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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
63/144

63 ウッドエルフ③ シューの治療と赤い顔

ウッドエルフの服装(普段着)


男性:腰布に飾りと入れ墨 肉体美

女性:腰布に胸布(片方の肩かけ) 目のやり場に困る 髪の飾りと入れ墨が独特


by 片腕のシュー

 「クレア? 魔女は怖かった?」

 「うん。すごく怖かった。でも……」


いつもの場所、いつもの風景

心地よい風が、短い草を撫でるように

地面から空へと駆け抜ける


 「でも?」

 「でもね……苦しそうだったの。森も動物も魔女も」


そうか。ここはいつもの場所。


 「そうね。それにしても、よく頑張ったわね」

 「えへへ」


そうだ。この人の顔……どんなだったかな


 「私、魔女になるのかな?」

 「心配?」


 「うん。魔女が死ぬときにね。苦しい想いがいっぱい私の中に入ってくるのが分かった。あんな想いをいつも胸に抱えてたら、私……怖い。こんなに怖い想いをしたの、初めて」

 「こっちへ、クレア」


この感じ。安心する……。大好き。暖かくて、柔らかい


 「覚えてないの? クレア」

 「――? 何のこと?」

 「初めてじゃないのよ」

 「どういうこと――」

 「前にもあったじゃない。覚えてないのね」


――? ああ、まるで地面が動いているかのように離れていく。そうだ、思い出した。でも、すぐにまた……



 …レア!



 …てよ、クレア!



「ん……」

「起きてよ、クレア」

「エレノア?」

「どうしたのさ? あたしよりゆっくり寝てるなんて珍しい」


 エレノアに起こされたクレアが上体を起こすと、テントの中へと陽射しが入り込んでいるのに気づいた。


「朝? 私、夢を見てたんだけど……。なんだったかな」

「ゆめぇ? まさか、怖い夢じゃないよね?」

「どうだろ。でも……あっ」


 次第に目の覚めてきたクレアは、急いで自分の体を確かめた。魔女が死んで迎える最初の朝。閉じ込められた空間で闇の魔女が死ぬ時、自分の中へと入り込んできたのがわかった。消えたとはいえ、魔女になる可能性を完全に頭から消すことが出来なかったクレア。


「いひひ! 大丈夫だよ! 朝からずっとみてたんだから!」

「朝から? エレノアがそんなに早く起きれるなんて」

「あー! あたしを馬鹿にしてる!? っていっても、ヘンザが朝早くどこかに出かけたんだ。それに気づいただけなんだけどね」

「あはは。私の検査はそのついで?」


 クレアはエレノアとそんな話をしながら外に出た。気づいたネンリとエーダが「おはよう」と声をかけてくれた。向こうのテントからはシンザが一人、出てくると同じくクレアにおはようとあいさつをしてきた。


「目が覚めたのか。おはよう。今から川へ魚を取りに行くんだが、よかったら一緒に行かないか?」


 昨日聞いた話では、ヘンザとシンザの二人が一番、人間が苦手らしい。古いウッドエルフほど根深いものがあるそうだ。闘いの最中とは違い、平穏な時間に人間に声をかけるの気を使うらしく、葛藤しているようにも見えた。


 昨日は女性陣とずっといたせいもあり、シンザとジュピとはまだ話していない。それでも、クレアにはウッドエルフの男が軽視している人間、特にその女性に対して一生懸命に声をかけるシンザの姿に表情を隠せなかった。


「おはよう」

「人間の少女は、朝から笑顔なのか?」

「え? そういうわけじゃないけど……でも、貴方のおかげね。ありがとう。私はクレア」

「? シンザだ。話すのは初めてだな。お前の槍術、素晴らしかったぞ」


 魔女の洞窟で一度会ってるし、名前も知っているのにわざわざ自己紹介することに疑問を感じたシンザだったが、不思議と改めて挨拶をすることで彼女と話すのが楽になったのを感じた。


