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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
58/144

58 闇の魔女⑤ ハパとミキ

■ハパ ウッドエルフで珍しい角顔の男。大きく、優しい。

■ミキ ウッドエルフで珍しいショートカットの女。おしゃべりな方。


 魔女を惹きつけるために奮闘していたジュピとミキだったが、今は二人とも焦っていた。


「くそう!」


 ジュピを追いかけていた魔女だったが、いつの間にか消えていた。洞窟の前でしたのと同じように、いつの間にか木の枝で周りを包んだ魔女。


 その"繭"を破壊すると、中は既にもぬけの殻だった。二人は急いで洞窟へと向かう。


「ジュピ! 先に行って!」


「だめだよ。もしも、これが罠だったら。ミキが一人になるのを待ってるのかもしれない。くそ。とにかく急ごう!」


 二人は、警戒しつつ魔女の洞窟へと向かった。


     ※


「ダレから、殺ソウか」


 崩れた洞窟の入口で一言だけ発した魔女。そこから少し離れた場所にクレアとエレノア、スピカナの三人が立っている。近くには洞窟の中で会った二人のウッドエルフ。ハパは洞窟を向いて、シンザは槍を両手で持ち警戒している。離れた所にエーダが、皆を心配そうな顔で見つめている。そして、


 シュッ!


 魔女が言い放った直後に、横から現れたリーダーのヘンザが長い剣で魔女を薙ぎ払うように斬りかかった。何も言わず、有無を言わせず、淡々とした様子で振り切る。


 剣先ぎりぎりで避けた魔女だったが、腹部が前半分ほど切り離された状態になっていた。すぐに再生が始まっているがそこへシンザが追い打ちをかける。


 槍を軽く上に投げ、両掌を合わせたシンザは魔女から視線を離さずにどこに槍があるのかわかっているかのように、上空から落ちてくるそれを掴み、突進する。


 魔女はシンザの槍を刃物で捌き続けた。シンザは魔女を突き、容赦なく痛めつけた。時折、空中で回転しながら切りつける技も、まるでどこから魔女の攻撃が来てるのかわかるかのように華麗に交わす。まるで、目が背中にもついているかのようだった。


 二人の攻防を見ているクレアとエレノア、スピカナの傍へハパがやってくると、


「クレア。俺たちがどうにかするから。離れて。あそこのエーダのところに」


 ハパがそう言うと、クレアは途中でヨタヨタと歩いていた鹿を抱き二人と共に、エーダと呼ばれた女性のところへ行った。


「あら、その怪我をしてるのね。まかせて」


 クレアが抱いていた鹿を地面に優しく降ろすと、エーダが治療を始めた。


「ありがとう、えっと、エーダ? 私はクレア、それとエレノアにスピカナ」


 ハパに指示をされて近づいてくる少女たちには気づいていたが、話しかけてきたことに驚いた。それは横にいたスピカナも一緒だ。


「あら? よろしくねクレア。驚いた……。私たちの言葉を喋る人間に実際に会うのは初めてよ」


「クレア? 古いエルフの言葉を知ってるのかい?」


 肩をスピカナに掴まれたクレアだが、自分の喋っている言葉が何なのかは知らない。


「ちょっと落ち着いて、スピカナさん。私、小さいころから使ってるだけで、これがエルフの言葉かどうかなんて知らない」


「そうなのか? 一体誰に……」


 話し始めた三人を横目にエーダは治療を続ける。横でエレノアが、


「お父さんじゃない? 私もそれ聞いて一緒に育ってるから、何となくはわかるから」


「エレノアも!?」


 クレアが驚くスピカナにまじめな顔で質問をする。


「スピカナさん……。あの、シューは? シューさんは……」


 キョトンとしたスピカナが「あぁ、そうだ」という感じで説明する。


「アイツなら、大丈夫。って、まぁ、腕は無くなったけど。彼女、えっと、エーダに救われたみたいで。今は彼らのキャンプで眠ってると思う。一応、様子を見てたんだけど、大丈夫そうだったから」


「よかったぁ」

「よかったぁ」


 クレアとエレノアが安堵する。クレアが話を続ける。


「どうしてここがわかったの?」


「あぁ」


 スピカナがエーダをちらっと見ては頬を赤くしながら、


「俺も少しだけ言葉がわかるからさ。彼女の会話を聞いて、ここが分かったんだ。彼女達は『爪痕』って呼んでたけど、おばあさんから貰った地図に『三本爪の岩』っていうのがあるんだ。で、実際に来てみたらウッドエルフが入口で見張ってるし、出てきたエレノアが『クレアー』って叫んでるもんだから」


