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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
70/144

70 船旅③ 少女の魅力

船旅二日目。

クレアとエレノアが船で過ごす頃

遠い別の場所である出来事が。


 翌朝、目覚めたクレアとエレノアが部屋の扉を開けると、足元に置いてある籠に気が付いた。中には果物やパンなどが入っている。ちょうど、隣の部屋から娘のバルタが出てくると三人は部屋の前で話し始めた。


「あ、おはよう! よく眠れた?」


「おはよっ。なんかすっきりしたぁ」

「おはよう。うん」


 散々泣き明かしたエレノアが、スッキリした様子で背伸びをするとバルタとクレアは目を合わせクスっと笑う。二人の態度を不思議に思うエレノアだったが足元の籠の中身を気にしていると、それに気づいたバルタが説明をしてくれた。


「ああ、それね。朝ごはんなんだけど、商人が置いて行くのよ。余りものとか、自分たちの商品を知ってもらうためにね。この船の朝ごはんは彼らが用意するのよ。あたし達が作るのは昼と夜の二回。後でよろしくね、エレノア」


「うん! あとでね」


 エレノアが嬉しそうに答える。朝の会話を終わらせバルタを見送った二人は、果物やパンの入った籠を持ち外へと向かった。見晴らしが良く、海を見渡せる高い場所へ落ち着くと、もってきた朝ごはんを食べ始めた。次々と食べ物を口に運ぶエレノアが、


「ねぇ、あたしは調理場に行くけどさ、クレアはどうする?」


「うーん――。私、船の中を歩き回ってみる。動物たちの様子をみるように頼まれたし、手伝いが必要な人たちを探して色々やってみるわ」


「そっか。じゃぁ、あたしは行くねっ! またお昼にね」


「いってらっしゃいエレノア。お昼になったら調理場のみんなのところに行くね」


 鼻歌交じりで尻尾を振り、嬉しそうに歩いて行くエレノアの背中を見つめているクレアには自然と笑顔が溢れた。座っている場所には心地よい風に、太陽の温もり、広大な海と船の音がそれぞれ彼女の五感を刺激する。クレアはそこでしばらく休んでから、籠を手に立ち上がり通路の階段を降りて行った。すれ違う人たちとあいさつを交わしながら、籠を返す場所を探していた。


 通路の手すりの向こう下に籠を置く場所を見つけると、そこへどうやって行こうかと考えていた。その時、背後から自分を呼ぶ声がした。


「クレアちゃん!? いたいた。クレアちゃん、こっち、こっち!」


 昨夜、メインマストの下で出会った薄毛のおじさんだった。何故か自分のことを探していたようで、近寄ってくるなり手を掴み嬉しそうにしている。息を整えると話を続けた。


「よかった。あれ? ああ、朝ごはんだね。えっと、それは……。えいっ! よし。じゃぁ、行こう。こっちへ。頼みたいことがあるんだ」


「え? ちょっとおじさん……」


 薄毛のおじさんはクレアから籠を奪うと、階下へと投げ込んだ。下からは「いて」という声がしたが「それ、よろしくね」とおじさんが声を張り上げた。二人は早足で会話をしながら昨日と同じ場所へ向かった。


「あの、どういうこと? 何かあったの?」


「え? あぁ、ごめん。小さい男の子がさ、マストの高いところまで登ったんだよ。そしたら怯えて動かなくなったんだ。かといって、俺んとこの若い衆じゃ、かえって怖がるだろうし。アルフォンスさんは見つからないし、で、クレアちゃんが浮かんだわけ。ね?」


「男の子? 降りられなくなったのね」


「そうなんだよ。あの子がさ『折れる!』って言うもんだからさ。クレアちゃん、昨日さ、ひょいひょい登ってただろ? それに女の子だし、軽そうだ。だから、あの子も安心できると思うんだ。頼むよ。ね?」


「ええ。わかった」


 昨夜と同じメインマストの下まで来た二人。マストの高い場所に八歳くらいの男の子が一人、端っこの方で動けなくなっていた。薄毛のおじさんは若い衆に大きな布を用意させ広げさせると、下に配置していた。クレアは男の子を見つけるとそのままマストを登り始めた。


「な? すごいだろあの子? 嘘じゃないってわかったか?」


「ほんとだな、親方。すごいや。俺たちには出来ないな」

「まぁ、俺たちはあの子の何倍も重いからな。無理ってもんだ」


 感心し、笑いながらクレアの様子を見守るおじさんと若い衆。クレアは男の子と同じ高さまで登り終え、太く丸い木の上に堂々と立ちそのままトコトコと歩いて近づく。それに気づいた男の子が、


