65 ★①大精霊とウッドエルフ
ヘンザ一行の後日談
■ ヘンザ 男 リーダー ネンリの夫
■ ネンリ 女 エーダの姉 新生児 杖魔法
■ エーダ 女 ネンリの妹 術式魔法と防護魔法
■ ジュピ 男 術式で足が速くなる 一番若い
■ シンザ 男 槍の使い手
「あの子達、大丈夫かしらね?」
「ははは。魔女を殺した少女を心配するのか?」
「そうは言っても、あの子達はまだ子供よ? 知らないことも多いはず」
クレアとエレノアを森の出口まで見送り、キャンプへと戻るヘンザとネンリが会話をしていた。安全になった森を移動するのは早く、日が暮れる頃にはキャンプへと辿り着いた。休んでいたジュピが戻ってきた仲間へ声をかけていた。しばらくの間は、魔女が死んだあとの森の調査と、また新しく生まれてこないか見守る為に森に滞在した。人間の言葉を喋れるエーダとネンリは二人ともフードを被り、近くの村や家を調べて回ったりもした。
ジュピの足が完治するのを待ち、森を出た四人。旅の目的は里を出て大精霊の元へと向かうこと。二十年近く現れなかった大精霊が突如として復活。各里の部族に対し、長や代表者を招集した。それは単に集まるのではなく、ヘンザ達のように世界を見て回ることが重要で、そこで見てきたものが集会で話されることとなる。
クレアとエレノアと出会った森を出て数カ月が過ぎた。大小様々な村や街といった人間の集落、森や家を調査しながら彼らも大精霊の元へと向かった。ヘンザ達が辿り着いた最後のウッドエルフとなり、翌日には大集会が開かれることとなった。とても大きな木の下では、長や代表者だけでも数百人、お供を含めると数千人に及ぶ集会となる。ヘンザ達をまっている間も皆が交流し、食事や会話を楽しんでいた。
集会の開かれた森の外は大雨だったが、この大きな木の下ではその雨水さえ届くことがない。その代わりに、木に開いた穴からは小川のように綺麗な水が流れていた。各テーブルには中央から一本の筒になった木が生えている。穴を伝って遠くの人にも声が届くようになっていた。そして、根っこ近くにある台座に大精霊が現れると、大歓声が轟く。
「皆の者、静かに――。お前たちの声に感謝しよう」
大きな木から生えてくるかのように現れた一人の人物。琥珀と樹液が混ざったような液体と、木で形成された体は男性のような体つきで、ウッドエルフの特徴を捉えつつも完全な人の姿にはなっていなかった。まるで、話すために作り出した仮の姿のようだった。「大精霊様!」と叫ぶものも多く、その声は全てテーブルから木を伝い大精霊へと届く。
「二十年近く待たせてしまった。この通り、私は健在だ。安心してくれ」
その後も集会では互いの里の話をしたり、人間の事や世界、森のことを話し盛り上がっていた。今回の旅で、仲間を失ったのはヘンザ達だけではなかった。人間に襲われた者達、森で魔女と遭遇し逃げた者達、魔物や動物に襲われた者達など理由は様々だった。大精霊がその名を呼ぶ時は皆が静かになり、盃を持ち上げた。
「ヘンザよ。面白い話をしていたね。皆に聞かせてくれるか? 声を通るようにしておいた。さぁ」
大精霊が死んだ者たちの名前を呼び終えると、ヘンザに話を振る。すでに同じテーブルに座った者たちからは馬鹿にされた話だ。大精霊の指示とはいえ、それをまた話すのかと考えると少億劫になった。
「俺はヘンザ」
名前を名乗るとどこからともなく「一番足の遅いヘンザだろ?」と最後に到着したことを馬鹿にし、笑う声が聞こえた。それ自体は他愛のない会話で別に気にもしていなかったヘンザだが、これから来るみんなの反応を考えると更にめんどくさそうになった。
