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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
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78 約束⑥ 立ったまま寝る男

ぎゃはははは。おまっ、おまっ、おまっ! おまっあっ、あはは」


「うるさい! 笑うかしゃべるかどっちかにしろよ!」


 部屋の中で腹を抱えて大笑いするハサラはベッドの上で足をばたつかせている。昨晩、エレノアを連れ込んだレカンタがてっきり楽しんでいるかと思っていた。実際は十代の少女に縛られ、目隠しをされ、殴られ、拷問まがいのことをされていた。しかも途中でなにかの儀式のように歌い踊っていたという。そんな彼を思うとハサラは笑わずにいられなかった。


 時折聞こえた変な声。不思議に思い部屋を確認した時も、彼の変態趣味かと思って見過ごしていた。実際は無邪気な少女に甚振られていたというレカンタの状態を思い返し笑いが止まらなかった。


「だ、だめだ! ぎゃはははは。腹がいてえ」


「畜生。あのクソガキ。絶対に殺してやる」


 レカンタが怒りを顕にし昨夜の出来事を振り返りながらさらに怒りと憎しみを増幅させていた。


「おい? その瓶に入った水、まだ使えるのか?」


 ハサラがテーブルに置かれた魔女の血が入った水瓶を顎差し問いかける。水瓶を睨み見たレカンタは「くそ! あの水さえ無理やりにでも飲ませていれば! クソクソクソクソ!」と腹の中で煮えくり返る怒りを感じながら、


「知るかよ! いつもだったらすぐに飲ませるんだ。でも、そんなの関係ない。あのクソガキの歯をへし折ってから流し込んでやる」


「おー、おー。いつもの笑顔が消えてるぜ?」


 完全に顔つきの変わったレカンタがハサラを睨みつけた。退散するかのようにハサラは立ち上がり、


「それじゃ俺はそろそろ行くっかな」


 昼前、ハサラは見張りの交代で倉庫区画へと向かった。入り口のジーゴとエガシに「誰かいるか?」といつものように聞くと「いや、あんたたち以外は誰も来てないよ」と返答するジーゴ。口笛を吹きながら、斧槍を片手に倉庫の奥へと消えていった。


 身長が一番高く、頬骨が特徴的なハサラ。斧槍を持ち、口が悪いが一番話しかけてくる男。


 今、最奥の檻にある木箱の前でで見張りをしているのはシルツ。ハサラの次に背が高く眉間に寄せた眉毛で常に警戒している顔が特徴的。喋ったことはないが、仲間以外は誰も信用していない感じで、少し心配性な感じだった。


 リーダーのアリは、丸刈りに近い短髪で目が死んでいる。感情を読み取れない表情が不気味だが、質問にはきっちりと答える。言い方を変えれば強引で一方的、扱いを間違えれば自分の指なんかスパっと切り落としそうなほど切れ味のいい包丁。


 たまにくるレカンタは、細く背が低い。一番若く見え、いつも笑顔で五人の中で一番話しやすかったが、利用されている気もする。


 ルカという男は、顔も体も鼻も丸い。大きい盾を体の前に置いて構えたられたらなすすべが無くなりそうな感じ。目が細くて、どこ見てるのかわからないのが更に怖い。


 ここ数日で倉庫番のエガシ、ジーゴ、ジュプン、ラニの四人が結論づけた五人の男たちの印象だった。奥へと歩いていくハサラの姿と足音、彼の近くにある木箱や荷物を叩いたり、小突いたりする音が聞こえなくなる。危険区域を出たかのように安堵し、肩を下ろすエガシとジーゴ。本を読んでるふりをしながら様子を伺っていた二人。先に話し出したのはジーゴだった。


「今いるのって、シルツってやつか?」


「ああ。眉間にしわ寄せてるやつ。いつも、一体さ、あいつは何に警戒してるんだろうな? 真ん中の皺にカードでも挟んでやろうか」


「ははは。それ、笑えるな。今度罰ゲームでラニに挑戦させるか。そう言えばこの前さ、点検で見回ってた時の話なんだけどさ、あのシルツってやつ。多分……、目を開けたまま寝てるぜ?」


「ウソだろ? そういえば、確かに心当たりあるな」


「エガシもか? 俺、檻の前まで行った時にあいつの名前を何度か呼んで話しかけたんだよ。無視してるのかと思ったけど、突然構えてきたと思ったらさ『何だ、お前か。驚かすな』って言われたんだ。いやいやいやいや、名前呼んでたぞ?って思ったけど、怖いから何も言わなかったよ」


「ホントそれだよな。俺も同じ感じだった。今もアイツ、立ったまま寝てるんじゃないのか?」


 二人は手に持っていた本を開くと、ハサラが来たことで中断していた読書を再開した。


 一方、忍び込んだクレアとエレノアは魔女の入った木箱には近づけないでいた。背の高い男が、仁王立ちで一つしかない入り口を見張っていたからだ。しかも、ずっと動かない。手には剣と盾。少しでも物音がしようものならすぐに構える勢いだ。ギシギシと軋む音にすら疑いの目と耳を傾ける。


