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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
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68 船旅① 不思議な男性

海を渡り、別の港町へとやってきた二人。

陸路で湖の街ミシエールへ行く予定だったが……

 クレアとエレノアは船で一晩過ごし、次の港町へと辿り着いた。そこは沿岸に沿う形で作られた港町で白い壁に赤やオレンジ、わずかに青い屋根の家も見つけることができた。港はとても大きく、大小さまざまな船が停泊していた。特に『海の羊』と書かれた巨大船は、船から降りた少女二人の視線を奪った。


「ほあー。すっげぇー! ねぇクレア? こんなでっかい船も海に浮かんでるよ」

「ほんとね。すっごい! 首が痛くなっちゃう」


 驚嘆した二人が口を半ば開けたままの状態で『海の羊』を眺めていると背後から男性のしがれた低い声が聞こえた。


「立派な船だろ? 俺たちが乗ってきた船がまるで小舟じゃないか」


「ホントだよ。これが本物の船ってやつだね」

「こんなに大きなものを作れるのね」


 船を見上げたまま男性の一言につられて呟いた二人。聞き覚えのある声だと思い振り返るとそこには、この港まで送ってくれた船長のおじさんが立っていた。クレアもエレノアも気まずそうに苦笑いをすると、小舟の船長は「わかってるよ」と言いたげに何回か頷き笑いながら荷下ろしを再開した。


「きひひ。船長さんに悪かったかな?」


「えへへ。それにしてもすごい船。私たちの家を何個も載せられちゃうね。あ、見て。あんなに高い階段を使って乗るみたい」


 港には他にもたくさんの船が停泊していて、今も荷積みや荷下ろし、整備・点検などで多くの人が行き来している。二人はそんな場所をウロウロしながら初めて見る巨大な船に魅入っては色々な角度から観察していた。作業をしていた一人の男性が、目を輝かせている少女二人に気づき声をかけた。


「やぁ、君たち。大きな船を初めて見るのかい?」


「うん! 初めて乗った船も大きかったんだけど、こーんなに大っきな船もあるだんね! 何十人、いや、百人は乗れるかな?」


 最初に反応して振り返ったのはエレノアだった。彼は背が高く、茶色く肩まで届く長い髪は頭に被った布で後ろに流している。四十代の人間に見える男性にエレノアは興味津々で、彼と話を続けると笑顔で答えてくれた。


「ははは。百人どころじゃないよ? 見た所、君たちは旅をしているのかな?」


「はい。私たちはミシエールという街に行くために海を渡ってきました。この船はどこへ行くんですか?」


「ミシエールか……。それはまた遠い場所まで行くんだね。この船もそこと陸続きの港町まで行くんだけど、あいにく客室は埋まってしまったからね。次にここへ来るのは何か月かしてからだろうね」


「ちぇっ。まぁ、いっか。おっちゃん、ありがとう」

「あ、エレノア……。ありがとうございました」


 お腹を空かせたエレノアが、近くの出店から漂う美味しそうな匂いに引っ張られていくのをクレアが追いかける。男性は手を振る二人に笑顔で応えるとそのまま、自分の作業へと戻った。


「あのおっちゃん、船の人だったのか」


「そうみたいね。優しそう人。それに不思議――」


「あいよ! お嬢ちゃんたち、あのダンナと知り合いかい? 年の割にいい男だろ?」


 出店の主人が二人の会話を聞いて話しかけてきた。代金を渡しながらエレノアが棒の刺さった肉をほおばり答える。


「いや、この町には人間の知り合いはいないよ。っていうか、人間じゃなくても知ってる人はいないと思う。うっま!」


 あっという間に食べ終えたエレノアが追加で一本買っている間、クレアは不思議そうにさっきの男性を見つめていた。クレアの視線に気づいた男性からは笑顔がこぼれた。彼は他の船員らしき人達と動物を運んでいた。その様子に気づいた主人が今度はクレアに、


「アイツ凄いだろ? ここ何日か仕事を見てるけどさ、動物を運ぶ仕事をしてるやつであんなにうまく扱うやつは初めて見たよ。魔法でも使ってるんじゃないかって思えるくらいさ。暴れた動物もすぐに、ほら、あんな風におとなしくなっちまう」