「かっこよかったぜ! スピカナのあんちゃん」


 エレノアが褒めると、スピカナは指で鼻の下を擦る。少し離れた所では今も、ハパと槍持ちのシンザ、リーダーで剣持ちのヘンザが三人で魔女と闘っていた。


 エーダが鹿の治療を終わらせると立ち上がり、


「あそこで闘っているのはリーダーのヘンザよ。剣の腕は私たちの里では一、二位を争う程の腕前よ」


 エーダが指を差した先では、三人が連携してタイミングよく切り替わっては魔女を相手にしている。


「ハパとシンザには洞窟で会ったわね」


「うん」


「それともう二人。ジュピっていう若い子と、ミキっていう髪の短い女の子がいるの。多分、こっちに向かってるはずよ。二人が時間を稼いでる間に、ハパとシンザが洞窟の中へ行ってたわけ」


「ありがとう。おかげで私たち、檻から出ることが出来た。助かりました」


「……いいのよ」


 本当は、連れ去られる場面も全員で見ていたとは言えず、助かったクレアをみてほっとしていたエーダだったが、決意した表情で話をつづけた。


「あのね……。エレノアはアニムだし、スピカナはシティエルフよね。クレアは人間でしょ?」


 クレアはエーダから視線を外さずに頷く。


「そう……。クレアには悪いんだけど、私たち魔女を殺すわよ。この状況では逃げるよりも、魔女を殺すほうが生き残る可能性が高いから。それがどういうことかわかる?」


 クレアは自分が人間であると確認された意味を重く受け止めた。そして、


「はい」


「ごめんなさい。貴方がそうなるとは限らないし、普通は近くの村や集落から生まれるって聞いてるわ。魔女を殺したら、人間から新しい魔女が生まれるけど、私たちウッドエルフにはあまり関係のないことなの」


 エレノアは何となく意味がわかり、スピカナは単語を拾いながら魔女の知識と照らし合わせその内容を理解した。


「今、この場にいる人間の女性はクレアだけよ。どうこうできる問題じゃないけど、覚悟しておいてね」


「……はい」


 どこか遠くを見つめるようなクレアの肩を、エレノアが強く握りしめてきた。クレアは話題を変えてエーダに質問をする。


「あの、洞窟で聞こえた声はエーダさんのですよね?」


「ええ。ああ、あれはね」


 エーダは手のひらをクレアに見せた。エレノアとスピカナも不思議そうに見つめる。全部の指先の腹に図形と文字で入れ墨が彫ってあった。


「これは私たちウッドエルフの魔法。まぁ、術式だけど。組合せで変わるのよ。そこに声を通して、洞窟の中まで響かせてたってわけ」


 エーダが魔女と闘っている三人の方を見て説明を続ける、


「彼等にもそれぞれ彫ってあるわ。だから安心してね。強いから。あの魔女も相当強い方だけど、もうあんまり力が残ってないみたい。昨日、貴方たちの仲間の腕を平らげて、少し戻ったみたいだけど」


「そう……」


 クレアはエーダの言葉に違和感を感じた。確かに、三人は強い。それでも、なぜか魔女を見てると不安が拭えなかった。クレアは、自分たちの置かれた状況をよく考えた。大きく息を吸い、囲まれた壁を見て辺りを見回していた。


「貴方、スピカナっていう名前だったのね。よろしくね。かっこよかったわよ」


 スピカナに手を差し出したエーダ。自分の名前を呼ぶのが分かったスピカナは、彼女から差し出された手を見て、顔を見て、舞い上がり何を言ってたのか全く分からくなかったがエレノアが、


