ミルクティー
「…一回話を整理しましょ…。聞きたいこともあるから」
起きたばかりと言うのに既に疲労感を感じている。
「あの人の事、聞きたいんですかぁー?」
聞いても良いことないと思いますよーと続く。
「マスターの記憶が少々抜けていたり、色々と違うのは仕方ないんですよぅー」
それに続いた言葉は、どこか無機質に感じられた。
「だって、わざとそういう仕様になってるんですから」
「聞いたって本当に良いことないし、必要と思われる最低限の部分はマスター自身ですしー」
彼女の現状ってどうなっているのか…それが知りたい。
二百年、と言ってもこの速度で動いてると時間のずれが生じてしまう。地球上と一万年を越えるずれが想定される──生きているとは思えないが。
「最長老とかー、他の気合いある人なら生きてるかもしれませんけどね」
指折りしながら人数を数えているようだ。
だが、気合いだけで生きていられるものでもあるまいに…しかも複数とか……。
「寧ろ他の人間文明が終焉迎えてそーな年月ですよねー」
まー、あの人の一族が揃いも揃って常識ないんでー。誰かはいますよーきっと。サバイバル能力高そうですしー。
言い方が雑なこと、この上ない。
「…んー。そろそろ頃合いかも知れませんねー」
──マスターも、頭冷えて冷静になれたんじゃないですかー?
「紅茶、淹れ直しますねー」
一度、ティアラによって強制的に話を折られた。
紅茶を淹れ直しているティアラを横目にぼんやりと考えた。
『…紅茶イコール生命線って刷り込まれてるのかしら?』
新しく淹れ直された紅茶は、それまでのストレートティーではなかった。
──白濁した、茶褐色──
ミルクティ…。
嫌がらせなのか?
「普通のミルクティーですよー」
混ぜ物しても、砂糖とミルクで誤魔化せる!と言ったのはどの口か?
「あー疑ってますねー?流石に目の前で入れませんよー」
「…毒味、して?」
「物理的に無理でーす。ミルク成分で壊れやすくなるのでー。今ティアラ壊れたら困るのマスターですよぅ?」
壊れる…?
精神は色々ぶっ飛んでいると思うけど…。
「えっとですねー。ティアラ、ヒューマノイドですからー」
アンドロイドとも言う存在だ、と。
二百年も普通の人間生きていられるわけがー無いじゃないですかー。
えっ?気合いで生きてるかもって?まともじゃない人達と一緒にしないでくださいよー、やだー。ティアラ、傷つきますよー?
中身の組織組成はー非公開でーす。
用法用量を全く守らない技術の産物なのでー、色々とバレると困るからって最長老に宇宙に放り出された次第ですよー。
情報量が多すぎる…。
情報量が多い割には、自分が聞きたいことはかなり少ない。
知りたいことが聞けるまでに、何度紅茶が出てくるだろうか…。
ミルクティーを見て溜め息がでてきた。
目の前にメイトーのロイヤルミルクティー。
味が濃いめだから、何か混ざっても解らない。