「不思議な人……」


「ところでお嬢ちゃん達は初めてここに来るんだろ? 何しに来たんだい?」


「あたし達はミシエールって街に向かってるんだけど、とりあえずはここのギルドに用事があるんだ。おっちゃんこれ下味に――」


 エレノアが主人の質問に答えると同時に、肉の味付けに何を使ってるのか言い当てるとそのまま調理の話になっていた。クレアはそんな二人を横に、肉を食べながら男性のことを眺めていた。


「――てなわけで、とりあえずこの道を真っすぐ、十字路の先に大きい旗のある建物があるから。そこがこの町のギルドだ。でもなぁ、ミシエールか。ちと、今は遠いなぁ……」


「今は?」


 「まぁ、行けばわかるさ」と意味深な言葉を最後に主人とエレノアの二人は会話を終えた。二人はそのままギルドへと向かう。町には人間以外にもシティエルフやわずかにドワーフ、アニムも居てすごく賑やかだった。そんな道を数分歩くと迷うことなくギルドにたどり着くことが出来た。前の街と同じく石造りの二階建てで、一階部分もほぼ同じ作りだった。ギルドに入った二人は先ず、前の町のギルドからここへ配達するように頼まれた荷物を受付の男性に渡した。

 

 カウンター越しにミシエールへ向かう陸路の状況を確認すると、周りにいた旅人や冒険者、ギルド加盟者が自然と集まり情報をくれた。その理由のほとんどが、少女が二人だけで旅をしているからというものだった。そんな彼らから得られた情報は、本来なら通れる森の道に新しく魔女が出現したため今は通り抜けを避けているということ。岩肌むき出しの山脈が連なっているため山越えは困難で、迂回して行く陸路では遠回りもいいところで一年近くかかるという事だった。


「どうする、クレア? 魔女はやだなぁ……。しかも、爆発させるってんだから」


「そうね……。でも、一年近くかかるのも」


 クレアが心配しているのは旅にかかる時間ではなく、体に出来た模様やエレノアに話せていないことに対する時間の心配だった。かといって、前回のような思いはしたくない。そんな落ち込んだ様子の二人をみて、受付の男性が話しかけてきた。


「君たち、『海の羊』っていう船を見たかい? すっごい大きな船なんだけどね。それに乗れればミシエールの街まで数か月ってとこまであっという間だよ。ただし、船旅は数週間。寄港するのは一か所。出発は……。あぁ、もうあまり時間がないね。ほら、聞こえるだろ? 大きな鐘の音。あれが出発準備の合図だよ。荷を積み終えて船員や乗客が乗り終わったら出航するから、急いで頼んでみたらどうかな?」


 そんな提案にクレアは港で出会った男性が「客室は埋まった」と言っていたことを思い返しながら返事をする。


「うん。でも……」


「そうだよ! それだよ! っていうか、乗れればいいんだよ! いくよクレア! ありがと!」


「ちょっと、エレノア!? みんな、ありがとう」


 無邪気に見える少女の様子に大人たちは笑いながら二人を送り出し、一人が「たしかもう一杯だったと思うが」と呟いた。二人に船路を提案した受付の男性が、


「働き口があるんじゃないかと思って言ったんだが……。まさか、忍び込んだりしないよな?」


 しばしの沈黙が流れると、皆が顔を合わせ「はははは」と口だけで笑い急いで入口から少女二人の姿を確認しようとしたが既に見えなくなっていた。


 鐘の音が鳴り響く中、エレノアが大急ぎで走っていく。クレアが「ちょっと、エレノア!? もう埋まってるって言ってたよ?」と言いながら後をついてくるが、


「ひひひ。乗れればいいんだよ……乗れればね」


 その表情を見たクレアは、彼女が何をしようとしているのか考えるのはやめた。港に着くと高く長い階段の入口に体の大きな男性二人が両側に、中央では細い男性が一人で乗船券を確認しながら一人ずつ案内していた。


