ダンジョンボスになろう!
「では、シュジン・ホモ・サピエンス・ジャパン3世・コーダ」
ホモがとても気になるのだが、とりあえず「ははっ」と返事をすることにした。
「まずは拠点となるダンジョンを探すことからはじめるとしよう」
「ギョイにございます」
なんか参謀っぽいことを言ってみたけどサマになってるな。意味はわからないけど。
「普通に喋れ。お主が敬語を使うと何だか落ち着かん」
「お、おう……」
数時間かけて、樹海の奥に進むと川が見えてきた。確かバダルライン川だったか。
「入り組んでいるうえに、狭い道が多いな」
「まあ、この道幅があれば、歩くことくらいならできそうじゃの」
上流を目指して進むと、水の精霊や木の精霊の気配が強くなるのを感じた。
「マナの気配が強くなったな」
「幾分かマシ……というべきかの。もっと精霊が伸び伸びと暮らしている場所はいくらでもあるぞ」
川の対岸に目をやると、確かに妖精の数も多い気がする。
俺はまだまだ世間知らずなのだろうか……?
イルースィヴと共に上流を目指していくと、何百年と生きていそうな老木の前へとたどり着いた。
「立派な木だな」
俺はおや、と思った。イルースィヴが険しい顔をしている。
「…………」
「……」
「……」
「どうしたイル?」
そう声をかけると、イルースィヴは普段通り柔らかい表情に戻った。
「この老木を見ていたら……余も頑張らないといけないと思っての。ここで魔王を目指すことにする!」
「……そうか」
先ほどまでは、もっとマナが肥沃な土地を探すと言っていたが、そんなにこの老木が気に入ったのだろうか?
まあ、コイツに仕えると決めたのだから、その決定には従うことにした。
「魔王と言うより……お前が目指すのは獣の神じゃないのか?」
そう言い返すと、イルースィヴは首を振った。
「ここツーノッパで神は、人間に知恵を付けた者ただ一人。余が目指すのは……やはり魔王じゃ」
「そ、そんなもんか?」
イルースィヴは角を光らせると、俺の目の前に冊子を出した。
「シュジン・コーダよ」
「な、なんだ!」
「早速じゃが、お主をフロアマスターに任命する」
フロアマスターと聞いて驚いた。それって、要するにモンスターの貴族ということだろう。
「それはつまり、俺はモンスターから見て貴族や騎士になるということか?」
「おお、そういう考えた方もあるのう」
イルースィヴは真顔になった。
「お主に与える領地は、この先にある川原から、入り組んでいた獣道のような入り口までの区間じゃ」
「その場所の守りに専念し、他の場所には深く干渉するなということか?」
一般的なモンスターの常識を言ってみたら、イルースィヴは満足そうに頷いた。
「そうじゃ」
彼から冊子を受け取ると、冊子に俺の名が刻み込まれた。
「フロアマスター帳じゃ。中に金子代わりのマナポイントが記されているが、幾つと書かれている?」
「1000プラス200だな」
見たとおりに答えると、イルースィヴはポカンとした。
「え……いま、何といった?」
「1000プラス200だが?」
イルースィヴは、俺のフロアマスター帳を見ると、目を剥いて驚いていた。
「おっ、お主……魔王経験でもあるのか!?」
「いや、ないが……」
「いきなり霊力を1000ポイントも使える者など聞いたことがない。あの伝説のリュウでも……王国軍との戦いでの霊力は700だったそうじゃぞ!」
「そうなのか?」
イルースィヴは頷いた。
「父上が、まだ余くらいの時に見たと言っていた」
「で、どうやってダンジョンを守るんだ?」
「そのモンスターカタログで、魔物を雇ったり自らの肉体を強化したりするのだ」
「な、なるほど……」
俺は早速、フロアマスター帳のページを開いてみた。
そこには目次とポイント1200と記されている。
「モンスターの種類は豊富だが、どれから選べばいい?」
「まずは重臣……コーダ風に言えば中ボスを雇うことからじゃな」
「なるほど。中ボスか……」
どうやら冊子の中では、堕天使キャンペーンとやらを行っているらしい。
紹介手数料は200か。ちょっと値が張るけど……天使ということは空を飛べるからな。どれどれ……
「ちなみに、余の名はイルースィヴ・ホワイト・ディアー・聖樹守護・アサルトじゃ」
「おう! エントリーはこれか?」
「そうじゃ」
エントリーしてみると、イルースィヴは徐々に難しい顔をしはじめた。
「あ、ああ……」
「どうした?」
「すまぬ。余のせいで堕天使がみんなエントリーを敬遠しているようじゃな」
「どういうことだ?」
「ま、まあ……わかりやすく言えば、余は思った以上に堕天使に嫌われているようじゃ」
なるほど。確かにイルースィヴの毛並みを見れば、神と親しそうな存在だとわかる。
「ん……?」
「どうした」
「代わりに、天使がエントリーしてきたぞ」
「へ……天使が?」
「洗礼を受けずに命を落とした者か……これほど高潔な魂の持ち主が来てくれるとはな」
イルースィヴは俺を見た。
「会ってみるか?」
「ああ」
イルースィヴが角を光らせると、俺の目の前に純白の翼を持つ少女が姿を現した。頭の上に輪っかがないから、まだ天使ではないようだ。
「マミエルと申します。聖樹公の神気に惹かれました」
「ほほう……それは光栄じゃな」
「是非、仕官させてください」
イルースィヴは俺を見た。
「よいじゃろう。お主の直接の上司となる、シュジン・ホモ・サピエンス・ジャパン3世・バダルラインの守、コーダだ」
名前が長くなってる。と思っていたらイルースィヴは勝手に話を勧めた。
「給料の話はシュ……ゴホン、バダルラインの守と進めてくれ」
バダルラインの守か。何だか急に貴族になったような気分だ。
「かしこまりました。それではバダルライン卿……」
「ああ。君は幾らを希望するんだ?」
「では、200を」
基本料金だけでは安すぎないかと思いながらイルースィヴを見ると、表情だけで安すぎると返してきた。
「……300は必要だと思うが?」
「文官だけでなく武官としても務められるお主なら、400が妥当じゃろうな」
「ちょっと待ってください。私自身にも霊力があるのですよ。そんなにいただかなくても……」
「いや、400じゃ!」
「は、はは……ありがたき幸せ」
俺はイルースィヴからやり方を聞きながら、中ボスもとい重臣マミエルにマスター帳を与えた。
残りポイント800。さて、他にはどんなモンスターを雇おうかな……?
「あと、最後に1つだけ言っておくが……余を呼びたければ、そのマスター帳に呼びかければいい」
「わかった」
「くれぐれも、余の管轄するエリアに踏み込むでないぞ」
俺はじっとイルースィヴの目を見ると、黙って頷いた。
【イルースィヴからの挨拶】
都合が悪くなると居留守をする……かもしれないイルースィヴじゃ。
そんな余から、皆様にお願いがある。
【ブックマーク】の登録と、広告バーナー下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして欲しい。
なぜ、シュジン・コーダにあのような名を付けたかって?
ホモサピエンスとは、昔の言葉で賢い人間という意味になるのじゃ。他のヒト族より創意工夫に長けていての。一説では……(以下略)