してほしいけどお母さんに言っても……
「ほら、夕飯の準備手伝って。」
私は頭を振って先程の事を一旦忘れる事にします。そしてあっという間に準備が進んでお父さんも帰ってきた事で夕飯を頂きます。
「では、戴きます!」
「「「戴きます。」」」
私たちは命を戴いて生きています。なので食事の前はこの感謝の言葉を絶対に忘れません。食事を始めた直後、お母さんがセレナさんに話しかけます。
「それでセレナさん。怪我の具合はどうなんですか?」
「はい、もう殆ど治っておりますが、まだ空を飛べるほど治っておりません。」
「それはまだまだ治ってないな。しばらくここに居なさい。セルリアがきっちり治してくれるぞ。」
お父さんもセレナさんがいる事を認めてくれたのでゆっくり療養させられます。私に全て丸投げですが……いい父親です。
「ムムム……これは何じゃ?」
「それですか?それは桃仙ですよ。」
セレナさんが不思議そうに見ているのは私たちの家で作られている桃仙という果物でした。その実はとても甘く柔らかい食感で今では私たち家族しか作っていない幻と言われる果物。
「桃仙……美味いのか?」
「前にお弁当で持って行きましたよ。あの時はすり潰してお饅頭の餡にしてましたから分からなかったんですね。」
今回は皮を剥いただけなのて分からなかったのでしょうがあのお饅頭を美味しく食べていたから恐らく気に入ってくれるはずです。
クンクン……
匂いを嗅いでいます……そして……パクリ……
「あっ、美味しい!すり潰さないで食べると凄く優しい食感ね!」
「使ってる水もただの水じゃないんですよ。魔力を少し含んでいる水を使ってるからエグ味を少し緩和させて代わりに甘みを多く含んでるです。」
「ほぅ、でもそれなら魔力を増やせば甘みが増すのではないか?」
その言葉をお父さんは首を振って答えます。
「それじゃあダメなんだよ。」
「何故じゃ?」
「世の中には過ぎたるは及ばざるが如しという言葉があるように、多すぎてしまえば甘みが多すぎて早く腐ってしまったり、中には熟れ過ぎて運ぶときに潰れて他の商品もダメにしてしまうんだ。この魔力量もずっと昔に御先祖様が試行錯誤
を繰り返してくれたからようやく今の安定があるんだよ。」
「なるほどのぅ……先人達の知恵がこんなにも美味い物を作ってくれたのだな。そう考えるとそやつらはまだこの中で生きておるのだろうな……」
「……そうですね。そして今度はそれを次の世代へだね。」
夕食を食べ終えていろいろ片付けをしてしまうと私はセレナさんを自室に連れてきていた。
「狭い部屋だけど自由に使って。」
「良いのか?セルリアの部屋じゃろ?」
「いいわよ。むしろこっちがごめんなさい。本来なら空き部屋に泊まってもらうべきなのにうちにはないので……」
「いやいや、こんな綺麗な部屋に泊めて貰えるんじゃ、これ以上要求しては罰が当たる。」
「じゃあ私は今日のカルテ書いてしまうから先に休んでて下さい。」
私は机に向かってカルテを書き始めます。その後ろにセレナさんがずっとジロジロと見てきます。
……
…………
…………………
「……あの……さっきからずっと見てますよね?」
「なんじゃ見られたら困るのか?」
「困らないですけど……視線が突き刺さります。」
「刺さってるのか?どこに?」
「えぇ、要はですね。気が散りますと言ってるんです。」
「ほぅ。なるほどのぅ。それはすまなかったな。じゃがカルテを書くセルリアを我は初めて見るのでな。気になったのじゃ。」
「見てて楽しいですか?」
「セルリアの真剣な表情はカッコ良いぞ。」
子供のようにキラキラした目で言われては流石に何も言えません。
「それでしたら見てていいですよ。」
その後もセレさんはずっと私を見ていました。そして書き終わりました。そしてお布団を2枚敷いて寝ます。
「なんじゃここになるのか?」
「そうですよ。なかなか寝心地良いんですよ。」
「そうなのか。じゃが何故2つ敷いたのだ?」
「一緒に寝るのには狭いからです。」
「そうなのか……じゃが今日だけでも出来んか?」
「えっ……良いですが……私寝相悪いですよ?」
「良いぞ。」
何故か寂しそうな目をしたので仕方なく一緒に寝ることになりました。そして私は何故か先に寝てしまいました……少し疲れていたのでしょうか……
我より先に寝てしまったセルリアの寝顔はとても愛くるしかった。最初に会った時はとても強い目をしていて。我は生かされた。
「こんな小さな身体で我を救ってくれた。ありがとう。セルリア……」
我はセルリアの頭を撫でた。規則正しく寝息を立てているセルリアを見て心臓が高鳴った。
(な、なんじゃこの感覚は?)
我は初めての感覚に戸惑ってしまった。250年生きてきて初めての感覚じゃった。
「うぐっ!」
じゃがそれをかき消す強烈な一撃が頬に伝わった。我は一瞬何が起こったかわからんかった。しかし今度は腹に衝撃が伝わって誰がやったのか分かった。
「セ……セルリア……?」
寝息を立てつつもセルリアの足や手がとんでもない威力で我を捉えたのだ。しかも今は何も動いていない。
「な、なんじゃったんだ?」
呆然として見ていると今度は寝返りを打ちつつものすごい裏拳が床を叩いた。
「マジか……」
一瞬で分かった。一緒に添い寝しようものなら殺される。我はセルリアが敷いてくれた布団をセルリアが寝ている場所から少し離して睡眠を取ることにした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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