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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第五章 湖の街ミシエール
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94 魔女の家① 猫ちゃん死んだ

 ミシエール生活一日目――。


 クラインとテサ老夫婦のかわいらしい木の家で一泊した二人。朝早くに出ていったクラインはいつもの場所で誰も来ない湖対岸の草原で居眠りしながらシカシカ待機。


 テサは街側でのんびりと話や編み物、読み物をして過ごしている。昨日は偶然居合わせたが、ほとんど時間を街に行って過ごしているそうだ。それも話を聞いて当然だと思った。客がシカシカに乗船したのは数カ月ぶりだそうだ。


 朝ごはんをクライン抜きの三人で食べる終わると、クレアとエレノアは荷物を預けたまま街の魔女ローレンスの家へと向かう。クレアは部屋を出るときに、母親の服を優しく撫でる。昨夜、広げてみたときはまだ少し自分には大きいことがわかった。でも、あと少し。あと少しでお母さんと同じくらいの背になる。そう思うと、見たこともない母親の面影を懐かしく感じる。


 テサおばさんが「よかったらサイズを直しましょうか?」と言ってくれたが、すぐにテサ本人から謝罪の言葉が出た。上質の布にエルフの服飾技術、自分の手には余るとのこと。クレアもできればそのまま、自分が成長したらお母さんと同じ服を着たかったので、ちょうど良かった。


 魔女の家は大きい木の根元にあるという。街の一番奥にあり行けばすぐにわかるとのこと。エレノアと相談して街の観光はその後にしようと昨晩に決まった。


 クレアはまだ見たことのない母が使っていた服の名残でほんわかとしている。机においたそれに優しく手をおいて「行ってきます」と囁いていた。


 石畳の道を歩き大きい木へと向かう二人。道が次第に硬い地面へと変わる。よく見ると砂とも土とも言えない黒い粒の下にある細い根っこが踏み固められ道となったような感じだった。一体、何年、何百年、いやそれ以上、どれだけの人があるき続けて作ったのだろう。そう踏みしめながら二人は歩いた。


 次第に坂道がきつくなり、道はやがて階段に変わる。石の板だったり、割れて根っこだけだったり。草だったり。お構いなしの様子だ。今は明るくてわからないが、昨日見た花が生い茂っている。水中や根っこトンネルの中で照明になっていた花だ。これはきっとすごいきれいな風景だろうと期待する。


 昨晩はギルドからテサの家に行くとごはんやお風呂のあとにそのままベッドへ行ってしまった。外の景色よりも、母親の服の温もりに夢中だったから。


 階段を上がり続けると今いる場所がどの家の屋根よりも高い場所に変わる。道の先に庭付きの家があった。栽培しているのはほとんどが野菜のように思えるが、見たことのない物も混じっていた。

 

 家に関しては殆どの部分が木と同化している。もしかしたら木を削って作ったのかもしれない。ニ階と思われる部屋の窓は一部、家の壁というより幹についている。


「エレノア。ついに来たわね。あれが街の魔女ローレンスの住む家」


「やっとだね。クレア。どうしよう。森の魔女みたいにボロボロのおばあさんだったら」


「どうかしらね。でも、誰も見た目のことは言ってなかったわよ。それよりも、孫のアルマに気をつけろって昨日のフロガノスが言ってた。そっちの方が気になる」


「そうだね。帽子をかぶった女の子。何人か殺されたって言ってたね。っていうか、世界有数の平和の街じゃないのここ?」


「たしかにそうよね? そんなことしてるなら平和の街だなんて言えないもの」


「魔女が治安維持してるとかってことかな? きっと、悪いやつ、気に入らないやつをどんどん殺すんだよ。だから、ここには魔女を悪く言うやつなんていない。あら不思議、人は殺すのに評判のいい魔女の街の出来上がりってね」


「気を引き締めて入りましょう。できれば、ローレンス本人がいるといいわね」


「フライパン、持ってくればよかった」


「そういえば、エレノアの称号見た? 黒の叩き手だって」


「そうだよ。あんなの不採用だよ。あたしはやだよ『黒の叩き手』なんて。それに、絶対フライパンのことだよね? 魔女をぶん殴ったからな。アレで……」


「うふふ。おかげで助かったけどね。私なんか黒い風よ? もっと華麗なのがいい。きっと、黒い髪だし、エレノアの黒いしっぽとフライパン、そういえば私の剣も真っ黒になったものね。それにかけてるんじゃないのかな? お互い不採用ね」


