96 魔女の家③ エレノアの座り心地
■クレア 主人公14歳 ♀ 黒髪瞳 細め 力ない 弓槍得意
■エレノア 主人公14歳 ♀ 猫の獣人 茶髪鼻 尻尾黒 体術料理 耳の位置は普通
■アルマ 12歳 ♀ 魔女(孫)薄茶の髪 どんぐり帽子 ワンピ 履いてないこと多い 人見知り
■ローレンス 60代 ♀ 魔女(祖母) 白髪 気品 白シャツにスカート お仕置きはする
ローレンスが全員分のお茶を入れ終わり、アルマ以外は席につく。すぐに何かを思い出し席を立った彼女は隣の部屋に行くと、手紙のたくさん入った小さな木箱を一つ抱えて戻ってきた。テーブルに置くと二人に差し出す。
「ようやくこの手紙たちも本人の元へ届いたわね。はい、二人にお手紙よ。クレアとエレノア宛にずっと来てたの」
「え?」
「どういうこと?」
この街へはまだ来たばかり。一体だれが自分たちに手紙など出すのだろうか? 差出人を見ると、トンボやエリー、ノラやダンからだとわかった。エレノアの家族が旅の間ずっと手紙を出していたのだ。もちろん、クレアとエレノアも村や町で手紙を出していたがそれは旅の途中。手紙を送ることはあっても、返事をもらうことはない。
家族で一通ではなく、各々が思いを込めて書いている。そのせいで手紙の数はかなりの量になっていた。といっても、殆どはエリーとトンボの他愛のない話だ。
「おほ! これみて、まずはこれを開けてみよう! 一番大きくて、分厚いやつ!」
「何が入ってるのかしら? 手紙じゃなさそうね」
エレノアが木箱の中から一番膨らんだ封筒を取り出し、ウキウキしながら開けていく。すると中には干からびた虫と『でっかいの捕れた!』とだけ書かれた手紙。エレノアはしばし黙ったままそれを見つめると、すぐにゴミ箱に捨てた。
「あははは。あの子達らしいじゃない」
「いやいやいやいや、だからってさぁ、旅をしている姉に向かって虫を送りつけるかぁ? エリーはほんとにいたずらっ子だからな」
「随分面白いものを送ってくるのね。初めて二人に手紙が届いたときは大変だったのよ? ミシエールに来るクレアとエレノアへ! って宛先にあるだけだったんだもの。届け先がない上に、まだ来てないんじゃ渡しようがないでしょ? 困った配達の人がいよいよ私のところへやってきたの。で、相談を受けた時に思い出したのよ。二人の名前を」
「どういうこと? えっと、街の魔女様、ローレンスおばあちゃん、魔女ローレンスばあちゃん?」
「いいのよ、私のことはローレンスって呼んで。それにしても二人とも、随分と時間がかかったのね。ウィリアムから貴方達二人の話を聞いていたけど……。私の見立てだと、ここに来るのは半年くらい前だと思っていたのだけれども」
クレアとエレノアが顔を合わせる。先に笑ったのはエレノア。当然だ。道草するし、迷子になるし、何かを追いかけるし、いろいろなことが起きる原因は彼女。次に笑ったのはクレア。それも当然だ。困ってる人を見つけては助ける。それは人に限ったことじゃない。動物だってそうだ。そんなこんなでお互いにここあたりがあり何も言わずに笑ってごまかす。
「色々あって……」
クレアがそう言うと、ローレンスは肩の力を抜いて微笑んだ。
「ええ。噂程度では二人のことは聞いてるのよ。ギルドの情報が更新されたのは少し前のことだし、いろいろな噂話としても耳に入ってるわ。本人から直接聞けるんだし、今日は楽しい日になりそうね」
まだ昼にもならない。朝、テサの家を出てから魔女の家に来て、エレノアが魔法にかかってお茶をしてる。時間はたっぷりある。
「はい。私もローレンスに聞きたいことがあって。最初は、意味もわからずここへ来ることが目的でした。でも、今はまず自分のことが知りたい。魔女のことが知りたい。魔法のことが知りたいです」
「ふふ。いい心がけね」
「お父さんに会ったことあるんですか?」
「ええ。何回かね。何年か前にもふらっと来て、あなた達二人が来たらよろしくって言ってたわよ」
そもそも父親のことを『ジョゼフ』ではなく『ウィリアム』と呼ぶということは、本名を知っている仲だと言うこと。それに優しそうな人柄がすごくにじみ出ている。住んでいた森にいたおばあさんほどではないが、とても暖かい。クレアは包み隠さず彼女に今までのことを話すことにした。
