領土拡大
マミエルから聞いた話だが、作戦に失敗したコソックは赤鹿ロプの前にひれ伏していた。
「も、申し訳ございません!」
「……他に言うことはないのか?」
「は、はは……?」
コソックは、目を白黒させながら脂汗を流していた。
その表情は、俺、一応は謝ったよな。常識的に考えてこれ以上何をしろというのだ。と言いたそうだったとハトはいっていた。
赤鹿ロプは、真っ赤な目を見開いた。
「愚かな貴様のために、もう一度だけ聞いてやるとするかのう?」
コソックは唾を呑んだ。
「他に言うことはないのか?」
体中からは汗がしたたり落ち、目尻には涙が浮かび、体中が震えあがっていた。
「お、お、お許しください~~~~!」
「戯けぇ!」
「ひいいいいいいっ!?」
ロプは大きく息を吐くと言った。
「あのイルースィヴは、従者とみせかけた熊の暗殺者を返り討ちにするほどの者じゃ。なぜゴブリン程度で勝てると思った?」
「申し訳ありません」
ロプはため息をついた。
「馬鹿なお前に……もう一度だけチャンスをやろう」
コソックは安堵した様子で表情を和らげると、再びひれ伏した。
「イルースィヴのことだ。すぐにこの東ゴルアースに軍勢を差し向けてくるだろう。貴様はここに留まって、連中の侵攻を食い止めてみせよ。そうすれば降格だけは勘弁してやる」
「は、はは~~~~っ!」
「これ以上、我を失望させるなよ……いいな!」
「お、お任せください!」
コソックが下がったとき、ロプはどこか腑に落ちない様子で何かを呟いた。
「いかがされましたか?」
冒険者風の戦士が尋ねると、ロプはハッとした様子で表情を戻した。
「あ、いや……大したことではないのだが……」
「気になります。些細なことでも構いませぬゆえ、仰ってください」
「なぜ、あの利己的なイルースィヴがこんな所の魔王になったのか……不思議でな」
「そんなに利己的な人物なのですか?」
ロプはしっかりと頷いた。
「ああ、父上から巣立つ際に、どこの魔王になりたいか聞いたことがあるのだが、最低でもマナ月収2000ポイントはある領地と言っていた」
「た、確かにここは……肥沃ではありませんね」
「まあ、土地も少ないから、ここで妥協しただけかもしれんがな」
間もなく、ジェイダン率いるゴブリン部隊が東ゴルアース地域へと踏みこんだ。
報告の通り、コソック率いる東ゴルアースの守備隊の大半がゴブリン傭兵だった。コブリン同士で戦い合ったが、東ゴルアース側にゴブリンパラディンの姿はない。
「南バダルライン様……アイラ率いるアマゾネス隊が到着しました」
「よし、一気に攻め落とすぞ!」
レクシー率いるオオカミ隊も加わったことで、戦いは一方的なものとなり、総大将であるコソックは戦わずに本拠地を捨てて逃亡したようだ。
そして、俺とイルースィヴはジェイダンと合流した。
「ジェイダンよ。この度の働き……見事である」
「ははっ」
「お主に新しい名を与える。ジェイダン・ホモ・サピエンス・ゴルアースの守、スミス」
「ありがたき幸せにございます!」
ジェイダンは今にも泣きそうなほど喜んでいた。名前まで貰えたということは、名実ともに貴族になったということだ。
「そして、ゴルアースの守の領地は、この東ゴルアースじゃ。旧領である南バダルラインは……バダルラインの守……お主に与える」
「わかった。統治はそうだな……」
俺はすぐにアマゾネス隊長のアイラを見た。
「アイラ、君に任せよう」
「あ、ありがたき幸せにございます!」
今まで話を聞いていたエルフのスカーレットも言った。
「聖樹公。忘れないうちにご報告したいことがあります」
「なんじゃ?」
「バダルライン北部を平定いたしました」
「ほう……そうか! では、北部は貴殿に統治をお願いする……ということでいいか?」
「賛成だ。引き続き……頼むぞスカーレット」
「ははっ! それから、バダルライン卿」
「どうした?」
「北にはオオカミの群れが多数いて、よく侵入してくるのです。レクシー隊の手がもし空いているのでしたら……」
「わかった。来月の頭で良ければ手配しよう」
イルースィヴは上機嫌に歩いて行こうとしたが、ふと足を止めた。
「そう言えばシュジン」
「なんだ?」
「よく考えれば、これでバダルラインは完全に平定されたな」
「そう言われてみればそうだな……」
イルースィヴは俺を見た。
「そのダンジョンマスター帳の能力が上がってるかもしれんぞ」
そうなのだろうかと思いながら、俺はダンジョンマスター帳を眺めた。見た目も項目も、あまり変わったようには見えない。




