表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
56/144

56 闇の魔女③ お前はダレダ

ここは――?


ここ、どこだっけ?


懐かしい森……


小高い丘、風で流れるような音を出す草の絨毯。ぽつりとある腰掛けにちょうどいい岩。見渡す限りの自然。懐かしい我が家で、音も匂いも、色も空気も、光も闇も、全てが心地よい。隣に座る女性が、


 「クレア?」


 「え? うん。何か嫌なことがあった気がして――」


暖かい手

すごく安心する


 「クレア、獣人アニムが魔法を使えないことは分かった?」


 「うん。それと、影響を受けやすいことも知った」


ふふ。シエナさんの魔法で眠らされたエレノアが気持ちよさそう……。

え? シエナさん? ちがう……この人は?


 「クレア? どんな時でも強い気持ちでいるのよ。そうすればエレノアを奮い立たせることが出来るから」


 「うん。わかった」


すごく綺麗な人……それに、綺麗な眼。春の陽射しみたいに暖かくて柔らかい。

そうだ――! この人はいつも会う大好きな人だ。良く知ってるのに、思い出せない。


 「クレアが弱気になったら、きっとエレノアもそれを感じ取ってしまうから。エルフとアニムの話を覚えてる?」


 「アニムはエルフの魔法で強化しやすいってことだよね?」


 「そう。よく覚えてたわね。いい子ねクレア」


 「えへへ」


褒められた! 頭を撫でられるのって気持ちいいなぁ。お父さんと違う。あれ? これはいつだっけ?


 「魔法で強化されたエレノア、すごかったでしょ?」


そうそう。シエナさんに強化されたエレノアってば物凄い速さで動いてた。

踏み込んだ地面はえぐれて、着地して蹴った木の幹はボロボロ、素手で岩も砕いてた。

嬉しそうに叫んで走り回ってる姿を見てるだけで笑えたもの。


 「すごかった! 私ね、いつもだったらエレノアと対等に闘えるのよ? なのに、全く歯がたたなかったの。避けるので精いっぱいだった」


 「うふふ。嬉しそうだったものね」


 「うん! あ、でもさ、エレノアって魔法に弱いってことだよね? 魔女が悪い魔法使ってきたら、私じゃ守れない」


この笑顔。優しい眼差し。この人の顔を見てると、不安だった気持ちが霧のように消えていく


すごく明るい――。春の陽射しのせい?


ちがう……この人から暖かい光が出てる


 「大丈夫よクレア。貴方が気持ちで魔女に負けなければ、エレノアもきっと負けないから」


ああ。もっと頬に添えられた手を感じていたい……。

おばあさんの手に似てるなぁ。優しい、温かい、包まれるような感じがする。


 「私、魔法が使えないって言われたの」


 「そうね……。でも、あなた自身が魔法みたいなものよ? クレア――」


逆光のせいか、よく見えない女性の姿が次第に消えていく。元からそこにはいなかったように思えた。同時に、いつもそこで会うことも思い出した。しかし、その時は毎回同じように訪れ、忘却の彼方へと流れていく。


あれ? 消えていっちゃう!?



待って!



だめ! 景色がまぶしい!



体が、重い……



足が、動かない!!



――!?



おばあさん??



助けて、おばあさん!



エレノアが! エレノアが魔女に!!



 「魔女を――」



――!? なんて言ったの!?



……





 ―チョン



 ピチョン



 シィーーーー



 シィーーーー



 ピチョン



 響き渡る水滴の音と同時に聞こえるのは、刃物を研いでいるような音。


 夢を見ていたクレアは耳に入ってくるその二種類の音で目を覚ました。居心地のいい夢と、終わり際の不安が胸の鼓動を重く、強くしていた。


 夢? ここは? そうだ、私。魔女に首を絞められて――。


 最初に目に入ってきたのは、魔女が作り出した壁と同じような枝で出来た檻。その中に自分が閉じ込められているのがすぐに分かった。立ち上げれるほどの大きさもなく、上に積み上げられた檻には別の犠牲者であろう動物がいる。


 少しずつ戻る意識と記憶。最後の光景を思い出したクレアは、立ち上がろうとして頭をぶつけながらも檻の隙間から彼女を必死に探す。


 エレノア! エレノアはどこ!!


 そこは部屋一つ分くらいの大きさの場所。松明と火鉢からでる灯りで部屋の中は十分に明かるいが、岩肌の壁は、光りの当たる面とそうでない面のコントラストが強く、不気味な部屋に仕上がっていた。中央には岩を削って平らにしたような台があり、若い女性が横たわっている。


 衣服は何も身に着けていない。目の合ったクレアが何かを聞こうと口を開く。


「あの――!?」


 声をかけようとしたクレアは、その人の虚ろな眼差しに気づいた。


 違う! この人、もう死んでる!

