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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
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66 ★②淡いピンクの瞳

魔女の話

魔女の視点



 あの人はもう帰ってこない――


 数日前、街へやって来た冒険者っぽい格好をした男達。どこから来たのかわからないけど、何やら街で体つきのいい男を見かけては声をかけていた。


 今朝はガシャガシャと音を立て、噴水の広場に集まっている。耳障りな音……。どこの馬鹿があんな怪しい男達について行くって言うのかしら……!?


「どうした? モニカ、そんなに慌てて」


「お父さん! あたしのケーブルが!」


「??」


 何してるのよアイツ! 


「ケーブル!」


「おう? どうしたモニカ?」


「どうした? じゃないわよ! 貴方、本当にこの人たちと魔女を殺せるなんて思ってるの!?」


「ああ。それだけどな、俺も噂は聞いたことがあるんだ。『魔女を殺した』ってな。それに見ろよ? こいつら強そうだろ? 俺だって負けてないぞ」


「確かに貴方は街で一番強いけど……。そんなの魔女には通用しない。お願いだから……。私たち、来月には結婚するのよ!?」


「ははは。魔女は殺せないってのも結局は噂じゃないのか? 百年以上誰もやってないんだろ? それこそ怪しいじゃないか。大丈夫だよ、ほら。それに報酬も出るんだ。それを元手に商売でも始めようじゃないか」


「お願い、嫌な予感がするの」


「おいおい、泣くなよ。危なくなったらすぐ逃げてくるからさ。愛してるよモニカ」


「……。馬鹿! ケーブルの、馬鹿!!」


 魔女のいる森へは一日程度。気をつけて過ごせば街の人が犠牲になることはほとんどない。わざわざ殺すほどでもないというのに……。ここ百年以上は落ち着いているのになんで今更? 魔女は殺せないってずっと言われてきたのに。痛い目にあって、帰ってくればいい。


 それが私たちの最後の会話で、私の考え。


 もう、戻ってきてもいいはず。町一番の男と言われた私のケーブル。周りの視線や憐れむ声が私の胸を黒くする。たかだか十人にも満たない人数で魔女を倒せるはずもない。枯れた涙に替わり、目からは怒りがあふれる。


 しばらくすると、別の集団が街にやって来た。今度は前よりも多い人数。前回と同じように街の中を物色し、男に声をかけていたが誰も参加しなかった。当然だ……。そんな彼らも、出発してから一週間以上帰ってこない。


 馬鹿な人たち……


 今度は街に、三十人近くの人たちがやって来た。今までの人たちの装備がまるでまがい物だったように感じるその風体。古臭い鎧や武器でさえ、使いこなされたのが分かる安心感。


 また街の人たちに声をかけている。噴水の広場に張り出された張り紙には報酬について書いてある。これが手に入れば、新しい人生を歩めるだろう。大切な人と……。


 妬ましい……


 街からは沢山の男達が参加していた。装備や物資を運ぶだけでも破格の報酬が出る。いざとなれば逃げればいいのだ。当然、参加するだろう。広場では、恋人を送り出す様子もよく見える。


「モニカ? たまには外に出たらどうだい?」


「うん。昼間は出たくない」


 窓の傍に置いた椅子が私の定位置になっていた。お父さんは毎日、私の綺麗なピンクの瞳を見るのが好きだった。ここしばらく、お父さんとは目も合わせていない。どうしてだろう?