「お姉ちゃん、来ちゃダメ! そこ! そのあたりからすっごい音がしたんだ。割れてるんだよ」


 クレアは動くのをやめ、男の子が指さした場所を確認するとたしかに亀裂が入り、危ない状態になっていることにきづいた。


「僕、ここから動けないんだ。おねーちゃんがこっちにきたら絶対に折れちゃうよ。だから、それ以上こっちに来ないで」


 しゃがみ込んだクレアは亀裂の入った箇所を隠すように手を添え、男の子に話しかける。


「教えてくれてありがとう。私はクレア。えっと……」


「僕はタント。クレアおねーちゃん」


「タントはすごいのね。こんなところまで来るなんて登るのが得意なんでしょう? 飛び降りるのはどうかしら?」


「そんなのへっちゃらだよ。いつも海に飛び込んでるんだ。このぐらいの高さへっちゃらさ! でも、下を見てよ。あんちゃんたちの用意した布に飛び降りるのはちょっと……」


 クレアが下を覗くと、男達が布を広げて「ここだ」「こっちだ」とわたわた動いている。


「あはは。そうね、あれは私でも心配だわ」


 クレアは割れた部分に添えた手をどかし、マストの状態を確認するとタントに話しかけた。


「さっき、タントは割れた音がしたって言ってたけど、ほらみて? ここはまだ大丈夫よ? 音がしただけで全然割れていないもの」


「そんなことないよ! あれは枝が折れるときの音だもん。ほら、そこ……」


「ね? 亀裂なんてないもの」


「あれ? おかしいな……。大丈夫?」


「うん。さ、下りましょ」


 クレアの手の下にはあるはずの亀裂が見つからず、タントは困惑しながらもマストを移動し、みんなのいる所へと戻った。薄毛のおじさんと目が合うと「げっ」と言い、どこかへ逃げてしまった。残された若い衆の一人が、


「クレアちゃんだろ? 親方から聞いてるよ。ありがとう、助かったよ。今回はこんな内容だったけど、今度はちゃんとした仕事を頼むからさ。またあとで」


「ええ。是非、待ってるわ」


 彼女達の様子を遠くから見守っていたアルフォンスは、自分の魔法を使わないで済んだことにほっと溜息をついた。いざとなったら、布の下から風を起こしクッションにしようと準備をしていた。しかし、遠くから話を聞いていた限りでは男の子の勘違いだったようで、難なくその遊びは終了した。もしくは……。


 彼はその場を後にし、動物たちの世話をするために船の中へと戻っていった。


 その後もクレアは、他の船員を手伝っていた。年老いた船員の体を労り代理でこなしたり、アニムの乗客同士のいざこざを解決したり、商人のお手伝いもした。そんな日が数日経過し彼女の活躍の成果は一目瞭然となった。


 朝、部屋から出ると籠の中に入った朝ごはんが彼女の人気を表していた。昨日よりも今日という風に食べ物以外も増えていくその様子にバルタが、


「そんなの初めて見たよ。クレアってばすごい人気だね」


「ホントだよ。クレアはどこいってもそうなんだ。気づいたらみんなデレデレしちゃってさ。あたしだってこんなに可愛いのにさ」


「エレノアも船の中を歩き回って困ってる人を手伝うといいわよ。たまには調理場から出てみたらいいのに。外も楽しいわよ?」


「ええ。こんなに設備の揃った場所で好きなだけ料理が出来る機会なんて、次にいつ訪れるかわからないじゃん? あたしはしばらく調理場で十分!」


 三人は笑いながら朝の挨拶を終わらせると、いつものように顔を洗い朝ごはんを食べるために外へ出ていつもの場所へと向かった。すれ違いざまに皆が「クレア」と声をかけ、挨拶をする。嬉しそうなクレアの笑顔に、皆もまた笑顔で返す。そして、見晴らしのいい場所に来るとそこにはアルフォンスが待っていた。