 

 クレアは狩りをし、森では動物が生きるために捕食するのを何度も目の当たりにして、死んだ生き物の目を知っている。台の上の女性の目は、その動物たちと同じだった。


 思わず口を手で抑えるクレア。人の死を見るのは初めての事で、感じたことのない気持ちと魔女にとらわれたという恐怖が胸とお腹をぐるぐるとまわる。すぐに顔を上げ、左右を見渡し彼女を探す。


 お願い! エレノア! 生きてて!!


 それまで聞こえていた、刃物を研ぐような音が止んだ。

 部屋につながる通路が一つだけあり、その奥から不気味な音が聞こえる。

 最初は小さく、次第に近くなる。


 ペタ


 ペタ


 ペタ 


 カチカチカチ


 通路から現れ、部屋に入ってきたのは森で襲ってきた魔女だった。黒くチリチリでボサボサの長い髪。外れて、ずれ落ちているような下顎を今も追いかけている。


「オマママ、おマエ、誰ダ?」


 魔女だ! 闇の魔女……。私が斬り落とした右腕が治ってない。だけど、森で闘った時より少し若くなってる?!  


 ペタペタと歩いて、クレアのいる部屋に入ってきた魔女。クレアのことをジッと睨みながら、何かを避けるように肩から上の部分だけを左右に動かしながら近づい来た。


「痛い! やめて!」


 台の上に置いてあった棒を掴むと、クレアの檻の中をいじくりまわすように突っ込んできた。執拗に追い回し、檻の中をこねくり回す棒でクレアの手からは血が出ていた。クレアは棒の先端を掴み魔女を睨み返した。


 魔女は口からは涎が出そうなのを抑えるように、舌を動かしている。しばらくそのままお互い黙って睨みあっていた。魔女が持っていた棒を手放すと、


 カチカチカチ


「フン! いいサ! キョキョキョ、今日は、アアアアニムを手に入レタ」


 魔女がそう言いながら積み重ねられた檻、クレアとは反対の場所へ向かう。そして離れた場所の檻を蹴飛ばしている。ガシャガシャと音がする中、聞きたかった彼女の声が聞こえた。


「うあ?」


 蹴飛ばされ、揺れる檻で目覚めたエレノア。二段に積み重なった檻の下段の端にクレア、同じく反対側の下段にエレノアがいた。間の檻には動物が入っている。


「うああぁ!」


 目覚めたら目の前にしゃがみ込んだ魔女がいたんだから、びっくりするのは当然……。よかった。エレノアが生きてる。よかった……


 クレアはエレノアの声を聞いて安心した。状態は分からないが、殺されてはいない。それがわかっただけでも胸がだいぶ軽くなった。


「さて、残りモノヲ取りに、イイクカカカ、カチカチ」


 魔女がエレノアとクレアを交互に見る。何回か繰り返すとペタペタと歩いて出て行った。通路から響く足音が小さくなり聞こえなくなると、


「エレノア。大丈夫?」


「クレア?! どこ??」


「貴方とは反対側。怪我はない?」


 ……


「エレノア!?」


「あ、ごめん。しっかりと見てたもんだから」


「もう! びっくりさせないでよ」


「あー、びっくりした――。コホコホ」


「首、大丈夫?」


「ちょっと痛いけど、服のおかげかな」


「よかった……。残り物って言ってた」


「ねぇクレア? シューとスピカナは? ここにいる??」


 二人は檻の隙間から探すようにあたりを見回す。中にいるのは動物だけ。イノシシ、大きな蛇、イタチ達。


「エレノア。こっちには居ないけど、空の檻が二つある。もしかして、二人も捕まったのかな?」


「うーん。よく覚えてないなぁ。あ! シュー、腕が……。死んでないよね?」


「わからない……。とにかく、今はここから出る方法を考えましょ」


「わかった。ねぇ、クレア?」


「何?」


「魔女が叫んだ時さ、皆が吹き飛んだじゃん? あれって魔法だよね?」


「そうだと思う。風の魔法じゃないかな……。魔女の魔法って厄介ね。それと、ごめんなさい。エレノア」


「なんでクレアが謝るのさ」


「私が魔法を使えてれば……。シエナさんとのこと覚えてる?」


「……。ああ! あれか。あれは凄かったなぁ」


「私の魔法でエレノアを強くできれば、二人であの魔女を倒せたかもしれないのに」


「強く? 強くってなんのこと? 土の魔法じゃないの?」


「違う。エレノアってば、すごい速さと力で動き回ってたのよ? 細い木の幹を足場にしようとして、砕いたのをお覚えてないの?」


「……? 夢でも見たんじゃない? そんな記憶ないよぉ。っていうか、そんな力欲しいな。今!」


 夢? 夢だったのかな? そうか、夢でみたんだ……。


「そう――」


 二人は檻から出る方法を必死に探した。森で魔女と闘った時の檻とは違い、うねうねと動いてはいないがとても堅い。腕が通るほどの隙間もなく、近くに刃物になるようなものは何も見つからなかった。唯一、クレアが魔女から掴み返して奪った棒が一本。ただ、それだけだ。


