Prologue
時間の流れが急速にも、緩慢にも思える空間。
どれ程の時間が経ったのかすら感覚がつかめない。
気がついたときには世界の前には、大きなモニターが一つ。
世界は明るくもあり、昏くもあった。
他には何もなかった。
私は一体何なのか──自問自答する必要はなかった。
私は、答えを知っている。
私は記憶。彼女の記憶。
「…彼女は今、何処にいるのかしら?」
私はそれを知らない。
私に自我があるということは、少なくとも彼女は動ける状態ではないと言うことだけは解る。
私は幾つにも分けられた欠片の一つなのだから。
ぼんやり過ごす時間が多かった。
光源は無いのに世界が明るい。いや地面が発光をしている。
──はた、と思う。
私が気がついてからそれなりに時間は経過をしている──のに喉の乾きを覚えることも、空腹を感じることもない。
ふと、自分の手を眺めてみる。
やはり、生身の身体である感じはしなかった。
精巧に造られた何かの様に感じる。
「記憶の自我とか普通に意味が解んないわよねぇ…」
彼女の記憶はある。完全とは言い難いけれど。
ただそれが自分の記憶かと言われるとそうではない。
記憶媒体のように存在している。というのが正しいかもしれない。
「…はぁ……」
溜め息をついた。
考えても仕方ない事だと思った。
──要は、することがなく暇なのだ。
その静寂がけたたましく破られるのは、もう間もなくの事。
モニターの向こうから甲高い声が──
「あっ!起きてるー!」
世界に降り注いだ第一声がそれだった。
「おっはよーございまーす!マスター!」
最後の声は、某天の声の様なテンションです。