「遅かったのには理由がある。俺たちは、さっき名前が挙がったハパとミキを含め七人で旅をしていたんだが、闇の魔女と出会いそのうちの一人が捕まってしまった。俺の妻だ。魂印の儀はこれからという時にだ」
それを聞いた皆が心配そうな顔で話を待った。
「俺たちは魔女から彼女を救うために森に留まった。そこへ人間と獣人の少女が現れた。旅をする中で森を通過している最中に俺たちが追う魔女と対峙したのだ」
ヘンザは盃から一口、酒を口の中に運んだ。そして続ける。
「一緒にいた人間は瀕死の状態になり、シティエルフはその身を挺して少女を救うために死んだ。皆が思うだろう。人間とアニムの少女が死ぬ様を。だが、それは違う。彼女達は俺たちが仲間を失いながらも倒せなかった魔女を殺したのだ。それを俺たちはこの目で見たのだ」
周りでは少しずつざわめきが広がっていた。
「それで、俺たちは魔女が生まれるのを確認してから森を出ようと思い、しばらくの間はそこに滞在していた。結局のところ、本当に魔女は死んだようで新しい魔女の確認をすることが出来なかった。それで遅くなってしまったのだ」
たくさんのざわめきと笑い声、酔っ払い罵倒するような声も聞こえる。それを聞き分け、ヘンザに質問するのは大精霊だった。
「ヘンザよ。お前の妻が助かったのか気になる者もいる。答えてあげなさい」
「はい――。それと、俺の妻は生きていた。ここにも無事に連れてこられた。正直なところ、その少女二人が居なかったら助けられていなかったと思う」
朗報には皆が歓声とテーブルと叩く音で応えた。大精霊が続ける。
「ヘンザよ。魔女を殺したのか?」
「はい。私は早々に倒れ闘いそのものはしっかりと見ることは出来なかったが、その姿は我々ウッドエルフの戦士に匹敵するほどだと聞いた。闇の魔女と渡り合い、退かせた程だ。しかも、たったの二人でだ。人間の少女が魔女に掴まり、小さな塊の中に閉じ込められ、次に出てきた時にはもういなくなっていた」
「どうして死んだと?」
「森が解放されたからです。魔女が作り出した塊が崩れ、人間の少女が現れるときに森が解放された。魔女の姿はなかった。それと同時に、鹿に変えられていた俺の妻、ネンリが姿を現した。そう言った点を踏まえ判断をした」
また、色々な声が聞こえた。「逃げただけじゃないのか?」「死んでもまた生まれるだろう」「人間の、しかも少女が魔女を殺しただと?ありえない」などと言った否定する意見が多い。大精霊が続ける。
「皆の意見は分かります。とにかく、興味深い話。それと、ヘンザとネンリの魂印の儀を取り計らいましょう。さぁ、こちらへ」
呼ばれたヘンザと、別の場所にいたネンリが共に大精霊の元へと集まった。周りからは笑い声と称賛と祝いの言葉が飛び交ってくる。大抵は「ヘンザをしっかり支えろよ!」とか「酔いすぎて、また変なこと言い出しても優しくしてやれよ!」などと言った内容で、冗談めいた口調で盛り上がっている。
「ヘンザ? 気にしないで。実際に見てた私だって信じられないんだもの」
「ネンリ。わかってるよ、ありがとう。里に帰ったらしっかりと物語にするさ」
二人は大精霊の前まで来ると向かい合う。そして、差し出したヘンザの右手の上にネンリは手を優しく添える。お互いに左手は自分の胸に当てていた。大精霊が二人の状態を確認すると、重なり合った右手に一滴の光を落とした。
「二人の魂が強く結ばれる。何人も、彼らの繋がりを断つことは出来ない。二人にとって、お互いにとって、肉体を失っても尚、時を超え、世界を渡り、惹かれあうことを証明する」
