迷馬ファルシオンさん
ユニコーンのファルシオンは、俺に近づいてきた。
「ねえ、バダルライン卿」
「何だ?」
「散歩行こうよ」
「一人で行ってこい」
「やだ。一緒に行こうよ」
「今忙しい」
本当は面倒くさいだけなのだが、適当にダンジョンマスター帳を開くとファルシオンは更に近づいて、前脚で地面を掻いた。
「散歩散歩散歩散歩散歩」
「3歩なら歩いただろう」
「散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩」
「やかまし!」
ファルシオンは不機嫌そうに言った。
「結婚してから、全く構ってくれないなんて……これって釣った魚にエサはあげないってこと? 失礼しちゃうわ」
「黙れ牡馬」
「こうなったら、因数分解の面白さを小一時間……語り続けるしかない」
こいつ。どういうアタマしてるんだ……
まあいい。気を取り直してダンジョンマスター帳でも見よう。
5月分は、2495ものマナ収入があった。
前月の繰り越し分の1665ポイント。
そして、北部から226、中央部から439、南部から206の収入があったので、全部を足すと……
「遂に5031ポイントか……」
俺はファルシオンを見た。
「ところでファル、給料いるか?」
「そんなことよりも散歩! そして遊んで遊んで遊んで!」
「こら……服を引っ張るな」
間もなく、ビリっという音が響いた。
「……おい!」
「今のは御愛嬌」
「ふざけるな」
ファルシオンはニコニコと笑いながら俺のダンジョンマスター帳を見た。
「この際だから、ミスリル服を買えば?」
「その前に、謝れこのウマ!」
「ごめんください」
「どこに訪問するつもりだ?」
フェアリーたちがクスクスと笑いながら近づいてきた。
――お楽しみのところ、お邪魔します
「今日はどうした?」
――せっかくユニコーンが仲間に加わったので、強化してみてはいかがでしょう?
ほう、強化か。確かにこいつの頭を良くすれば、もう少し徳の高いユニコーンになってくれるかもしれない。
「そうだな。何ポイント払えばいいんだ?」
フェアリーは、じっとファルシオンを見ると言った。
――そうですね。風の加護を得て空を自由に飛び回る力か、地の加護を得て錬金術を使う力のどちらかを付けてみては?
「どちらも我が軍にとって強力な力じゃな」
ちょうどイルースィヴも現れたので、俺の見解を言ってみることにした。
「個人的には錬金術の方が望ましいのだが……イルースィヴやファルはどう思う?」
「余としては賛成じゃな」
「水星の彼方からも祝福の声が聞こえてくるよ」
ちょっと、ファルが何を言っているのかわからない。
――では、地の加護を授けましょう。2000ポイントになります
さすがに高額だが、これでアルケミストが仲間に加わったのだから、長い目で見れば得な買い物なのかもしれない。
2000ポイントを払うと、ファルシオンの角が70センチメートルほどまで伸びた。
――それでは、我々はこれで失礼します
――次回は獣道の整備をしようと思うので、是非、前向きにご検討を……
「なあ」
そう声をかけると、フェアリーたちは珍しそうな顔をしながら振り返った。
――なんでしょう?
「ちなみに、風の加護とやらも2000だったのか?」
――正確に申し上げますと……ユニコーンの能力強化は、最初の属性で1000。2番目の属性付与に2000。3番目は4000。4番目は8000のマナを消費します
「な、なるほど……わかったありがとう」
フェアリーたちが去ると、俺はファルシオンを見た。
錬金術を覚えたということは、ゴーレムを作れるのではないだろうか?
「ファル」
「なあに?」
「クレイゴーレムを作ることはできるか?」
「うーん……どうなんだろう? 作ってみるよ」
ファルシオンは試行錯誤という様子で泥とにらめっこをし、1時間ほどで声をかけてきた。
「バダルライン卿! 頼まれていたクレイゴーレムが出来たよ」
「おう、そうか……」
そう言いながら振り向くと、そこには泥まみれになったファルシオンが立っていた。
「何だお前、泥浴びでもしたのか?」
「うん、体中に感じることで、ようやく泥の本質を理解したよ」
その直後に、仔馬サイズのゴーレムが姿を現したが、まっすぐに走っていき、木にぶつかって潰れてしまった。
「……」
「……」
「あちゃー……目の前に木があることが理解できなかったみたいだ」
どうやら、ゴーレム造りも前途多難のようだ。




