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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
67/144

67 港町

ヘンザ達と別れて、港町へと向かう二人

二人とも14歳になろうとしているところ。



挿絵(By みてみん)



 クレアとエレノアの二人は、ヘンザ達と別れてから数か月かけて港町へと辿り着いた。道中、エレノアの好奇心で迷子になると、クレアが困っている人や生き物を見つけては助ける。そんな二人は、一か月で到着するところを何倍も時間をかけて移動した。


「やったぁ! ほら、あれ! 港町だよ! 海だ! 見てクレア! ……なんだぁ、この匂い」


「ふぅ。ほんとね……。本でよく見た『海の香り』っていうのじゃない? すごい」


 体や頭に葉っぱをつけたまま二人が現れたのは、町と海を見渡せる崖の上。先には初めて見る海が広がる絶景。波の音は聞こえずとも、漂う磯の香りを拾おうと鼻の下を伸ばしている二人はお互いの顔を見て笑った。


「あはは――。クレア? 町っていうからさ、もっと、こう大きいのを想像してたんだけどさ……?」


「そうね……。まぁ、確かに思ったより小さいけど、ほら見て、あそこ。立派な建物がある」


 クレアが指差したのは、港町の中央に位置する石造り二階建ての建物だった。木造の家が多い中、その建物だけは灰色の石で出来ていた為、すぐに目についた。


 崖を迂回して町へ入ると、二人はまずその建物へと向かった。入口の扉は開いたままで、中へ入る四、五人は座れるテーブルがいくつかと、奥にカウンターと掲示板があった。その様子を見たエレノアが、


「宿屋と大して変わんないじゃん」


「そうね。宿も兼ねてるって。登録しておけば色々と便利だってお父さんが言ってたよ」


 冒険者ギルドへ入ってきた十代前半の少女が二人。それに気づいた受付の女性が優しく声をかけてきた。三十代の女性で年季の入った白いエプロン姿にブラウンの長い髪、首元で括ったその髪を胸の前に流している。


「あら、こんにちは。どういった御用かしら? お嬢さん方」


 横に立っているエレノアが、大人の女性が放つ『お嬢さん』という言葉に反応し、なまめかしく尻尾を動かす。最近凝り始めた大人歩きだ。


「こんにちは。私はクレアです。お父さんがここで登録しておくように言ってました」


「あたしはエレノア! 見てのとおりいい女」


 クスクスと笑う受付の女性。猫の獣人アニムの少女エレノアの腰と尻尾の連動した動きにかわいらしさを感じながら、


「そうね。エレノアは大人の魅力がすでにあるものね」


「はっ!」


 それを聞いたエレノアは尻尾をなびかせる。まるで長い髪を胸の前から背中へと、首の動きだけでなびかせるように……。そんな雰囲気で近くの椅子へと座った。受付の女性はクスクスと、クレアは微笑ましくその一部始終を眺めた。


「登録をしたいって言ってたわね? クレアは何歳になったのかしら? 女性は紹介状がない限りは十六歳以上にならないと無理なのよ?」


「紹介状……。あ、そうだ。お父さんから預かった物が――」


 クレアが思い出したように背負っていた荷物を降ろした。中から小さな硬貨を一枚取り出し、受付の女性に渡した。すると彼女は、その硬貨を掴み表裏をじっくりと見つめると驚いた顔でクレアに、


「まぁ! これは推薦硬貨ね。お父さんの名前は?」


「ウィリアムです」


 後ろにある本棚から一冊の本を選びカウンターに広げると、ページをめくりながら、


「ウィリアム……ウィリアム……。結構な人数いるわね。ここにある台帳だけでも沢山いるわよ。まぁ、まさか『赤い槍』のウィリアムってことはないわよね? お母さんはアゼリアかしら? 二人は恋仲だったって聞いたことあるわ。『赤と青の騒乱』って言って、有名な二人なの」