「その槍もすごい使いやすかった。それに、おかげで魔女の剣に届いたもの。ありがとう」

「そうか」


 ヘンザとは違い、すぐに慣れ親しむウッドエルフの男の姿を見て、なぜか誇らしげにするエーダとネンリの女性陣。顔をニヤニヤさせながらシンザの肩に腕を回すネンリ。


「そうだ、俺はこれから川へ行くんだ。起きた所だろ? 一緒に行くか? 魚を取りに行くんだが――」

「「行く!」」


 同時に応えたクレアとエレノア。魚を入れる網を持ち、三人はすぐ近くの川へと向かった。


 たどり着いた川には大小さまざまな岩があり、「待ってろ」と言ったシンザが静かに岩の上を渡り歩く。彼は川の中にいる魚の様子を見ながら移動し川の中央付近で止まった。


「昨日のお前達の動きは素晴らしかった。何より、人間で若い少女があの魔女を相手に一切ひるまず、目を逸らさず、勇敢に戦う姿には俺も見惚れてしまった」


 突然のシンザの賛辞に驚きから喜びの表情へと変わるクレア。横ではエレノアが「へへーん」と誇らしげにしていた。


「私はすぐに『使いきって』しまったが、お礼に見せてあげよう。ウッドエルフの術式で私の技だ。そっちへやるから受け取ってくれ」


 言い終わるとシンザは目を閉じ、両手を合わせる。すると、クレアとエレノアには何かの空間に引き込まれたような気がした。そして、


「あはは、すごいすごい!」

「あ、きゃぁ、そっち!」


 槍を持ったシンザは、どこにどのくらいの魚がいるのか完全に把握し、次から次へと水中から魚を放り出してきた。


「ふぅ。このくらいでいいだろ」


 川岸でシンザの放り出す魚を楽しそうに集めた二人。びしょ濡れになった様子にシンザは少し戸惑った。


「あはは。びしょ濡れ」

「面白かったぁ」

「ははは」


 シンザは二人の様子に笑い声をこぼした。クレアとエレノアは川の水で顔を洗い、魚の入った網を手に取りテントへと戻る彼の後を追いかけた。シンザの後ろからエレノアが、


「ねぇねぇ、あれってなぁに? 両手を合わせるやつ」

「ああ、あれが俺の術式。一定の空間内のすべてを把握できるんだ。だから、その間はひたすら攻撃に専念できる。今のも、魚の位置、大きさ、動き、向き、とにかく何でもだ」

「へぇ。え!? それって、すごいんじゃないの?」

「そうだな。ただ、消耗が激しくてね。普通は今みたいに短時間なんだけど、昨日は長く使いすぎてね」

「そっかぁ。あとで、ちょっと試したいなぁ……。本当に全部?」

「かまわないよ」

「やったぁ」


 三人がテントに戻り、魚を焼くとヘンザ以外の皆が集まり食事とした。ジュピはとても親しみやすく気軽に話しかけてきた


     ※


 食事の後はクレアの検査をした。エレノアはあまりいい表情をしなかった。シューがテントにいる中で、服を脱がそうとするネンリ。止めるエーダと、シューの目を塞ぎ外へと追い出すエレノア。


「よかったわね、クレア。おかしなところなんてないわよ」

「うん。ありがとうネンリ」


 クレア本人よりもホッとした表情を浮かべるエレノア。次いでエーダが、


「じゃぁ、次はシューの治療ね。呼んできてくれる? エレノア」

「あいよ」


 シューをテントの中へ連れてくるとエーダとネンリで治療を始めた。その様子をみながらエレノアが、


「ねぇ、ウッドエルフって術式っていうので魔法を使うんでしょ? どーしてネンリは杖でも使えるの?」

「私? そうね、私は新生児なの。まだ生まれたばかりってことよ」

「え!? 何歳なの!?」


 裸に近いような格好のウッドエルフの女性二人に、体のあちこちを触られ挟まれるシュー。彼女達が動くたびに何かがぶつかると顔を赤くしながらも耐えていたシュー。二人の動きが止まると少しホッとしていたが、はしゃぐ会話の動きに合わせてそれはまたぶつかる。


「「あははは」」

「何で、笑うのさ? だって、新生児っていったら赤ちゃんでしょ?」

「ごめんなさいエレノア。そうね。その通りなんだけど、私は見た目通りの年齢よ。お姉さんってこと。でも、私たちの言う『新生児』っていうのは、まだ物語のない子のこと」


 説明をするネンリに首を傾げて応えるエレノア。エーダが助け舟を出す。


「ハパやミキみたいに、何度も生まれてるわけじゃないの。姉さんは初めて生まれたのよ。だから、ウッドエルフの新生児なの」

「うー……。あ! 生まれ変わりで初めてウッドエルフになったってこと? え? でも、どうしてわかるの?」

「私たち、生まれた時に名前を授かってるんだけど、もしその時に今までにない名前が生まれたら?」


 手をポンと叩いたエレノア。


「あ、そういうことか」

「ええ。で、新生児の姉は私たちと違ってまだ、上手に魔法を扱うことが出来るのよ。杖と術式両方ね。私もまだ扱えるわよ」


 感心するエレノアに新たな疑問が生まれた。


「新生児なのに姉? んー、頭が……」

「あはは。無理に理解しなくてもいいのよ。文化とか風習って難しいところがあるからね。ヘンザもきっと、今のあなたと一緒で頑張ってるわよ」


 シューの治療が終わる頃、シンザがエレノアを呼びにテントへとやって来た。


「エレノア。よかったら手合わせするか? まぁ、俺と手合わせになるかはわからないが。これでいいか?」

「ははーん。見くびってますな! すぐ行くから、外で待ってて」


 二本の棒を簡単に削り、剣に見立てた物をエレノアに渡すと、シンザは外で待機する。エレノアは一本を持ち、もう一本を短くすると尻尾の括り付けた。昔やった手口だ。テントから出る時に全員を振り返り、


「倒してくるから」


 顔を照らす昼の光と影がドラマチックに魅せる。しかし、エレノアの「ちくしょー!」という叫び声が聞こえるのに時間はかからなかった。悔しそうに帰ってきたエレノが荷物を整理していると、フライパンに目を付けたエーダ。


「そういえば、そのフライパン。ドワーフ製よね」

「へっへーん。軽くて、硬くて、丈夫だよ」


 それを聞いたクレアが、


「エレノア? それじゃ武器みたいよ」

「ぎゃー。そうだ、これは料理をするための物だ。あたし、料理が好きなんだ」

「あら、私たちって料理をあまりしないから……。よかったら、今晩の食事は――」

「やるよ!! 調味料もおばあちゃんとこでいっぱい調達したし、やるよ!!!」

 

 エーダの提案に被せるように反応したエレノア。


「あははは。エレノアってば、なんでも料理しちゃうから」

「うるせいやい。あたしのおかげで助かってるとこあるでしょ? クレア」

「そうね。いつもありがとう」


 二人の様子を見ながらエーダが、


「ねぇ、それじゃ今日はエレノアの料理を晩御飯にしましょう。明日、シューを送るグループと、クレアとエレノアを送るグループに分かれるから。今日は盛大にしましょ」

「やったぁ!」

「はぁい。あ! じゃぁ狩りに行かないと」


 そして、エーダとネンリ、クレアとエレノアは森へと狩りに出かけた。楽しそうに話すたびに密着したまま動くネンリとエーダ。昔やった瞑想の修行と師匠の顔を思い出しながら耐えた男シュー。解放されるとそのまま「あぁー!」と言いながら後ろへ倒れた。

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