「おはよう、二人とも」


「おはよう、アル」

「おはよう」


「ねぇねぇ、アルはさ、どこで寝てるの? 最初の夜以外、ここ数日は部屋で寝てるとこを見たことないや」


「ははは。私はね、色々なところで寝てるよ。マストの上だったり、動物たちと寝ることも多いね」


「そうなんだ。また一緒の部屋で寝ようよ? なんかさ、アルと一緒にいると安心するんだよね。なんだったら、あたしが添い寝してあげるよ?」


「あはは。添い寝してもらったのエレノアじゃない? もう。忘れたの?」


「ちがうわい。女は涙を流すと強くなるんだよ。あたしはもう、あの日の女とは違うんだよ。へへへ」


「ははは。まぁ、アニムの方が人間よりも成長が早い傾向があるからね。あながち間違いでもないよ」


 鼻にくっつきそうなくらいに唇を上げたエレノアが不満そうな顔で二人を交互に見つめた。アルフォンスはクレアの傍まで来ると、


「遅くなってしまったけど、クレアの言っていた模様を見ておこうと思ってね。どうかな? タイミングが悪ければまたの機会にするけど」


 それを聞いたエレノアがパンを口にしたまま頷く。クレアも「ええ、お願い」と服を一枚脱いだ。アルフォンスは彼女の横にくると細い腕を優しくつかみ、その模様を覗き見るようにじっくりと観察した。


「うーん。これはまた不思議な模様だね。出始めた頃は薄くて、いつの間にか濃くなってたんだよね?」


「うん」


「どう? アルにはクレアのそれ、何なのかわかりそう?」


「難しいね。何か……。人間の魔法でこういう物は見たことがないから。ウッドエルフ達も知らなかったと聞いたし、やっぱり魔女に聞くのが一番かもしれないね」


「人間の魔法とは関係ないのかなぁ。じゃぁ、アルには無理かぁ」


「私はアルなら何かわかるかもって思ったんだけど……。わからないなら、あとは魔女に聞くしかないわね。ありがとう」


 気にしていない素振りを見せてはいるが、不安の残るクレアの口から最後に出たお礼の言葉には僅かに悲しさを読み取れた。アルフォンスは、


「すまないねクレア。ただ、そこからは闇の魔女のような邪悪さは感じないよ。きっと、大丈夫。君たちの目指している湖の街ミシエールに住む街の魔女から何か糸口が出るといいんだけど。そう望んでいるよ」


 アルフォンスは軽く頷くと、その場からいなくなった。果物を食べながらエレノアがクレアに聞いてくる。


「ねぇねぇ、どうしてアルに聞いたの?」


「え? 見た目でわからない? 魔法に詳しそうでしょ? それにアルは最初の……、私たちが羊の部屋に忍び込んだ時に魔法を使ったのよ? 貴方、寝てたでしょ? あれはアルの魔法」


「はぁ!? そうなの? うーん……。見た目からは想像つかないけどなぁ。っていうか、誰もそんなこと言ってなかったけどな。あぁ! そういえば、笛で動物を眠らせるって言ってた人がいるや」


「そう。でも、実際はその笛は使ってなかったけどね。それに、魔法が使えることは秘密にしてるみたい。だからエレノアもアルが魔法を使えるってことを言いふらさないように気を付けてね。私、てっきり彼なら何か教えてくれると思ったんだけどな」


「まぁ、大丈夫だって! あれから何ヶ月も経つけどさ、クレアには何も起きてないでしょ? とにかくミシエールで魔女に会えばきっと進展があるよ。クレア。ほら、悩む前にご飯食べよっ? 先に悩んじゃうと食欲無くなっちゃうぞ?」


「あはは、そうね。あ、私の好きなやつも残しておいてよね

――」


 二人は食事を終え、この日も仕事に精を出した。エレノアは調理場で、クレアは船のあちこちから引っ張りだこだった。



     ※



 クレアとエレノアが船旅をしている同じ頃、遠く離れた大陸の森の中にあるのどかな村では、ある六人の男達が森へと入る準備をしていた。


 きれいな空気、きれいな水、柔らかい風が吹き、森の中には太陽の光が優しく降り注ぐ。まるで森自体が生まれたての赤ん坊のような純真さを匂わせている。それが、光の魔女の森。


 森の中にある村では六人の男達が宿を借りて準備をしている。一週間前にやってきたかと思えば、森の魔女のことを聞いては森に入って調査をしていた。


 村人からは、その男たちがただの旅人でないことは装備品からして明らかだった。雰囲気は如何にも悪者といった感じなのに、なぜか何もしてくることもなく、ただ、宿を借りていただけだ。


 アリはリーダーの男で、生気のない目に高めな背丈に整った体格。剣を腰に携えていた。


 ハサラは目つきが悪く一番背が高い。大きな斧槍を持っている。村の女を見てはニヤニヤしていることもあったが、自身でそれに気づくと頭を振り視線を合わせないようにしていた。