「アゼリア……? いいえ、知らない」


「そう‥‥‥。私は会ったことないんだけど、すごかったらしいわよ。冒険者の間じゃ有名な二人ね。ある時から見なくなったらしいけど――。あ、ごめんね。話がそれたわね。えーっと、クレアにエレノア……」


 女性がぶつぶつと言いながら二人の登録をしていると、何かを思い出したように後ろの部屋へと入っていった。中からは本棚や引出を開ける音が聞こえた。カウンターに肘を突き寄りかかっていたクレアにエレノアが声をかけた。


「どしたの、クレア?」


「ううん。わかんない。ねぇ? エレノアは『赤い槍』って聞いたことある? レッドランスのウィリアムだってさ」


「レッドランスゥ? 聞いたことないよ。でも、かっこいいなぁ……。二つ名ってやつでしょ? アタシもそういうの欲しいな」


「あはは。それじゃ、エレノアは……ブラックフライパンのエレノアね?」


「はぁ!? それじゃ、どこの家にもいるじゃん! もっと、大人の女性を表す――」


 受付の女性を待っている間、二人は他愛もない会話していた。「あった!」と大きな声が聞こえると、受付の女性が一枚の紙を持って出てきた。


「ごめんなさい。これよこれ。クレアとエレノア。どこか聞き覚えがあると思ったのよ。二年くらい前かしらね。指定依頼を受けたの。依頼者は……ジョゼフさんね。二人を指定しているわ。知り合いかしら?」


 クレアは「ジョゼフ」と名前を聞いた瞬間、シエナが来た日のことを思い出した。父が使っていた名前だ。これはきっと、お父さんからの依頼なのだろう。思わず笑顔がこぼれた。


「あはは。はい、知ってます。それで内容は?」


 依頼の内容はシンプルで『地図の更新』というものだった。町にある本屋で地図の更新を手伝うのが仕事。受付の女性は、少女二人を指定したことに疑問を感じて首を傾げていた。


「それじゃ、受付完了ね。本屋はこの道を進んだところにあるから。まぁ、本屋って言ってもここじゃ何でも屋だけどね。報酬は本屋の主人が払うことになってるわ」


「はい」


「あ、それと二人とも登録したから、ここ、っていうか各地ギルドの宿を無償もしくは格安で使えるようになったから。この町にも宿はいくつかあるけど、もしも泊るところに困ったらここへ来てね。女の子二人じゃ、大変だろうし」


 受付の女性が最後にウィンクをして二人を労った。クレアとエレノアはお礼をいい、目的地である本屋へと向かった。その道中でエレノアが歩きながら自分の二つ名を考えている。


「美しきエレノア」

「それ、二つ名っていうか評判じゃない?」


「キャットウォーク・エレノア」

「女歩きクレア、みたいなものよ?」


「……! 忍び寄る美少女エレノア!」

「何歳まで少女なの?」


 エレノアが下唇を突き出し、不貞腐れた顔で隣を歩く。微かに聞こえる波の音や、鳥の鳴き声。森では聞いたことのない音や匂いだった。


 目的地の本屋はすぐに見つかった。壁に吊るされた木の板に本の絵を描いたものが看板になっていた。扉はなく、ほとんど野菜や果物を売っているお店と同じような形だった。乗っかっているのは服から小物から食べ物まで。何でもある。奥に座っているのが主人で、丸く太った四十代の男性。目が合い、クレアが道から声をかける。


「こんにちは。クレアとエレノアです」


「いらっしゃい、こんにちは。何を探してるんだい?」


「ジョゼフからの依頼で来ました。地図の更新をするように頼まれました」


 それを聞いた主人が「ジョゼフゥ!?」と驚きながら急いで立ち上がる。狭い店内、棚と棚の隙間より大きいおなかを器用に運びクレアの元へ急いで寄ってきた。そして、


「きゃぁ」


 主人は喜びのあまり、クレアの肩を掴もうとしていたのだが先にぶつかったのはその大きいおなかだった。押されたクレアが後ろのこけた。エレノアが横でその様子を見ながら笑っていたが、困った主人が目を合わせさっきと同じように両手を広げると、「うわ、くるな!」と言いながら距離を取った。