一方、同じ席でクレアとローレンスが旅を始めた時の話を始めた。だが、エレノアはそれどころではない。テーブルの上には今、親指ほどの小さい猫のアニムがいっぱい並んでいるのだ。十人、手紙が入っていた箱から「よいしょ、よいしょ」と出てきた。何故か自分と同じようなパンツを履いている。彼女は今、十人の小人アニムに夢中なのだ。
さらに少し前、お尻の痛いアルマは座れずに困っていた。彼女は猫が大好き。そして目の前には猫のアニムがいる。無意識に動かしているであろう尻尾。ふわっふわの黒いパンツ。あそこに座ったら気持ち良さそうだ。痛いおしりもどうにかなるかもしれない。しかも、猫ちゃんだ。アルマはクレアとローレンスの話よりも、今はペンペン草で痛くなったお尻の置く場所にどうやって行くか考えていた。
我が椅子になるべくエレノアが次から次へと箱から手紙を出しては読んでいる。そうだ! おばあちゃんとクレアは何やら話し始めそうだし、別に悪いことに使う魔法じゃなければ怒られない。そして、精神魔法をかけて小さいアニムを十体、彼女に見せている。
時は戻って、エレノアの丸くなった目。手には握りしめた手紙、顔は止まったまま、視線だけが十体の小人アニムの一人目から十人目までを見つめる。整列して何かを待っているようだ。
すると箱の影から別の生き物がやってきた。丸く白いモコモコ。うさぎのように長い耳だけど、足は鳥のように細い。ただそれだけ。次から次へと現れ、ヒョコヒョコと歩いて小人アニムが整列する前を通る直前に止まる。
何やら相談してる。一匹目が数回ジャンプして鼓舞すると、胸を張り整列する小人アニムの前をあるき始める。しかし、たった一人目を通過するあたりで体力が限界で崩れていく。すぐに走りよる小人アニム。泣きながら抱きかかえると、もとの位置に戻り膝に白いフワフワを乗せて座り込む。するとパァッと輝き、二人とも幸せそうになった。
続いて二匹目。同じように整列する小人アニムの前を通る。しかし二人目の前で倒れる。折れた足で頑張るが、結局プルプルと倒れた。走りよる小人アニム……。
同じようなことが九匹連続して続いた。皆ドラマがあり、諦めない。応援しながら進んでいく。三人目、四人目と少しずつ限界が伸びていく。特に七匹目はすごかった。思わず叫びそうになってしまった。そして、十匹目。あと一歩。あと一歩で整列する小人アニムの前を通り過ぎることができたのに、階段を降りるように崩れていった。涙ながらに抱えられ、同じように膝の上に載せられる白いモコモコ。
惜しかった。もう少しで通過できたのに! でも、みんな幸せそうだ。全員が同じように収まると、突然に皆が立ち上がり同じ方向を向いた。エレノアも思わず振り返ると、そこにはどんぐり帽子をかぶった大きくて白いモコモコがいる! なんと、これは困った。このままでは膝が足りない!
エレノアはすぐに自分の膝を大きい白いふわふわのために開放すると、両手を広げ合体する。ちょうどいい大きさ、ちょうどいい重み。ちょうどいい香り。ちょうどいい抱き心地。白いモコモコも、エレノアも満面の笑みで天井を向いて幸せを噛み締めている。
少し前からクレアとローレンスはそんな様子を見ていた。なぜかエレノアが両手を広げてアルマを抱きかかえた。何も言わないでと首を振るローレンスに、クレアは頷きエレノアとアルマの幸せそうな顔を見つめていた。
「――、つまり魔女にならないかってことが心配なのね」
「はい……」
少し困惑した様子を見せるローレンス。記憶の中を探るように頭をひねり何かを探している。
「そうね。現時点で言うならその心配はないわ。ただ、不明な点も多いからあくまで現時点での答えね」
「どういうこと?」
「まずは魔女になるんじゃないかって心配のことだけど、クレアのように若い子が魔女になった例はないの。ただ、かなり昔のことだけど魔女を殺すために森の近くから女性を非難させたこともあるのよ。その時は成功したみたいだけど、偶然通りかかった女性の旅人が変異したという話もある。それも魔女を殺してから数か月後の話。それが殺された魔女なのか、新しい別の魔女なのかはわからない」
「え? それじゃぁもしかしたら」
