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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
90/144

90 ★③ 赤の魔女

挿絵(By みてみん)


「姉御……、ほんとにこれでいいんですか?」


「あぁ? いいよ。ほらほら、いっぱい来たじゃん! いいねぇ、賑やかだねぇ、そんじゃ一発かますよ」


 体の大きなアニムと話をするのは赤い髪の女。赤の魔女だ。切り立った崖の上から下の広大な森を見下ろしている。長く赤い髪は風に乗りふわふわと漂っている。身に纏っているローブを取ると裸一貫。そばにいる大きなアニムは顔を赤らめ、


「ねぇ、なんで服着ないの? なんで、毎回そこからなの? 恥じらいはないの?」


「いいじゃん! 誰も見てないし! 気持ちいいのよ! 全身で感じるって、こういうこと。それ言ったらさ、あんたなんか毛だらけのままでしょ? その上からパンツ履かせたろうか?」


「いや、やめて。まぁ、獣化したら俺らも言えないっすけどね。でも体毛っていう服あるからさ。ねぇ、いい加減何か着ようよ」


 ふてくされた顔をしながらも、すぐに彼女の体を赤い髪がスルスルと移動し最低限の箇所で体を隠した状態になる。その頃には髪は短く、首と肩の間程度になっている。


「何日もかけたんだ。ド派手に行けば、あいつらもこの道をあきらめるだろ? そしたらあの子たちも船に乗るってもんさ」


「まぁ、そうなんでしょうけど。あ、ちょっと、なんで、なんで? なんで持ち上げるんすか!? 筋トレですよね? 筋トレって言って! ちょっと、お嬢! 姉御! やめ、やめて!」


「うおおぉらあああー!」


「いやああああーーーー」


 赤の魔女が体の大きなアニムを持ち上げるとそのまま眼下に広がる森へと投げた。勢いよく飛び、ドカン!と地面に刺さり色とりどりに爆発する。


 下では、魔女が出た噂を聞き冒険者ギルドから大勢の人達が派遣されていた。彼女は出来るだけ多くの人を集めた。一度の襲撃でここを通れないと知らしめるためだ。噂では魔物と魔女のどちらが本当なのか判別できなかった。


 お茶を飲む熊。相撲をする熊。爆発する熊。かと思えば、赤い髪の女性が旅人を助けたり、時に脅したり。何度か派遣した偵察、調査隊は皆違った情報を持ってきた。


 今回、各ギルドから派遣された人は精鋭の調査隊、熟練の討伐隊、先遣隊、物資含め総勢で数百人はいる。そこへ飛んできた謎の熊。地面に激突すると派手な爆発とともに大きな穴を地面に作った。ちなみに、数日かけて二人で用意したくぼみだ。よほどの衝撃がなければ崩れないほど深い所に大きな丸い空洞を作った。それが今、発動したのだ。


 すでに獣化した彼はアニムだとは気づかれないが、でかい。とにかくデカい。それに赤の魔女がちょっとオマケしておいた。当の本人はまだ気づいていない。


 地面のくぼみからゆっくりと歩いてくる巨大熊。ドシ、ドシと聞こえそうな歩き。待ち構える戦士たちに見えたのは、地面からゆっくりと上がってくるキラキラとした二本の角。そして次に頭、全身を色々と変色するキラキラした光に包まれている。首から肩へ光の鎧、いや、光の毛皮といった感じのものが熊を包んでいる。殆どの物が熊の姿を見てたじろいでいる。


 そして歩いて出てくる熊の腕が見えてきた。ここまで来ると殆どの人が怯んでいた。


 一番先頭にいる戦士は自分の持っている剣を固く握り直す。他の戦士よりも「俺の剣は大きいぜ! どんな魔物だろうが、魔女だって俺のひと振りをまともに受けて立ってられるはずがねぇ」と豪語し、皆もそれに賛同した。昨日のキャンプでのことだ。それが今、誰しもが思う。


「爪楊枝じゃん」


 戦士たちはゴクリとつばを飲む。大検を握る男は嫌な期待を背中に感じる。偶然とはいえ熊に一番近いところにいるせいもあった。昨日のキャンプで力自慢して勝っているのもある。誰よりも、大きくつばを飲むと男は剣を構えジャリ、ジャリと数歩前へ出た。


 巨大な熊が片足を地面に乗っける。ドシ、ドシとその太い両足で彼らと同じ土俵に立った。熊は自分の影を見てふと気づく。


 え? なんで角が生えてんの?


 熊は触って確認しようと両腕を上げる。目の前の戦士たちがいる中で、角なんか確認したら弱く見える。すぐに行動を威嚇に移し、体を大きく見せるように咆哮を揚げた。


 戦士たちが騒ぐ姿が見える。でも、まだ退かない。当然だろう、しかし、何かおかしい。彼らの視線が角から胴体、股間へと行く。しかも頻繁にだ。


 おいおい、普通こういうときは目を見るんじゃねぇのか? キョロキョロしすぎだろ? 


 熊はそう考えていたが、彼らの言葉がその真実を伝えてきた。


「おいおい、あの化け物、なんかキラキラした女みたいな鎧つけてるな」

「ああ。メスじゃないのか?」

「あぁ、メスなのかもな」

「オスじゃなくてよかったな」

「幾分、力が弱いかもしれん」


 熊は恐る恐る自分の姿を確認する。身にまとっているのは赤の魔女の力で、光の鎧で色の移ろいを眺めているだけでも飽きない。今日は絶好調で角二本オマケしてくれた。でも、何なのこれ? これはいらない。これは、いらない! 熊は心の中で叫びながらもうテンション上げてごまかすしかない。


 なんで、おむつみたいなキラキラパンツはいてんのさ!?