「ちょっとまってて、あたしが試すから。入れたらクレアも――」


「あ、ちょっと! 気を付けて」


 流れるような動きで集団の中へと紛れ込むエレノア。数分すると大きい男性が猫の首根っこを掴んでくるかのようにエレノアを集団の外へと運んでいるのが見え、クレアは笑っていた。降ろされたエレノアは彼女の元へと戻った。


「ちくしょう。だめだった。それじゃ本番といきますか」


「え?」


 驚いたクレアに対して怪しい笑みを浮かべるエレノア。「こっちへ」というようにクレアを連れて行った先は、港で会った不思議な男性が動物を運んでいた場所だった。そこは動物や荷物を運ぶためにまだ扉が開いていた。リスの入った小さな籠を持ち上げるとクレアに渡し、


「ほい。これを運ぼう」


「ちょっと、それはまずいんじゃ」


 すれ違う船員とあいさつをしながらベテランの雰囲気で荷物を運ぶエレノア。たまに「誰だアイツ?」という感じで見返されるも堂々と歩くエレノアは適当な名前で呼び「よお、今日もよろしくね」などと言っていたり、「荷物を運ぶように頼まれたんだけどこれはあっちでいいかな?」と、まるで違和感なく紛れ込んでいた。クレアはドキドキしながら後ろを追いかけていた。


 船の中へと入ると、早々に荷物を置き「こっち!」と隠れるように移動を始めたエレノア。クレアも姿勢を低くしてついて行くと、通路の先に大きい引き戸の部屋へ入った。そこは、たくさんの羊と胸の高さほどの木箱が数個、それに羊の餌らしきものが積んであった。


「ひひひ。成功、成功。よし、ここの羊の群れに隠れよう。あそこの木箱の後ろ。こいつら騒がしいし、大丈夫。きっとバレないよ」


 二人は木箱の後ろに隠れると通路から見えないように気をつけながらしばらくの時間を過ごした。すると、外から響いてくる大きな音と共に町の音が小さくなっていく。動物や荷物を入れていた搬入口が閉じられたのが分かった。通路から足音が聞こえてくると二人は息をひそめた。


 クレアとエレノアが隠れている羊の部屋へとやってきたのは、港で二人に声をかけてきた男性だった。通路では別の誰かが彼に声をかけていた。


「また頼むよ。あんたがいるから最近は楽で助かるよ。おれもそんな笛ほしいなぁ。それが動物をなだめるんだろ? 便利な道具だよな」


「そうだね。それじゃ、私はここを片付けたらすぐに行くよ」


 会話を終えた彼は、部屋に入ると入口に近いところで羊たちの様子を見守っていた。こっそり様子を見ていたクレアは、木でできた笛を持っている彼の手が見えた。そして、笛を吹く仕草もなくしばらくすると通路に誰もいないことを確認するように一度戻り、再度羊たちの方へと振り向き、


”静かに眠れ”


「あれ……? クレ……ア……」


 彼が笛を使わずに呟きながら、もう片方の手で空中を撫でるのが見えたと思ったら、羊たちがみるみる眠っていく。傍にいたエレノアもあっという間に眠り落ちてしまった。頭をぶつけないように彼女のことを支えたクレア。何か違和感を感じたのか部屋を出ようとした男性がふと立ち止まると、クレアは必死に存在を消すかのように身をひそめた。


「何か……。気のせいかな? それじゃ、また来るよ。ゆっくりお休み」


 そして、通路に戻った男性がガラガラと扉を閉めるとそのまま、ガチャっという音と共に二人は閉じ込められてしまった。たくさんの眠れる羊とエレノア、座れば十分に隠れられる高さの木箱が数個。クレアは幸せそうに眠るエレノアの頭を撫でながら、どうしたものかと考えていた……。

■ギルド 冒険者だけではなく、料理・商売・生産・他色々と豊富。場所にもよるが、一階の受付兼食事処は情報交換と交流の場、夜は賑やかな酒場になり、就寝時刻前に静かになる。町には欠かせない存在。


■クレア 体にできた模様がすごく気になり不安。エレノアに言えてないこともあり……

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