「あなたの言っていた場所では新しい魔女の報告はないわ。それに光の魔女の方は安心していいわよ。彼女たちが新しい森の魔女を生むことは無いといってもいいわ。ただ、気になるのは魔女に傷を負わせたということね。それ自体は腕のいい冒険者や魔法使い、子供にだって可能よ。問題は彼女たちの回復力なの。すぐに元に戻るということ。ただ、貴方に切られた部分は戻らなかったんでしょ? それが不思議なのよね……いや、でも、まさか……」
ローレンスがぶつぶつと何かを言いながら考えている。クレアはひとまず安心していた。まだしこりは残るが、少し肩の荷が下りた気がする。考え事が終わったローレンスがクレアにもう一度聞く。
「船での出来事だけど、貴方を中心に黒い渦が出来てたってエレノアが言ってのよね? ねぇ、エレノア? それはどういう感じだったのかしら? エレノア??」
「んあ? ああ、あれね。えっとね、クレアを中心にして黒いモヤみたいなものが集まって渦みたいになってた。まるで周囲から集めてるみたいだったよ。そしたらさ、クレアがすごい怖く感じたんだ。怒ってるっていうか、なんていうか」
「クレアはその時のこと覚えてる?」
「なんとなく……夢中だったから、いつからそうなったのかわからないけど。何か重く、深く、冷たく、あまりいい気分ではなかった。ぽっかり空いた穴にひたすらに何かが埋まっていくの。でも、決して満足はしない。埋まらないんだけど力がすごい漲ってきたの」
「うーん……まだ、仮設の段階だし、そんなことありえるのかしら。そうね、あとで渡すものがあるけれど、今はちょっと覗いてみようかしら」
「おばあちゃん! やめて、その人、クレアは何か怖い」
「あらまぁ、そんなこと言うもんじゃありませんよ。それならアルマのしてることだって怖いことでしょう? あなたはその恐怖をみんなに強制的に、一方的に魔法で与えているんですよ。少しは自分のことも考えなさい」
「でも、クレアのは何か違う。おばあちゃんに何かあったら」
「大丈夫よ。ちょっとのぞくだけだから」
止めるアルマと話をしながらローレンスはクレアの傍にくる。立ち上がったクレアの胸に彼女が優しく手を置くと、目を閉じ、クレアの中を調べ始めた。「ほえぇ」と様子を見るエレノア。
ローレンスはクレアの中に意識を集中させると、その深さに驚いた。いけど、いけど、まるで見えてこない。何も見えないのだ。街の魔女には魔法使い希望の人がたくさんやってくる。そういう人たちの中を覗き、資質を調べることは日常よくあること。普通は入った瞬間に何かしろの色や明かりがあり、それが個人の特徴や資質を表す。
汗をかくローレンスをアルマは心配そうに見つめている。こんなに潜っていたことなど見たことがない。当の本人であるクレアはいったい何をされているのかわからず、視線のやり場に困っている程度。おばあちゃんは手を当てたまま帰ってこない。声をかけたいが無理に戻すのはあまりよくないこと。アルマは落ち着きなく二人の様子を見守っていた。
これ以上は危険だと判断したローレンス。彼女の中では時間が曖昧で何秒、何時間、何日、何年進んだのかわからなくなりそうだった。戻ろうとしたその時、彼女は身の毛もよだつ思いをした。
進んでいたと思っていた場所。そこは精神的な世界であり、空間で感覚で光で色である場所。真っ暗な彼女のその場所から離れようとしたとき、真っ暗な闇よりさらに黒い何かが動いたのだ。それも目の前にいる。大きすぎて気づかなかっただけのことだ。崖に鼻をつけて上を見上げるほどにそれが何かわからない。だが、暗闇の中で動くさらに黒い何か。彼女はすぐにその場を離れ、彼女から出ることに成功したが膝をつき震えた。
「おばあちゃん! だから言ったのに。クレアは変。何かおかしい」
「おい! おかしい、おかしいって言うなよ!」
怒るエレノアを睨みつけるアルマ。ローレンスは支えられ椅子に座るとお茶を一杯飲みほした。気まずい空気の中、クレアがかねがね聞きたかったこともあり彼女に問いかける。
「あの、私は魔法が使えないって言われたこともあります。どうですか? 今ので何かわかりました?」
「そうだよ! クレアってば魔女の力は使えたんだ。魔法だってきっと覚えられるはずだよ? どう? どうだった? ローレンス?」
ローレンスは二人の様子を見て、ふぅと一息。首を振る。
「魔法も何も、クレア? あなた……魔女に呪われてるわ」
「え?」
「え?」
■ペンペン草 お尻を叩くのにちょうどいい 保湿効果も高い
■アルマは猫ちゃん大好き