「ごめんよ。思ったよりお腹が大きいんだね。昔から変わらず店内を動いてるから、ついつい」


「あははは。器用に動いてたもの」

「あはは」


 笑いながら言うクレアにエレノアが手を貸した。二人はどしどしと歩く主人を追い、店内奥の作業場へと入っていった。そこには沢山の地図とベッドより大きなテーブルがあった。


「すごい数。みて、エレノア! これ、全部同じように描かれてる」


 主人が作業テーブルの上に大きな皮を一枚広げる。上に紙を載せ、さらにガラスを一枚被せる。棚から一本ペンを取り出すと、クレアに渡した。


「変わったペン。ちっちゃい魔法の杖みたい」


「ある意味当たってるよ。これで描くとそのまま下の紙、さらには皮に写るから。例の地図を持ってるんだろ? はやく、はやくみせておくれ」


「これのこと? はい」


 クレアが地図を渡すと、主人はそれを両手で広げて嬉しそうに見つめていた。「おお!」と声をあげては細部までしっかりと調べるように眺めた。


「そんなに珍しいのかな?」


 エレノアが部屋の中にある丸椅子に座り、退屈そうに眺めていた。主人は地図をクレアに返すと説明を始めた。


「ちっちっちっち。エレノア。これはね、とても貴重な物なんだよ? 初めてこれを見た日には、それはもう……。まぁ、とにかく知ってると思うけど、それは常に更新されてる。君たちにしてもらうのは、持ってきた地図の更新された部分をここにある古い地図に書き写すことだよ」


 丸椅子に座っていたエレノアが、ギョッとした顔をすると主人が続ける。


「はっはっは。これ全部じゃないから安心して。一枚描けばいいんだよ。あとは特殊なインクと光を使って、他の紙に移していくからね。まぁ、今の地図でも十分使えるんだけど、その地図の正確さには敵わないからね」


「どのくらいで出来るものなのかな……」


 クレアが心配そうに言うと主人が笑顔で、


「大丈夫。街道付近だけだろ? そんなに時間はかからないさ」


 それを聞いたエレノアが顎を引くように驚いた。あまり顔を動かさないように、視線だけを動かしてクレアの様子を伺うと、冷めた目でこちらを見ていることに気が付いた。エレノアは、キイキイと音を鳴らし椅子を回転させてクレアに背を向けようとしたが、回転が止まらずに結局は顔を背けることになった。


「ジョゼフさんの時は二週間くらいでやってのけたよ。それに彼が言ってたよ。『この二人なら大丈夫。きっと、お前が感動するような出来栄えになるから』って。二人がかりだし、すぐ終わるだろう?」


「二週間って『街道付近』だけでってことですよね?」


「そうだね。そりゃ、他の部分も欲しいけど……。そんなことしたら一か月はかかるぞ? それに、どこのどいつがここに来るまでにそんな山や森の中を歩き回るってんだい? まっすぐ道を進めばいいだけなのに? あははは、まかせたよ? 二人とも」


「あははは……」

「あははは……」


 主人が去っていく中、再びクレアの真顔がゆっくりとエレノアに向けられた。エレノアもその動きに合わせ、同じように、同じ方向に顔を動かす。その先には壁があるだけだ。


「ちくしょーーーーーっ!」


 二人は昼夜問わず作業をした。いずれにしても、この港町から船が出るのは一週間に一本だった。到着したら、荷下ろし、整備、荷をのせ、出航の繰り返し。同じ日に出発した船がお互いにすれ違うことで安全確認。それの繰り返しだった。


 幸い、店は主人の自宅になっていた。今は奥さんと二人暮らしで、嫁いで居なくなった娘の部屋を使い寝泊りすることが出来た。奥さんとも仲良くなり、まるで子供が帰ってきたようだと夫婦は嬉しそうだった。


