まだまだ続く、王国と冒険者の戦い
10月の初旬。
冒険者街とその周辺は、濃霧に覆われ上空からの偵察でも、すべては見渡せない状況となりました。
そんな中、音を立てずに街の門が開くと多数の冒険者たちが出撃し、王国軍の本陣を目指して攻撃を開始しました。
「……!?」
「て、敵襲!」
騎士や兵士たちは突然の攻撃に浮足立った。馬を逆に乗る者や、仲間同士でぶつかって転倒する者が相次いでいます。
冒険者たちは、そんな騎士たちに次々を襲い掛かり、ひとりまたひとりと名のある騎士を討ち取っていきます。
「王国騎士を……舐めるなよ貴様ら!」
しかし、兵士たちはひとたび体勢を立て直すと優勢となりました。彼らは戦争の専門家なので、こうなるのは当然かもしれません。
じりじりと冒険者たちは劣勢になり、崩れる砂のように冒険者街や森の中へと逃げ込んでいきます。
「追え! ひとりでも多くの者を討ち取れ!」
森の中に逃げ込んだ冒険者2人組は、恨めしそうに王国の騎士たちを睨んでいました。
「これじゃあ、良くて痛み分けだな……」
「くっ……俺たちアイアンじゃ、どんなに努力しても特権階級には敵わないってことか!」
冒険者の1人は、どっかりと座るとナイフを出しました。
「もはや……これまでだ。すまない、先に逝くぞ」
「おい、ちょっと待て! せめて……最後まで戦おう!」
「今の戦いで、自慢の槍も折れた……これ以上は戦えない」
「いや、武器くらい……また探そうぜ」
「探すってどこでだ!? もう、冒険者街の門は閉まってるんだぞ!」
その言葉を聞いた、冒険者の相方も悲壮な顔をしました。
「そうか……そうだったな」
「ああ……このままじゃ飢えて死ぬか、あいつらに捕まって拷問されるかのどちらかしかない」
冒険者はお互いを見ると、ナイフを構えました。
「じゃあ、俺もお供するぜ」
「ああ、黄泉路の道中も……お前がいれば心強い!」
「ちょっと待たんか」
冒険者たちは藪に目を向けました。そこから出てきたのは赤毛の喋るシカでした。
「し、シカが……」
「喋った!?」
「我は、あの偉大な大鹿アサルトの仔じゃ。お主ら、我が家臣になってみる気はないか?」
「喋るシカ……確か、死んだはずじゃ……」
「あ奴は、我が兄弟のひとりじゃ。とは言っても腹違いだから特別な感情など持ち合わせてはおらんがの」
冒険者たちはお互いを見ました。
「これはまだ、いけるかもしれないな!」
「ああ……天はまだ、俺たちを見捨ててはいなかった!!」
そのやり取りを眺めていた私は飛び立ちました。皆さまはもうご存じだと思いますが、私はマミエル。バダルライン卿の部下の天使です。
これらの出来事は、すぐに聖樹公に報告しました。
「赤毛の喋るシカか」
「はい。自ら大鹿アサルトの仔と名乗っており、口調も聖樹公に似ていました」
「……心当たりが多すぎてわからんのう」
私は意外に思いました。聖樹公ならすぐに誰か見抜いてくださると考えていました。
「余は1619頭兄弟のうちの1273男じゃからな」
「…………」
確かに、1619頭もご兄弟がいらっしゃるのなら、誰なのかわかるはずがありません。
「まあ、今の段階で生きているのは……500頭に満たないだろうがな」
その直後に、聖樹公は険しい表情をなさりました。
「この威圧感……もしや」
「……」
「……」
「やはりそうか」
「いかがなさりましたか?」
「この近郊で魔王になることを宣言した者がいる。お主の言った余の兄弟の誰かかもしれん」