機能停止
「…さ、寒かった……。」
ティアラの作業が一通り終わったというので、船内に戻って暖を取ることにした。
手の指先が真っ赤になり、指先の感覚は鈍く体温が抜けていく感じがしている。
──え?
ティアラに耐久性は低いと言われた身体…反応がまるで人間の様…?
「マースータぁー。どうしましたー?」
意識がその声に引き戻される。
「冷えちゃったみたいですねー。何か温まるもの持ってきますねー」
「…お願い」
数分の後、毛布を抱え器用にティーワゴンを押してティアラが戻ってきた。
「持ってきましたよぅー」
「はーい、上着脱いでくださいねー」
…自分で脱げるわよ……。
自分で脱ごうとしたら、彼女に手をぺちぺち軽く叩かれた。暗に自分でやるなと言われているようだった。
「マスターのお世話するのはティ・ア・ラですよぅ?」
うるうるした瞳で見上げられて──負けた。
「…わかったわ……。」
結論として毛布で簀巻きに近い状態にされてしまっていた。
体温と呼んでいいものか不明だが、明らかに【熱】が身体から抜けていっている。
「うーん。どうやら思ったよりマスターにボディが馴染んでませんねぇ…」
ティアラが唸りながら首をかしげてている。
──そもそもこの身体とやらがどういうものなのか詳細は聞いていない。
「そう言えば、この身体って何か詳しい説明貰ったかしらね……?」
ぽん。とティアラが手を打った。
「あっ、詳しくはしてませんでしたねー!後で詳しく説明しようと思ってそれっきりでしたねー」
故意なのでは無かろうか?という位に口調が少々棒読みのように聞こえる。
少々ジト目になっても許されるのでは無かろうか?
身動きがとれず、ソファーの上でバランスを崩しコテンと横倒しになってしまった。
「マスターのボディも、ティアラと同じく有機アンドロイドのはずなんですけどねー」
“はず”とは…?
ズキリ、とこめかみの奥に痛みが走る。
「どうも、ティアラのと仕様が違うみたいですねぇ…困りましたー」
グニャリ、と視界が歪み──暗転する。一瞬目の前に光が渦を巻き点滅し──激しくなる頭痛に意識を保てず、それを手放した。
目の前でその人は、どんどん顔色を青くしていった。
「…っ!マスター!」
自分がやったこととは言え、少々毛布で巻きすぎてしまったようだ。
少しばかり毛布を剥ぎ取り、体内で暴走している熱を逃がすために衣服を緩めた。
「…聞いてませんよ、こんなのは」
だいぶ不測の事態が積み重なっているようだ。
『あの無責任コンビ、どーしてくれるんですか!』
主に青年の方だ、責任者は。
愚痴も怒りもぶつけようがない相手に、心中で悪態をついた。
寒いですねー。
風邪引かないようにしたいですー。
ヘクチュン( >ε<)