 ルカは中肉中背で大きな盾を装備している。鼻も顔も、体までもが丸い男で目がほとんど空いていないようにも見える。それが逆に怖かった。


 レカンタは背が低く細い体、馬を扱い荷物を運んでいた。女子供を見ては何かうなずいているが、目つきのワルいハサラと同じように、目を閉じ頭の中を空し視線を外していた。


 シルツは二番目に背が高く、普通の体格の男だ。常に眉が寄っていて何かを警戒しているかのようだった。剣と盾を装備していた。


 タブルは最近仲間に入った男で、体は一番大きく剣と盾を持っている。他の五人からは何度か怒られていた。村の女子供に手を出そうとしたからだった。


 そんな不気味な六人が朝に宿を出て、森の道を行く中で会話をしている。先頭を行くリーダーのアリが一言もらすとすぐさまハサラが返した。


「まぁ、お前らよく耐えたな」


「ったく。マジできついわ。聖人かっつうの。くそ。魔女が近くにいなきゃ、かーっ、あの女よかったなぁ」


「まぁ、そのおかげで俺たちはこうやって今も無事なわけだし、ある意味安全な道を歩けているわけだ」


「何が『安全な道』だよ。これからやばい目にあうっつーの」


「これまで何回だ?」


「あん? あーっと、これで7回目か?」


「それまでに誰か死んだか?」


「いや。まぁ、危ないことはあったけど、辛うじて生きてるよな。っていうか、さっきまでは生殺しだったけどな」


「ああ、それは確かに。帰りは好きにするといい。ただし、わかってるな? 殺したりするなよ? 今日は俺たちが恵まれてる事をわかってもらうからな」


「はいはい。最近はマヒしちゃったからな。とっとと終わらせようぜ。俺は早くあいつを――」


 アリとハサラが会話をしながら森を奥へと進む。体の一番小さいレカンタが乗った馬から声をかけてきた。


「今回のやつは何日くらいかかるのかな」


「どうだろうな。あの方の情報だと、水を操ると言っていたからな。とはいえ、今は寿命間近な光の魔女だ。水辺に近寄らせなければ大丈夫だろう。下準備は万全なんだろ?」


「そりゃもちろん。近づいたところでって感じだぜ。そろそろ到着するよ」


 レカンタが言い終わると皆が足を止め武器を構える。ゆっくりと進み森を抜け川に出た六人。浅く、渡るのに橋を必要としない程度の川辺には、崩れかけたような小さな木の家が一軒あった。そこからは死の香りではなく新しい芽吹きの香りが漂う。小鳥がさえずり、葉っぱを光がキラキラと輝かせる。木の家が森の一部になろうとしているのが感じ取れるほどだった。


「実際に立つと結構見晴らしのいい場所だな。この川さえなければ戦いやすい場所だ」


 アリが話しながらレカンタを見て指示を出す。レカンタは馬車から出してきた棒を手に、川の中へジャブジャブと入っていくと、尖ったほうを川底に突き刺す。すると反対側についている丸いたまが花のように開き、キラキラと光を拡散させていた。


「いいよ。これで揃った。たぶん、この森の水は使えないはず。あとはよろしく」


「多分? ったく、はっきりしろよ」


 木の家からは一番遠い場所で待機するレカンタがボウガンを手に取り、残りの五人を見守った。先頭に立ったのはルカで大楯を両手で構えずっしりと立ちはだかる。その後ろで剣と盾を構えたシルツと新人のタブル。盾の三人を前にして構えるのが、目つきが悪く背が一番高いハサラで斧槍を持っている。


 リーダーのアリが一人、足元にある川石をジャリジャリと踏み鳴らし、木の家へと近づいていく。玄関の前にある階段を上がるとその扉が音を立て開いた。中から出てきたのは、白い髪を後ろに流し、コツコツと杖を突いて歩くおばあさんだった。背筋は曲がっておらず、目はきれいな水色をしていた。アリは彼女の目を確認すると、問答無用に剣を抜き、彼女の杖を持った腕を切り落とした。


「くそ! まだ使える水が残ってたぞ」


 次の瞬間、アリは悪態をつきながら盾持ちの方へと退避した。そして、その様子に全員が緊張した様子で身構えると再度、老婆が現れる。


 コツ コツ コツ


「出会い頭にそれはどうかしらネ?」


 切り落とした腕は床に落ちる前に水に変わりバシャっと音を立てた。同時に老婆の腕は元に戻っている。笑顔の老婆が玄関から、ゆっくりと陽の下へと歩いて出てきた。


「アタシが、魔女だとわかってルんだね」


「ああ。お前は商品だからな。水は使えないようにしたぞ。お前にできるのは貧弱な元素魔法だけだ」


「水? へぇ、誰から聞いたのかネ。これのことかい?」


 魔女がそう言うと、家の中から水の塊がいくつか現れた。コポコポと聞こえるように、窓や板の隙間から集まってくる。斧槍を握りしめたハサラがレカンタに叫び散らす。


「っざけんなよ! 予備があったんじゃねぇかよ!」


「知るかよ! 家の仲間では調べられないだろ! 早くやれよ」


 二人が口喧嘩をしている中、魔女は家の前まで来た五人に水の槍を三本ずつ投げつけた。大楯のルカがそのほとんどを防いだが、新人のタブルは白目を剥いて地面に倒れた。盾と体には穴が空いていた。