大精霊が言い終わると、二人の重なった手を覆う白い光が少しずつ伸びていく。会場中の者達が拳や食器でテーブルをドン!ドン!と響かせ始めた。ヘンザの光は体に近い程に緑色となり、ネンリは黄色となる。全身がそれぞれの色の光で包まれると、大精霊がうなずく。そして、二人とも歩み寄ると胸に置いた左手を、お互いの胸に移動させた。途端に混ざり合った光は、黄緑色に輝き胸から体、体から右手へと大きくなり、最後には二人ともが一色に輝く。光の色は黄色と緑と混ざった色とで美しく移ろいていた。
「おい! 奥さんの色の方が多いんじゃないか! 尻に敷かれるなよ!」
魂印の儀でよく聞く言葉だ。皆が笑い、祝う。そんな笑いと心地よい罵声の中で二人は見つめあい、ゆっくり、柔らかく唇を重ねた。
「ネンリ。新生児としては過酷な旅でしたね。ヘンザもよくぞ無事に守り抜きました。魔女の話は面白く、興味
深い。ともあれ、今までにないことが起きているのも事実。さぁ、二人には席を用意した。無事にたどり着けるといいが……」
溜息をつくヘンザ。振り返ると、元いた席の近くに新しいテーブルが出来ていた。距離にして数十メートル。まっすぐ歩くだけだ。問題なのは、新郎に襲い掛かってくる男達……。ふと思いだしたヘンザが大精霊に、
「そう言えば、シティエルフが死ぬときに金色に輝く魂のようなものを見たと言っていました。スピカナという者です。うちのエーダがとても気に入ってました。もし、彼の魂がウッドエルフとして生まれ変わるのなら、ぜひうちの里へ。とても勇敢な男でした」
「金色に? それはまた……。スピカナ。覚えておこう」
再度振り返ったヘンザが「うし!」と気合を入れる。肩に手を添え「がんばれ」というネンリ。皆が集まる場で魂印の儀を大精霊に直接してもらうことはこの上ない名誉なことだが、ここから始まるのは腕試しという茶番。妻を奪うかのような設定の男たちが、『勝たない』のを前提に勝負を申し込んでくる。いつからか始まった、めんどくさくも盛り上がる風習だ。
小一時間かけてテーブルへと辿り着いたヘンザは既にボロボロだった。それを癒すのも妻の最初の仕事だ。そして、大精霊が皆に伝える。
「ヘンザの里にはしばらく長がいなかったようだ。そこで彼を、長へと任命する。実力、経験、人望ともにふさわしいと言える。それでは、引き続き楽しんでくれ」
テーブルに寄りかかるように座ったヘンザが、盃を持ち上げると皆が応える。大精霊も軽くお辞儀をするとそのまま木へと帰っていった。集会はその後も数日続き、各々のタイミングで少しずつ解散していった。ヘンザ達も、4割程度が居なくなった頃には自分たちの森へと帰る準備をしていた。
数か月かけ自分たちの森へ戻った彼らは、ハパとミキの物語を完成させた。集会で話した時とは違い、そこにはクレア、エレノア、シュー、スピカナの名前をしっかりの載せた。そして、さらに数か月すると森から独りの子供が生まれた。小さな男の赤ちゃんで、さらりとした髪が特徴だった。授かった名前を見て一番喜んだのがエーダだった。
ふと、ヘンザがクレアとエレノアのことを口走る。
「あの子たちは大丈夫だろうか?」
それを聞いたエーダが小さい赤ちゃんを抱えたまま笑う。そして、ネンリも微笑みながら、
「あら? 心配するようになるなんて。これで貴方も立派なお父さんね」
恥ずかしそうに首の後ろを掻くヘンザ。昔、逆のことを言ったことを思い出し笑っていた。
■ 魂印の儀 こんいんのぎ 要はアレですよ。ダジャレじゃないですよ。たまたま。たまたまです。
■ 大精霊 木から生えてくるように現れる。魂の管理者とも呼ばれる。ウッドエルフにとって重要な存在
■ ウッドエルフの里 世界各地に点在している。~~の里とか、~~の部族と呼ばれる。スタイルは様々。森で暮らすもの、調査をするもの、土地を守るもの、他種族と争う部族も少しいる。