「かっこよかったってさ。もう、顔を赤くしちゃって。にひひ」


 スピカナはエーダの手を握り、顔を赤くしたまま頷く。エーダは笑顔で応えてくれた。横ではエレノアが嬉しそうに見ている。


 周囲の高い壁を見ながら、少しだけ歩いたクレアがあることに気づき、そんな三人に振り返り不安そうに、


「エーダさん! さっき、二人がすぐに合流するって言ってた」


「え、ええ。ジュピとミキよ」


 クレアが魔女を見る。


「あの魔女。その二人を待ってるんだ」


「え?」


「わざと時間稼ぎをしてる。弱いふりして、集まるの待ってるみたい。それに、あの魔女、魔法を使ってない!」


 クレアが強い声で言うと同時に、上空から一人の男が降りてきた。若い男。エーダの言っていたジュピだ。


「悪い、悪いエーダ。あれ? 人間にアニムにテントの……。生きてたんだな。それと、ミキが上から援護するからさ、あの様子じゃ、もう終わりそうだね」


 急いで損したという顔をしているジュピ。魔女と攻防を広げる三人のウッドエルフを見て安心している。そんな彼の顔を覗くようにクレアが、


「どうやって上から入ったの!?」


「え? え?! 君、言葉――」


「お願い、教えて!」


「あ、えっと、なんか上るのにちょうどいい木があってさ、それを伝ってきたんだ。ミキはそのまま上で待機してるよ」


 ジュピが「ふぅ」と息を整えながら短剣を抜き、魔女と闘う三人の様子を伺っている。クレアは上空を見て、木の上にミキがいるのを確認した。そのまま魔女の方へと振り返ると、その顔がまるでニヤついているように見えた。


「いい加減、死ね!」


 間合いを空けていたシンザが、剣を振るヘンザの呼吸の間を埋めるように魔女を突き刺す。さっきまでとは違って、手に持った武器で反撃する様子がないことに気づくと、三人は魔女の顔を見てすぐに防御の姿勢を取った。 


「キイィアアアア」


 魔女の作った囲いの中で、反対側に位置していたクレア達に届くほどの突風。ハパとシンザ、ヘンザの三人は魔女の風の魔法で吹き飛ばされてしまった。


「きゃぁ」

「うわ」


 前回ほどの強さはないが、それでも体を持っていかれそうなほどの威力はあった。魔女はすかさずドロッとした火球を放つ。それは地面で燃え続けた。同時に、


「きゃああ」


 上空の生い茂る木と葉っぱの中から女性の悲鳴が聞こえ、弓と矢が何本か落ちてきた。


「ミキ!!」


 ジュピが叫ぶと、ハパがそれに反応した。叫び声のする方へ視線をあげるが、バキバキと音がするだけで何も見えなかった。


「魔法を使わなかったんじゃない!? 上に魔女の枝を忍ばせていたのよ! 二人がここまで来るように」


 クレアが言うと、ジュピが続ける。


「目的はミキか!? アイツずっと木の上にいたから。魔女に目を付けられてたのか。くそ!」


 気づくのが遅く、すでに掴まったミキが木から木へと運ばれ、魔女の頭上からゆっくりと降りてきた。へそのあたりから足首まで、腕ごと枝でグルグルに巻かれている。そして、頭を下にゆっくりと降りてきた。


「ミキ!!」


 今までで一番大きな声を出したハパだった。その声には怒りが込められているのが全員に伝わった。拳を握りしめ、頭に血が上ったハパが魔女に向かっていく。


 魔女は下顎をバキバキ鳴らしながら、一度だけ口を閉じた。そして、今までにない強さの風の魔法。


「ギイイアアアアアア!!!!」


 魔女の真上から降りてくるミキを救うために突っ込んだハパは腕を交差させ、膝を曲げどうにか耐えたがかなり後方へと下げられた。ヘンザとシンザは壁際まで吹き飛ばされた。突風というより、硬い壁が高速でぶつかってきたような衝撃だった。


 魔女の風に耐えたハパはまたすぐに走る。地面でドロドロと燃え続ける炎は、まるで魔女とハパを一直線にするために作られたように見えた。


 大きく揺れるミキ。そして大きく口を開きニヤついている魔女。それはまるで、紐にぶら下げた人形で遊んでいるかのようだ。


 走るハパの横をヘンザが飛んでいく。シンザが槍を使いヘンザを前方へと投げ飛ばしたのだ。剣を握りしめたヘンザは、ミキを捕まえている魔女の枝を切り離すため剣を振る。


 ドン!!