「クレア? 誰か来たよ?」


「こっちきて。しっかり隠れなきゃ」


 ハサラが出す音に気づいた二人は通路脇の木箱の影、置いてあった布を深くかぶりさらに身を潜めた。

ハサラは楽で暇で退屈な見張りが嫌いだった。唯一できることといえば、武器を使った軽い運動。通路の先、開けっ放しにされた檻の門を視界に捉えると「はぁ」とため息を出した。


 魔女の入った木箱は倉庫区画の最奥にある檻の中に置いてあった。通路の突き当りにある左側の大型動物用の檻で、羊たちや他の動植物で使うことは滅多にない。今回のように特別なものを依頼で運んだり、大事な荷物を運ぶ金庫みたいな役割を担っているのがほとんどだった。通路の右側、檻の正面には他の荷物が色々と積んである。その中の布が僅かに動いた気がした。ハサラはその一瞬を見逃さなかった。


「あ、エレノア。動いちゃだめよ」


「だって、見えない。あ、ほら、あいつ昨日通路にいたやつだよ? 背が高いやつ」


「ほんとね。交代だといいな」


 布の下に隠れた二人が小さな声で会話していた。ハサラは疑いの目を向けつつも、そのまま檻の中に入りシルツと会話を始めた。二人からはハサラの背中しか見えなかった。


「よお。交代の時間だぜ。それと――」


 ハサラが何かを話しているのは見えたが、小さい声で話しているせいかあまり良く聞こえなかった。数分立った頃、シルツとハサラの二人が檻から出てきた。クレアとエレノアよりも少し先に行くと、シルツだけ残してハサラが一人で戻ってくる。


「そこにいるのは誰だ? おとなしく出てこい。出てこねぇならこれでぶったぎるけどな」


 そう言いながらすでに大きい斧槍を両手で構えいつでも振りおろせるようにしたハサラ。クレアとエレノアは急いで布から飛び出すと、「えへへ」と苦笑いをした。


「あ? お前たち、昨日のガキじゃねぇか。こんなところで何してんだ?」


「ごめんなさい。あの箱が気になって。ちょっと遊びで忍び込んじゃったの」


 クレアがごまかしている様子をハサラが疑いの目で観察していた。 エレノアを見たことで昨夜の出来事を思い出したハサラが、


「よお、お前。アニムの……」


「エレノアだよ」


 名前を名乗ったエレノアの体に手を添えるクレア。ハサラからは見えない箇所でエレノアを制止する。


「お前、最高だったぜ。おかげで新しいアイツ……、レカンタを見れたしな。エレノアか。お前、マジで最高だ」


 背が高く、がっしりという程ではないが戦士として鍛え上げられた体なのは一目瞭然だった。その彼が大きな手でエレノアの頭を撫でていた。無作法で力強く、不気味さを感じるが「いたい」と言うと「おお、すまねぇ」と手をどけた。


「ところで、お前らはアレの中身を知ってるのか? 遊びにしちゃシャレにならねぇな」


 自慢気な顔、見下ろして来る視線、奥ではもう一人の男。シルツと呼ばれた男が剣と盾を持って通路を塞ぐように立っている。クレアは、ふざけて話す素振りのハサラの雰囲気に何か危険な物を感じ取っていた。しゃがみ込んだハサラが、ちょいちょいと手招きする。手のひらを口に近づけひそひそ話をする要領で、


「あの箱にはな、森の魔女がはいってるんだぜ」


 それを聞いたエレノアは少し驚いたように顎を引き肩をすくめる。「思ったほどじゃねぇけど、驚いてるな」と読み取った彼はもう一人の黒髪の少女に視線を戻した。


 すぐにクレアは自身の失敗に気が付いた。秒も経たない一瞬の分析と判断だったが状況からして窮地に追い込まれたのが分かった。彼から箱の中身を聞いた時にするべき表情を間違えたからだ。


 クレアはハサラから「魔女がいる」と聞かされた時、思わず眉を寄せてしまった。それは驚きの表情とは違い「なんでそんなこと言うの? 中身は魔物でしょ?」というものだった。困惑、怒り、嫌悪、警戒、そういった表情を表してしまった。

 

 ハサラもすぐにそれを見抜いた。本来なら、恐怖、驚き、発見に伴いエレノアのように眉が上がり、目が開き、下顎の筋肉が緩むはずだからだ。逃走するために血は下半身へと集まり顔の血の気が引く。よくある反応……なのに、この少女はそれとは逆ともいえる態勢に変わった。


 クレアは必死に考えた。そしてハサラが確信の言葉を突く前に、彼に言葉をかける。


「あの、ごめんなさい。ちょっと、何言ってるのかわからなかったの。もう一回いい?」


 隣にいるエレノアが驚いた顔のまま、クレアとハサラを見つめると彼女の意図を汲み同じように言った。


「おっちゃんの活舌悪すぎて、ひいちゃったよ。何て言ったの?」


「あ? お前ら……。いいかぁ、あの! 箱には! もーりーのー、魔女がっ! 入ってるんだよ!!」


「「えーっ!?」」


 ここ一番の驚いた顔をした少女二人。立ち上がり、斧槍を片手に仁王立ちするハサラが二人を見降ろしながら呆れた顔で言う。


「いや、おっせぇわ!」

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