 大きい作業テーブルに乗り、描いたり、消したり、二人で一緒に作業をすること一か月。依頼が完了し、その出来栄えに感動した主人が大喜びで走ってきた。エレノアの好奇心が思わぬところで役に立ったが、今はひたすら逃げ回っている。


「来るなよ! 手なんか届かないだろ!」


「エレノアちゃん! ありがとう!」


 奥さんとクレアがお茶を飲みながら、その様子を笑って見ていた。テーブルとガラスの間にある皮には地図が焼いたように写っていた。取り出して丸めると、専用の筒に入れて保管していた。そして、ガラスに小さな穴が一つだけ開いていた。それは、作業中も気になっていたものだ。そこへ、主人がインクを流し込み、紐を引っ張ると天上の窓が開いた。そして、水晶のようなものを通過した光がガラスとその下にある紙をキラキラと輝かせた。


「うわぁ。面白い」

「きれいね」


 テーブルの下には白紙が沢山積んであり、そこへ同じように地図が写しだされていった。昼時にしかできないが、一度で正確にかつ大量に作れる魔法の机だった。


「すごいだろ? これだけ細かくて正確な地図があればみんな大助かりだよ。本当にありがとう」


「こちらこそ。宿にご飯、お風呂に楽しい時間をありがとうございました」


「体当たりだけはごめんだけどね」


 二人が作った地図は、この土地で使う中で過去一番の出来だと本屋の評判が上がった。完成したとき、主人はその出来を見込んで報酬を払おうとしたが、旅をするのに困らない程度でいいと受け取りを拒否された。今までもほとんど使っていない二人にとっては、大量の硬貨は重い荷物でしかなかった。


 翌日、二人は無事に船へと乗ることができた。船での一泊、初めての船、初めての海の上。はしゃいでいたエレノアとクレアだったが、夜には疲れて毛布にくるまった二人は、体を寄せ合いウトウトしていた。エレノアが気になっていたことをクレアに聞いた。


「ねぇ、クレア?」


「なぁに、エレノア」


「クレアの腕と脚に出来た入れ墨さ……。何なのかな?」


「……何だろうね。魔女に会った日、腕に痣みたいなのがあることに気づいたの。檻の事覚えてる?」


「うん。忘れないよ」


「私ね、その時は痣だと思ってたの。それで、キャンプでエーダやネンリと一緒にお風呂に入ったでしょ? あの時、服を脱いでる時にこれが痣じゃなくて模様になってることに気が付いた。魔女に掴まった時は痣みたいだったのに」


「あの時は、アタシも驚いたよ」


「うん。エレノアのおかげ。あの時はありがとう」


 エレノアがクレアの肩に顔をのせると、クレアも顔を寄せた。エレノアが心配そうにクレアに、


「魔女のせいかな?」


「こわい?」


「……少し」


「私も……」


「でも、クレアが怖いんじゃないよ。それが何なのかわからない事が怖いんだ」


「そうね。私も……」


静かな海と船の音が揺れていた。少女二人は手を繋ぎゆっくりと眠りについた。海を渡り、湖の街「ミシエール」へ向かうため。そこには街の魔女がいる。父ウィリアムが示した場所。そこで何かわかるかもしれない。クレアもエレノアも考えは同じだった。


 ただ、クレアにはエレノアに言えないでいたことが一つだけあった。彼女自身、それは考えないようにしていたが……。

■ レッド・ランス ウィリアム・ハートレッドの二つ名 赤い槍

■ アゼリア・ブルーベル 「レッド&ブルー」「赤と青の騒乱」として有名 ある時期から二人とも消えた。

■ クレアの地図 父が使っていた地図。近くの地形を映し出す面と、世界全体を映す面がある

■ 地図屋 この世界ではとても便利。ランドマークや棲息動物、植物などを記載していることも多い。

■ ギルド 様々なギルドが存在する。冒険者ギルドはとても便利。宿としても重宝される。


四章の始まりです。


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