 魔女の放った火球は、空中で身動きの取れないシンザに直撃する。「ぐあ」と漏らし、シンザが地面に落ちた。その直後、魔女の方へと揺れていくミキを追うように、術式を発動させたジュピがすごいスピードで近づく。


「うおお!!」


 あと少しでミキに追いつく。そう確信したジュピの右腿に飛んできた魔女の刃物が突き刺さる。バランスを失った彼は転がるように倒れた。


「ぐあ」


 魔女の枝に吊るされ、またハパの方へと揺れていくミキ。ふり幅が小さくなり、走るハパがミキに追いつく前に離れていく。二人は視線をかわし、


「ミキ!」


「ハパっ、――」


 わずかに届かないその距離。助けようとするハパと違い、ミキの瞳には覚悟が示されていた。


 ミキが遠のいていく。


 ハパは叫びながら、魔女の方へと全力で走っていく。


 奥で待っていた魔女が、その大きく開けた口で彼女の胸から上をパクリと食べた。恍惚とした表情を浮かべ、舌で唇をなめている。


 ミキを捕らえていた残りの枝がほどかれ、投げ捨てられる彼女を怒りと悲しみの眼で捉えながら、魔女へと拳を突き出すハパ。


 離れたところでその様子を見ていたクレア達。大きいハパが邪魔で魔女はよく見えなかったが、投げ捨てられたミキの体が白濁した琥珀のように変わり、壁にぶつかると粉々になるのが見えた。


 そして、勢いよく突っ込んだはずのハパは魔女を前に止まっていた。よく見ると、足元を根っこで掴まれているのが分かった。


「ヘンザ!!」


 ハパが叫ぶと、倒れていたヘンザが顔を歪めながら立ち上がり、右足を引きづり退避するジュピの方へと走った。


「だめ、ここにいて!」


 動こうとしたクレア達を制止するエーダ。すぐに、爆発音が響く。

 

 ドン ドン ドン ドン ドン ドン!


 物凄い速さと威力の火球を連続で当てているのが、遠くからでも分かった。ハパは両腕をくっつけて前に出し防御している。


「アア、あんた、カタイネ」


 首を傾げる魔女。ハパがそれに応える。


「ああ。ところで、お前は全身が無くなっても再生ができるのか?」


「ア?」


 傷を負ったヘンザはジュピを抱え走ってくる。そして、シンザも合流するとエーダが叫ぶ。


「みんな! もっと近くへ!」


 突然に防御態勢をとるウッドエルフ達。エーダが、詠唱し合わせた掌を前に出す。


「くるわよ!」


 魔女の前で腕を合わせ火球に耐えていたハパ。それは単に防御の為だけではない。腕の内側には特殊な入れ墨が彫ってあり、それが発動していた。


 ミキと同じように白濁した琥珀に変化したハパが突然光ったかと思うと、魔女の壁が壊れるほどの爆発を起こした。


「……!!」


 エーダが風邪の防壁を張り耐えてみせた。指が何本か折れた瞬間に彼女は苦痛の表情を浮かべてた。ヘンザが土煙の舞う中、魔女がどうなったのか気にしていた。


 短時間で二人も死んだ。想像以上に厳しい魔女との闘い。心配そうなクレアとエレノアを見てエーダが、


「大丈夫よ、二人とも」


 クレアはエレノアの手を、彼女も又クレアの手を握り返した。二人の少女を安心させるために声をかけたエーダだったが、自分自身に言い聞かせた意味合いもあった。


 リーダーのヘンザは、ミキを救うために突っ込んだ勢いと魔女の火球の直撃で骨折。その状態で長く動くことは難しい。


 槍持ちのシンザに至っては、前半戦に術式を使いっぱなしで動いたために体に無理が来ている。


 ジュピは足を怪我し、術式も使えるかどうか。


 自分に至っては、攻撃の手段がない。そして、少女二人とスピカナに鹿が一頭。完全に魔女の力を見誤っていた。同じように分析したヘンザが叫んだ。


「くそ。退くぞ!」


 土煙でよく見えない中、七人と一頭はその場を走り出した。魔女がどうなったのかは見えないが、ハパの爆発で周囲の壁は吹き飛んでいた。そこに賭けるしかなかった。


 そしてまた、あの音が響く。



 ドン! ドン! ドン!

■ 白濁した琥珀 ウッドエルフが死ぬと、肉体は変化し崩れていく

■ 術式 望遠鏡程度の術式では大した消耗にならない。ジュピの肉体強化は肉体負担・魔力負担と諸刃の刃。逃走用ではなくどちらかというと、仕留めるときよう。

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