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時間と精霊の狭間に沈む月  作者: 風見渉
第一章
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神話

 それから数日が経過していた。



 宇宙船()は漆黒の空間を光とほぼ同速で移動している。

 星々は窓の外を流線となって、遥か後方へと吸い込まれていった。




「…どこかへ向かってるの?」

 目の前におかれている紅茶は、渦を巻くようにして湯気が勢い良く立ち上っていた──が、一口含むとやはり紅茶にしては温かった。

 地球上と宇宙空間では沸点が違うので仕方はないが。


「ケプラー138星系ですよー」

 …自分(彼女)の記憶には無いらしい……。

 思ったより欠落が多くて、ポンコツかも知れない──端から見ればそれでも並みより上だと気がついてもいない。


「地球から見てこと座の方向にある赤色矮星ですねー」

「何をしに…」

「重水の現物補給とかがメインでしょうかー」

 ティアラは船内の計器を触りながらそう言った。





 毒蛇に噛まれ妻を亡くした男が、冥府に降りて自分の琴を冥王の前にて演奏した。

 その演奏に感動した冥王が妻を返した。但し、条件付きで。


『地上に出るまで振り返ってはならぬ』


 光が見え、喜び勇んだ男は振り返り──妻は冥府に引き戻されてしまった。

 哀しみに暮れた男は、彷徨う内にとある宴に招待された。


『琴を弾いて欲しい』


 頑なに断った男は殺され、琴共々河に投げ入れられた。

 その後、その琴はある女神の住まう島に流れ着いた。

 憐れにおもった女神が、天に上げて琴座となったという──





 ティアラから自室として用意された部屋で、窓の外を見ている。

 ふと、とある神話を思いだして何とも言えない気分になった。


「男が、ただ我が儘でメンタル弱すぎる…」

 しかし、冥王も冥王である。

 死んだ人間を簡単にほいほい生き返らせたら、地上が混乱すると思わないのかと。

 前例作ったら我も我もとなるだろう…。

 だから誰が話を纏めたか判らないが、結局は蘇らずに男も死んだと。

 言い方が良くはないが、後追いした方が方々に迷惑かけずに済んだよねというだけである。

──まぁ、それを言ったら神話が成り立たない訳であるが。

 それでは色々と釈然はしない。



 だが、男が振り返る事を冥王が折り込み済みで一度は帰したのならば…──否、振り返るように仕込んで帰したならば話は少々変わるのかも知れない。

 そうなると、冥王が少々えげつない。

 結局死んだ男は冥府にて、冥王に裁かれるのだから──

 ()()ならば、後者の解釈を好みそうである。

 言わずもがな、自分もその方が愉しいと思ってしまう。

 絶望し、破滅する様を眺めるのが愉しいのかもしれない──そうなると神話でまともなのは、最後に出てくる女神しか居ないようである。


「まぁ、踊り子には全力で踊ってもらいたいわよね…」

 観客を愉しませるのが踊り子の役目である。



 誰が踊るのか。

 それ次第である。

 そして、踊り子がどれだけ上手く踊れるかでもある。

 踊り子から観客は見えない。

 余計なことを考えず踊らされればそれで良い。

 

名無しちゃんも黒かった(゜ー゜*)

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