 三十人以上の人数になり、魔女の森へと出発した男達。すでに三日が過ぎた。唯一戻ってきたのは、腰から下が鹿になった男。顛末を話すとそのまま息絶えた。


 不思議と私には、全滅の話を聞いた時に安堵する感情が訪れた。そんな自分に腹が立った。何日も街には悲鳴が聞こえた。悲しむ声、憐れむ顔、虚ろな表情。そんなもの、私はとっくに経験している。なんて耳障りなんだろう。


 こんな街は嫌いだ……


 そうか、お父さんと目を合わせたくない理由がわかった。ケーブルが死んだあの日から、私の何かが失われた。いや、芽生えたのか? どちらにせよ、それは自分以外の幸せな人たちに向けられる怒りと憎しみだ。


 でも、お父さんのことは憎めない……だからだ。


 それから数週間もしないうちに、四十人以上の屈強な男や魔法使いが現れた。明らかに違う。それを見て皆が怒りを覚えた。その怒りは、魔女へと向けられる。息子を失ったもの、愛する者を失ったもの、父を失ったもの。皆が何かを抱えていた。


 それと、破格の報酬。参加するだけで、家を建ててもお釣りがくるほどの額と物資だ。おかしい……。お父さんも参加すると言いだす始末。


「ねぇ、お父さん。ほっとこ? 魔女は殺せない」


 優しい手……。いつもは嬉しそうに私の瞳を見つめるのに、今はとても悲しそう。昔はよく、「お前の瞳はお母さんと同じだね。すごく綺麗で、一緒にいるだけで優しい気持ちになれるよ」って言ってくれた。私の淡いピンクの瞳。お父さんはそれを焼き付けるかのように見つめると、抱きしめ、出て言った。


「モニカ……。愛してるよ」


 この時だけは、怒りが隠されてしまった。悲しみで覆い尽くされ、それは次第に卑屈な考えへと変わっていく。


 どうせ、皆死んでしまうんだ……


 数日すると、鎧の音を響かせ彼らが戻ってきた。私は驚き、久しぶりに昼間だというのに玄関を開け、外へと飛び出した。靴を履くことさえ忘れて、裸足のままお父さんを探した。


 探した


 探したけど、いなかった……


 合計で百人近くになったというのに、戻ってきたのは三十名弱。そのほとんどが外から来た男達だ。だが、男達は喜んでいる。「魔女を殺した!」と、ある者は恋人と抱き合い、ある者は家族と抱き合っている。私の友人もその中にいる。


 大切な人と一緒に居られるなんて……


 目に入る全ての人が憎く見えた。私は家に戻り、外から聞こえる喜びと悲しみの入り混じった声を遠ざけるために窓を閉めた。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い……


 歯ぎしりするほど怒りを感じたまま、夜には眠ってしまった。そして、起きると心地よい音で目が覚めた。こんな朝は久しぶりだ。


 あれ? まだ夜明け前なのかな?


 空には黒い煙と……欠けた月。ああ、夜かな? 


 痛い。邪魔な鎧! ここは外?


 ああ、なんだろうこの生ぬるさ。足元が暖かくて気持ちいい。裸足のまま歩こう。ピチャピチャ音がするのも楽しい。あれ? あそこで泣いているのは友人の女。アハハ、男は……。


 いた。多分アレだね。顔がないけど、アレダ。


 そうだ、森に帰ラなきゃ


 悲鳴が聞こえるたび、苦痛と恐怖の顔で足元に倒れていくたびに何か黒い塊が私の魂にペタペタとくっつくのが分かった。何回か手足が飛んでいったけど、すぐに生えた。失うよりも、得るものの方が多い。なんだろう、この安心感。


 アハハハハ


 森に帰って眠ると、体が内側から生まれ変わるのが分かった。私はモニカ。モニカだった。今もモニカ? 誰? 頭の中は私なのに、内側の芯からは色々な記憶が流れてくる。


 そうか、これは魔女の記憶……

 私、魔女になったんだ……

 ケーブル……。そうだ、逃げ惑う中私の名前を叫んでた。哀れだな。

 お父さん……。男達に盾にされてた。愚鈍だな。

 ああ、魔女ってこういう事か。気持ちいいなぁ。


 これがモニカの記憶。哀れな女。


 え? 私はダレダ?