 熊はもうテンションを上げて自分をごまかす。もう恥ずかしいとかそれどころじゃない。やることは、やらなきゃ!


「うわあああ! 化け物だ!」

「殺せ! こいつが正体だ!」

「たぶん、股間が弱点だぞ!」

「股間に攻撃を集中しろ! やたらあそこだけモリモリだ! きっと弱いから守ってるんだ!」


 熊の股間に向かって飛び交う魔法、矢、それが一人の獣化したアニムに向けられている。オムツみたいなパンツ。しかもキラッキラでいろんな色に光っている。彼は股間を守りながら暴れる。その様子を崖の上から見守る赤の魔女は腹を抱えて笑っている。


 熊は大勢の人を吹き飛ばし、彼らの武器を破壊し、その身で攻撃を受けて「全く歯が立たねぇ」と思わせた。


 そして、次第に弱っていくふりをする。

彼らに戦いとドラマ、絶望からの勝利を味合わせるのが役割。きっと本一冊かけるくらいのドラマが今、彼らの中で繰り広げられてるなろうなと考えながら、熊は予定通りに事を進める。


「もう少しだ! がんばれ! 俺たちは誰一人死んでいない。あいつは強いがこれなら――」


 熊がチラチラと視線を送るその先には赤の魔女がいる。彼女は戦う熊の「早く来いよ。いいから、もういいから、ねー、お願い!」という懇願の動きを見ると「よっ」と、崖から空高く飛んでいく。

 

 そして、それは突然にやって来た。上空から何かが落ちてきたのだ。小さな音、いや、大きな音か? 皆がその一瞬を目に焼き付けているせいで記憶があいまいだ。トン!と降りてきた赤い女。同時にドンっと衝撃波が飛んできた。あたり一帯の木々が倒れ、荷物が吹き飛び、土煙が舞う。


 ちなみにこれも数日かけた一番大変な作業だった。二人と動物たちにお願いして、木の根っこの土をもろくしておいたのだ。倒れやすいように。演出のために。目撃されているのはそういう作業の途中の喧嘩や勝負やお茶会だ。それも計算どおり……


「ううああ、あと少しだったのに。なんだ? 何が起きた?」

「わからない。何かが落ちてきた」

「女だ、赤い髪の女。見ろ、土煙の中で眼が光ってるぞ。魔女だ。魔女が出たんだ!」

「美しい……」


 ついつい見惚れてしまう程の美しさ。話に聞く森の魔女にはない美貌。赤い髪の女性は裸に近い格好で土煙の中を足を交差させながらこれみよがしに歩いている。


 手をパン! と叩くと、あっという間に風が駆け抜け辺り一面の視界が良好となる。暴れる熊の一撃を赤の魔女は平然と防御もせず受けながらゆっくりと歩いてくる。


 ちくしょう! パンツなんか履かせやがって! このやろう! このやろう! 


 熊は本気で彼女を殴っている。決して演技ではないし、派遣された人達からしたら必死に魔女を殴り殺そうとしている熊に頑張れとさえ内心思っていた。化け物だけでもすでに疲弊した部隊なのに、そこに明らかに異質な魔女が一人現れた。しかも敵の熊は魔女のことを必死に殴っている。もう、敵の敵は味方の精神だ。


 熊の攻撃に涼しい顔で歩いてきた赤の魔女が立ち止まる。熊の方へ振り返ると、彼女は熊をグーで殴り飛ばした。衝撃波で崖までの二百メートル近い木々が倒れ通路になるほどの威力。殴られた熊が物凄い速さで崖に向かって飛んでいく。彼は岩壁にぶつかる直前に「はぁ」とため息をつき、一言。


「この役、ハズレだよな」


 ドドドドドという轟音と共に崖が崩れた。熊がめり込んでいったせいだ。そして赤の魔女が振り向き、


「アタシに吹き飛ばされたい奴はどいつだ? ここは暫くあたしの森だよ。十秒やるよ。それまでにあっちに走らないやつはクマと同じ運命をたどると思いな。十……九……――」


 数百人近くで勝てない熊の化け物を殴り飛ばした赤い髪の魔女。しかも、着地した衝撃波だけであたり一面が森から平野となった。殴った衝撃でまるでそこが元々通路だったかのように木々が消えた。これが本当の化け物だ。皆が悲鳴をあげながら逃げていく。彼女は笑いながら何人かを追い回し、パン! パン! と爆発させて吹き飛ばす。上空にとんだ彼らは誰よりも早く前の方へ行き、『偶然』にも川に落ちて無事だった。


「ふぅ。これでよっし!」


 ガラガラと音を立て熊が出てきた。体に身にまとった色とりどりの光も消えて行く。


「マジで、次のクジはあたりの入ったヤツでやりましょ? 外れしかないクジをさも抽選のように引かせるのって詐欺じゃないっすか?」


「あははは! 確認もせずに乗ってきたのはあんただろ? あたしの勝ちだよ」


「そりゃそうっすけど」


「何言ってんの。アタシだって準備で色々手伝ったじゃない? さぁさぁ、後片付けだよ」


 二人は笑いながら倒れ樹を直していった。これはクレアとエレノアがアルフォンスの待つ港に来る少し前のお話。


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