「あら? 一人だけかい? 結構ヤルんだね」


「は! 終わりだ! 操れるって言っても大した威力じゃないな。蒸発しちまえば俺たガバボボ――」


 喋っている途中で水の塊がアリの顔を覆った。


「こういう使い方もあルンだよ」


 顔を傾げた魔女の元へハサラが突っ込み、斧槍を振り下ろすもヒラリと動いただけで避けられてしまった。魔女は残りの水で彼の胴体に穴を空けようとしたが叶わず吹き飛ばすだけに留まった。すぐさま、矢のような形にした水を回転させながらに彼らへと飛ばした。


 大楯のルカはガードすると、じわじわと魔女に近づいていく。吹き飛んだハサラは態勢を立て直すと、再度魔女へと向かっていった。


「あんたたち、最近ここらへんを嗅ぎまわってた奴らダネ? 気づいていないとでも思ったカ? 一体、なんだって光の魔女に――」


 ただ、会話をするためだけに距離を保とうとしていた光の魔女は突然に背後から斬られたことに驚いた。とっさに、地面の砂や草や木の葉を巻き上げると屋根の上へと逃げた。


「あんた、どうやッテ?」


 剣についた血をとるように一度だけ振り払うと、アリは首元を見せるように服をはだけ、嬉しそうに魔女に言った。


「これのおかげだよ。ある方からもらった物でな。これのおかげでお前らの魔法が効きづらくなってる。生き残った俺たち全員が装備してるぞ? さぁ、逃げるがいい。これは、俺達の狩りだ」


 レカンタが遠くからボウガンで魔女を射抜く。魔女は今までに感じたことのない痛みを受け、思わず悲鳴を上げた。


「ギャぁ」


「よし! みんな、いいよ。さぁ、今日こそ最短記録の更新だ!」


 レカンタの掛け声が響く。皆の指輪の一つが魔女の方向を指し示すかのように緑色の細い光を放っていた。それに気づいた魔女は、すぐにその場から逃げるために屋根から森の中へと消えていった。入れ違いで屋根に登ったハサラが悔しそうに声を上げる。


「今日は俺がぶった切ってやる。おい、レカンタァ! 箱をちゃんと用意しとけよ? あのクソ魔女め。おい、こいつまだいきてんぞ? うっぜぇな」


 ハサラは地面に倒れ、わずかに息をしている新人のタブルを見下すと、足で何度もその顔を踏みつけた。残りの四人はそれを無視して森の中へと入っていった。楽しそうなハサラの声を背に……。


     ※


 二日後、村に戻ってきた五人の男達。ついこないだまでの彼等とは違い、この日は乱暴な素振りで宿に泊まった。目星をつけていた娘を無理矢理に連れ込むと、聞こえていた悲鳴もすぐに収まった。数日前までは娘を見つめては何もしてこなかった彼ら。怒り武器を手にした村の男達は宿に襲撃を仕掛けたが返り討ちに合った。殺されはしなかったものの立ち上がることが出来なくなるほどに痛めつけられた。


 翌朝、目つきの悪い男、ハサラが怯える村の人間に言い捨てる。


「大丈夫だよ? そんなに怯えるなって。魔女が生きてる間はお前らを殺したりしないからよぉ。次は誰にしようかなぁ……」


「おい、ハサラ。船が来るまであまり日にちがない。ほどほどにな。俺たちはこいつを無事に運ばなきゃならないんだ。行くぞ」


「ちっ。わかってるよ。リーダーさんよ。まぁ、船の方が楽しめそうだよな。だって、海に捨てちまえば誰も気づかねぇかんな。ああ、俺ぁ若い子がいい。黒い髪の女もいいなぁ。たまんねぇ。あ、おい、置いて行くなよ!」


 馬を走らせ出発する五人が向かうのは『海の羊』が寄港する予定の港町だった。彼等の馬車にはもう一人の人物が乗っていた。体の自由を奪われ、身動きが出来なくなった光の魔女。彼女は小さく暗い箱の中で、その眼を輝かせたまま男達に復讐をする機会を待っていた。


 ……。

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