 

 ――、どれだけの年月が流れただろうか。



 森を彷徨う男女二人は最高の獲物

 誰が、誰を大切にしているのか

 最高の楽しみ

 怒りや恐怖、憎しみや悲しみを抱いておくれ

 私の魂はそれらを吸い、元に戻る 

 ああ、なんて幸せな日々なんだろうか! 


 ある日、遠い森で爆発が起きた。何か、割れるような感覚だ。そして、すぐにそれは現れた。幸い、ワタシは森を移動することが出来る。短時間であれば、問題ない。


 様子を見に行くことにした。少しずつ、影移動を繰り返しその距離を伸ばした。そしてそれを見つけた。森にいるのはエルフと人間の男。


 ああ、なんて美しく、温かく、清い娘なのか!?

 アイツからはどんな味がするのだろう……

 少しずつ近づき、男の目の前でゆっくりとやろう


 女エルフの傍にある木の陰からゆっくり、そうゆっくりと気づかれないように。もう少しだ。地面からもう少しで肘まで出てくる。


「アゼリア!」


 人間の男がそう叫んだかと思うと、その後のことは覚えていない。顎が割れ、影移動が止まってしまった。腕から上だけが地面から出た状態で止まっていた。


 影移動の最中に怪我をすると、もう元に戻らない。このアゴはもう戻らないね……。あの男、どうやったかわからないけど必ず殺す。


 おお、エルフの娘が自分から近づいてくる。腕を出せないのが残念だが、すぐに這い出てやる。さぁ、顔に触れておくれ。悲しみで満たされる前の顔をワタシに見せておくれ!


「ねぇ、おばあさんが土から生えてる!」


「え、違うよ! 何してるんだよアゼリア。さぁ、行こう」


「待って! 顎が、痛そう。ウィル、ちょっとだけ待ってて」


「いや、魔法使えないだろ? 顎は治せないぞ? 鍛冶屋の主人にも試したじゃないか」


「きっと、この人、土の精霊よ。可哀想。ほら、見て! 綺麗なピンクの瞳」


 この娘は何を言ってるんだかね。まぁいい、さぁ、さぁ……。


 ギイィイヤァアアアアアぁぁぁあああ


「ほら、苦しそうだから、行こ? なんか黒い煙出てるしさ。それ、あれだよ。胞子の出るキノコ。おばあさんの形のキノコだよ」


「そうなの? ホント、苦しそう。ごめんなさい。おばあさんの精霊のキノコ」


「いや、それもう何が何だかわかんないよ。さぁ、皆と合流――」


 ああ、力が、何だあの娘は……。根こそぎ持っていかれた。ああ、だめだ、くそ。影に戻ってしまう。これじゃ、しばらく戻れない……。


 それにしてもあの娘の、あの手。あの暖かさ。なんて心地いいのだろうか? あぁ、そうだ、私はモニカだ。綺麗なピンクの瞳の女。


 また、あの娘に会いたいな……


 あの魂の匂い……


 忘れないよ……


 また探しに……


 イクカラネ……



 たしか、人で言うところの十年近く経っただろうか。あの娘の気配が消えてからというもの、いつもの日常に戻った。陰から出るのに数年かかったが、地上に出るころにはエルフの娘が消えてしまった。


 ある日、遠くの森であの時と同じものを感じた。前と感覚は違うが、きっとアレだ。波打ち際に立ち、一瞬満たされたかと思ったが、引いていく水に体を持っていかれる感覚。私は、又それを探すことにした。


 何年もかけ、少しずつ影移動をし距離を伸ばす。今では、洞窟の中に家を作り、小さな森であれば元いた場所とこことで二つほど支配できるまでになった。もう少しだ、もう少しで辿り着くはずだったのに、近づくほどに場所が分からなくなる。どうしてだ!?


 そして、そこへ珍しくウッドエルフの集団が現れた。


 これは最高ダネ。皆がお互いを大切にしている。特にあそこの男女二組。

 

 ああ、最高ダネ……


 ソレジャ、始めヨウカ


 アハハハハ 


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