ゴブリン皇帝の登場
事態が動いたのは、その日の夕刻になってからだった。
マミエルの報告によると、骸骨やミイラの戦士たちが一斉に弓を引き、王国軍の陣に攻撃を仕掛けたという。
「冒険者vs王国軍vs不死者か」
そう言うと、イルースィヴも頷いた。
「冒険者たちの反乱も疫病で鎮圧されるかと思っていたが、これでわからなくなったのう」
「不死者は動きも鈍いし、王国軍の兵力も減らないんじゃないか?」
そう聞くと、イルースィヴは首を振った。
「よく考えてみよ。相手は動く骨やミイラじゃぞ。倒すだけでも一苦労で、武器も痛み、そのうえ精神的にも交戦した兵士たちは追い込まれる」
一理ある意見だと思った。
「た、確かに……冒険者との戦いで疲弊しているときに、骨の相手なんてしたくないな」
「少しでも賢い指揮官なら、軍を退くじゃろうな」
イルースィヴの予想通り、王国軍は数日と経たずに軍を退いた。
疫病で兵を失ったうえに、不死者の軍勢にまで襲われてはたまらないということなのだろう。
冒険者側も不死者の侵入を警戒しているのか、城門を修復しながら警戒を続けていたが、不死者の軍勢が冒険者街を取り囲む気配はなかった。
9月の下旬に差し掛かったときも、マミエルやミエルは偵察を行っていたが、これと言って冒険者街の周辺に異常はなかったようだ。
「今日も偵察を行いましたが、これと言って異常はありませんでした」
「そうか」
俺はイルースィヴを見た。
「不死者を操っている者は、冒険者を攻撃するつもりはない……ということか?」
「それは解からぬが……このまま来年も王国と冒険者でつぶし合った方が、楽に死体も手に入ると考えれば、襲わないという手もあり得るな」
「ふむ……なるほど」
ジェイダンが汚れた服装のまま歩いてきた。
「ジェイダン……その恰好は!?」
「先ほどまでゴブリンの軍勢とやりあってたんだ。何でも最近……新たなゴブリン皇帝が現れたみたいでな」
そう言えばマミエルもこの間、ゴブリンの斥候を何匹か撃破したと言っていたな。俺の領内でも頻繁に見かけると言っていたし、警備を強化した方がいいかもしれない。
「そ奴らの拠点は?」
「確証はありませんが南の……ブラックビーチ地方と思われます」
「黒ブナ樹海か……」
「そういえば、ロプの奴も最近ゴブリンの襲撃が増えてきたと言っていたな」
「それは俺も聞いた。連中が侵入したらすぐにわかるように、南との国境地帯にミニトレントを植えたくらいだしな」
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「ジェイコブとローガンを、来月から自分の領内に戻してくれとも言っていたな。ゴルアース北部を治められる者はいるのか?」
「そのことなのだが……実は、エルフィーを領主にしようかと思っていてな」
イルースィヴは思案する様子で視線を上げた。
「あそこは野生動物の襲撃も多いからのう。少し不安じゃ」
「腕っぷしの強い補佐役がいればいいんだが……生憎、レクシーはスカーレットの牧場警備で外せない」
イルースィヴがこちらを見た。
「そのことなのじゃが、実はレクシーには妹がいるそうじゃぞ」
それは耳寄りな情報だ。
「その話、詳しく聞かせてくれ」




