ボロアパートで箱入り娘が一人泣く
「なろうラジオ大賞2」参加作品です。
指定ワードは「ボロアパート」を選びました。
何でこんなボロアパートを選んじゃったんだろう…
夜中にぐちゃぐちゃに散らかった部屋で一人、泣けてくる。
実家に迷惑をかけたくなかったから。
実家からでも片道二時間かければ大学まで通えるのに、「もうすぐ二十歳だし一人暮らしをしてみたい」という軽はずみな私の提案を両親に受け入れてもらう為には、出費を最低限に抑える必要があった。
築三十年二階建てのボロアパートの一階。ゴミ捨て場に一番近い部屋なので、玄関から大嫌いな虫も侵入してくる。
授業と部活とバイトでヘトヘトになって帰っても、「おかえり」と笑って出迎えてくれる母も父も愛犬もいない。
真っ暗な部屋。
少し斜めに傾いた茶色い床。
おそらくビー玉を置けば、コロコロ転がっていくだろう。
思わず泣きそうになる。
母と父と一緒に物件見学をして、二人共「良いんじゃない」と言ってくれたので、両親の気が変わらない内に契約してしまおう!と浮かれてすぐにこの部屋に決めてしまったが、超O型の家事もろくにした事がない奴が住むと、こうも全く帰りたくない部屋NO.1に様変わりするとは…
ああ、母が作った温かいご飯が食べたい。
誰かときちんと整った部屋で、テレビでも見て笑いながら食べるご飯が恋しい。
そんな事を思いながら、冷蔵庫から明らかに自分がラップで包んだと分かる不恰好な玄米ご飯と、冷たくなり過ぎた納豆パックと卵をのそのそ取り出す。
ーチーンー
電子レンジの音がやけに響く。
ここは静か過ぎる。
自分以外の音が欲しくて、帰宅後はすぐにテレビを付けるようにしているが、寂しさは消えない。
寂しい。
もう実家に帰りたい。
電車三本とバス一本で約二時間。
帰ろうと思えば帰れる距離なのに、明日は朝から授業があるから…と自分に言い訳をして、もう飽きてしまった納豆卵かけ玄米ご飯を口に入れる。
テレビの音と自分の咀嚼音だけの世界。
白米だけでなく玄米も混ぜて炊いているのは、栄養満点だった実家のご飯に少しでも追いつけばいいなと思ったから。
友人がいない訳ではない。大学生活もそれなりに楽しくやっている。それでも、一人の夜の寂しさに押し潰されそうになる。
「元気ですか」
見計ったように母からメールが届く。
全ての気持ちと涙を隠して、なかなか温もらない指を動かして、一言だけ返す。
「元気だよ」