ティアラ2
「──お前は一回初期化しとくか?」
エドワード卿に言われてしまいましたが、断固拒否したいです。
「そうなったらマスターのお世話出来ませんよ!」
…めっちゃ怖いです……。
この人に普段から悪態つけるマスターをある意味尊敬します……。
「付属のどっちか入れてやったらどうだ?大人しくなるだろう」
「……記憶と技術と魔力、どれがいいか選ばせてやろう」
エドワード卿も魔女も目が笑ってないですよー
「マスターの記憶はダメでしょー。マスター消失しかねませんよぅ」
となると技術と魔力…技術一択しかないです!
化け物もご免なさいして土下座するマスターの魔力とか無理です…。
「じゃぁ記憶は宇宙船の仮想空間に入れておくか」
そんなわけで、マスターの危険極まりない技術のあれこれ──どうも魂魄から分割した【知識】みたいですー──がインストールされました。が…。
「…容量が大きすぎて…意識が飲まれ…るで、す…」
「おい!」
物凄く…心配そうな顔した二人を見て──強制再起動が掛かってしまいました。
『…強制再起動中…プログラム5%破損あり…デバックします……除去不能。破損データーを隔離します……』
──何度目かの再起動を試みたあと、破損したプログラムをバグとして取り込んでしまった──
「ファナは平気…そうか?」
ゆっくりと目を開く──うん、認識は出来ているようです。
「…大丈夫です。最長老……。」
エドワード卿は額に手を当てて少し俯いていた。
『…やっちまった…怒るだろうなぁ……これは。』
心の声であったはずのものが漏れて聞こえてきた。
マスター戻ったら怒られて下さいねー。代償が高そうですけど…。
「…取り敢えず、今現在のお前は【ファナ】と言うのはどうかと思ってだな……。バグってるようだから」
最長老が渋い表情しています。
二人で壊したようなものなので、マスターから纏めて八つ当たりは決定事項ですもんねぇ。
「…仮称として、ティアリエル…ティアラと呼んどくか……はぁ」
溜め息の付き方、マスターにそっくりですね…エドワード卿は。
私は首をかしげる。
「どこからその名前来たんですか?」
まだ少し項垂れているエドワード卿。伏し目に成ってるところも世のお嬢様方の目の保養になるんでしょうが…私には恐怖しかありません。
「お前さんのプロトタイプの名前だよ」
まぁバグ取り込んじゃってるので、そこら辺は臨機応変でも良いですし。ファナのバックアップは多分あると思いますし…。
「ちょーっと問題があって、だな。本人起こせるのが二百年先なんだな」
…普通のひとなら死にますね?
その時間は…死にそうもないのが私の目の前に居ますけどね。二人ほど。
「【神託】が降りてな…」
言いづらそうに最長老様が話し始めた。
──特異点の発生の神託──
約一万年後とのこと。
「一万年後って、どうしようも無いじゃないですか?」
「ちょっと未来行って確認してこい」
エドワード卿、無茶振りのメーター振り切ってますよ……?
「目の前に宇宙船あるだろ?」
…あの、ちょっとコンビニ行ってきての調子で言うことじゃないと思いますけど?
「粒子加速器とか積んでおいたから、反物質作って光速で二百年走ってこい」
頭おかしいこと言われている気がします。
エドワード卿もマスターの身内だけあって頭のネジどっか飛んでますよ…これ……。
「エドワードが手短に説明したら宇宙船ごと宇宙空間には転移してやる」
ニヤリと笑った最長老は、マスターを彷彿とする黒い笑顔だった。
・二百年経ったら自動でマスターの記憶が起きるので、仮の身体として私のボディに仕様が似ているものを用意。と言うか起きた時点で今のマスターを投影して自動生成してくれるようです。魔力でゴリ押しですって…。魔法万歳!って言いたいけどそれってどうなの…?
・取り敢えず宇宙空間では反物質作りまくって加速しろ。
・こっちに戻ってくるときはルシェに魔力解放させろ。たぶん封印もほぼ同時に解けるから、行ける行ける。
・便利な道具は幾つか貸してやる。壊すなよ?
三つ目が有り得ないんですけど!
まさかの、マスターに全丸投げ……そんな軽くいうとか有り得ないー!
「…じゃぁ行ってこい」
宇宙船に強制的に押し込められた私達は、美少女の感情のこもらない声と共に文字通りに放り出されたのだった。
私は、氷がなくなった氷沙漠で不機嫌そうなマスターを見ている。
あの時と変わらない同じ色の髪が風に揺れる──オッドアイだけは再現出来なかった様でルビーのような煌めく深紅──これはこれで可愛いと思うの。
『帰ってもそろそろいいかなぁ…。』
帰れるかどうかが運次第な所がありそうだけど……。
マスターが記憶欠落多くてねぇ……それはそれでこの人は幸せなのかもしれない。
まぁ私はマスターがいればいいんですけどね。
少し長めになりました。
三話にするほどでもなかったので…(・ω・)