「ああ。よし、それじゃ行きますか」


「うん」


 二人は歩幅を合わせ一緒に魔女の家の玄関へと近づく。扉の前に立つと二人とも足を止める。お互いの顔を見て「うん」と頷くと、クレアが扉をノックする。何度かノックをしても、返事がない。扉には鍵がかかっていなかった。


「中から呼んでみよ」

「そうね。行きましょう」


 クレアが取っ手を掴み扉を開ける。キィっと音を鳴らしながら押し続ける。次第に見えてくる家の中。初めて見る魔女の家。森で見た闇の魔女の洞窟のように、禍々しいものがあるのだろうか? 何か実験でもしてるような道具がたくさん並んでいるのだろうか?扉が限界まで開くと反動で少し戻ってきた。クレアから一歩進み家へと入る。


     ※


 後ろからクレアの様子を見ていたエレノアはブルブルと震えていた。どうしてクレアは大丈夫なんだ? よく見たらクレアってば厚着してるじゃないか! 何なんだここは? どうしてあたしはこんな薄着で来たんだ?


 混乱と後悔を抱きエレノアは氷でできた魔女の家を寒そう体を震わせ見る。バリバリと開けたドア。中も氷だらけ、吐く息は白いし、まぶたが凍って痛い。なんてこと!? 家の中には氷でできた蛇が動いている!?


 だめだ! もう耐えられない。どうして外はこんなに暖かいのに、魔女の家の中は寒いのか。しかも蛇までいる。こわい、気持ち悪い、寒い。我慢できずにクレアには悪いが外で待つと伝えた。


 外はポカポカ。ああ、あったかい。エレノアは日差しを受けながら足がうねうねと動いていることに気がついた。


「うおわっ!」


 魔女の家の前、道と畑と草だけだったはずなのに、いつの間にか足元には大嫌いな蛇だけで埋め尽くされている。細いの、太いの、色とりどりの、うねうね、うねうね――


 歯を食いしばり、嫌そうな顔で足を左右交互に上げて身の毛もよだつ思いで半分泣きながらどこかに蛇のいない場所がないかと探すと、目の前に一本の木があることに気がついたエレノア。


 あそこに逃げよう! そう思ったのもつかの間、それは蛇だけで出来た木のようなものだった。


「ギャアア!」


 声に出したつもりが、すでに毒蛇のせいで喉がおかしくなっている。口から泡が出ているのにも気づいた。足元では爪と皮膚の隙間から蛇が入り込もうとしている。


 飛んでくる蛇は穴という穴から侵入を試みる。振り払うもカプリ、ガブリと徐々に増えていく蛇の噛みあと。あたりが暗くなったかと思うと、木よりも太い大きな蛇がグルグルと体に巻き付いていくる。


 ぐぎギぎ


 締め付けられる中、エレノアは出せない声でクレアのことを考えながら次第に頭が爆発しそうな感覚になる。体中の血が、内臓が、頭に集まっていく。


「うぎゃっ」


 ポン! という音とともに自分の頭が爆発したのがわかった。飛び散る肉は蛇になる。きっと蛇が私の体を食べ尽くしたんだ……。


 ごめんね、クレア。あたし、死んじゃったよ。ごめん。これからだったのに。


 エレノアは死んでから、クレアに何度も謝る。視界が奪われ真っ暗闇の中でクレアの声が遠くから聞こえる。何層もの膜を通じてかすかに聞こえる彼女の声。


 クレア……あたしは死んだんだよ。頭が爆発したんだ。死ぬってこういうことか。きっと、魂が抜ける前なんだろうな。こうやって生き残った人の声を聞くのか……。


 


 ア!


 レノア!!


 エレノア!!!



 クレアは魔女の家を飛び出して、死んで体の冷たくなったエレノアに駆け寄っていた。その背後、玄関には一人の少女が立っていた。


 どんぐり帽子をかぶった女の子。髪が長く腰のあたりまである。袖なしのワンピーススカートにブーツ。深くかぶった帽子から見えるクリクリの眼は、クレアを見つめている。そして、


「猫ちゃん死んだ。次はあなた、黒髪」

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