「ねぇクレア?」


「何?」


「もしかして台の上に――」


 エレノアからは台の上に横たわる女性の足がわずかに見えるだけだった。クレアはエレノアに被せるように、


「そうよ」


 エレノアが「うえ」と一言だけ発した。すると、


ガラガラガラガラ


 ――!?


 突然、部屋の中から鎖のような音が聞こえた。岩肌と松明と火鉢、中央の台と自分達の入れられた檻以外に何もないはずなのに……。


「クレア」


「わからない。でも、そこ。台の向こうに何かいる」


 二人からは死角になっている台の反対側。そこから鎖を引きずるような音が聞こえた。


「誰? 誰かいるの??」


 クレアが声をかけると、それは僅かに見えた。


「角? クレア、何か角のようなものが見える」


「小さいわね」


 ジャラジャラ


 立とうとしているような蹄の音が聞こえる。一度立ち上がったが、すぐに倒れてしまった。ゆっくりと、鎖が地面を擦る音が部屋の中に聞こえた。そして、


「大変! あの子、脚が折れてる」


「こっちからじゃ、見えないよ。ねぇ、何がいるの?」


 台の死角から倒れ込むように現れたのは一頭の鹿だった。


「鹿! 鹿が鎖につながれてるの」 


「鹿?」


「どうしよう。ねぇ、こっちへ来れる?」


 鹿が動き始めてからは、動物たちが騒いでいた。まるで知らない何かが近づいてくるのを恐れて、威嚇するようだった。エレノアが動物たちが檻をの中をガシャガシャと動き回り、吠えているのを嫌がっていた。


「うわ、うるさいなぁ! ちょっと、落ち着いてよ!」


 クレアにもその鹿がなんなのか、よくわからなかった。動物たちの声は昔から聞こえる。特に八歳に成った頃からはそれが顕著になった。


 ここにいる動物たちも同じ。なのに、道で襲ってきた双頭の鹿と、目の前にいる鹿の声はよく聞こえない。


 鹿は様子を見に来ただけなのか、呼びかけても観察するだけで近づいてこようとはしない。むしろ、警戒しているようだった。


「大丈夫。その脚を――」


 クレアは手に持っていた棒を折り、服を脱ぐと下着の袖とおなかの部分を引き裂いた。


「お願い。信じて。その脚をどうにかしないと」


 喚く檻の中の動物たち。クレアは鹿を見つめて必死に伝えようとしたが、動物たちの声がうるさかった。


「みんな、静かにして! 大丈夫だから」


 クレアが鹿を見つめたままそう言うと、檻の中の動物たちがピタっと動くのをやめ、小さく丸まった。その光景に鹿も首と頭を上げ、興味を示した。


「みんな、ありがとう――。さぁ、こっちへ。脚が痛いでしょ? お願い。これでちょっと応急処置をするだけだから」


 クレアは痛いのを我慢して、檻の隙間から無理矢理に腕を出した。そのせいで腕からは血が出ている。鹿はその必死なクレアの様子をみて、恐る恐る近づく。


 ジャラジャラ


 鎖を引きずりながら、ぎりぎりクレアの檻の前まで鹿が来るとクレアが折れた脚に手を触れた。ビクっと逃げようとしたが二人は少しの間だけ見つめあうと、


「大丈夫。信じて……」


 クレアが真っすぐな目で鹿に言い、鹿もそれを信じた。そして、折れた前脚に棒と布で応急処置をする。


「――!」


 それが終わるとクレアは傷ついた手をまた無理矢理に戻す。痛みに耐え、腕や手の皮膚が小さくめくれ、血が出ていたが声には出さなかった。そして、自分の腕を見てあることに気づいた。


 痣? こんなのあったかな? え? こっちにも?? 魔女に掴まれた時にでも出来たのかな……?


 クレアは、肩に近い部分に腕を一周するかのようにできた痣に気が付く。そういえば、魔女に木の枝でぐるぐるにされたんだ……。そう考え、出血した場所を服で押さえていた。




 一方、薄暗い洞窟の中をペタペタと歩き外へと出た魔女。そのまま草の上を何歩か歩くと、足を止め顔を上げた。周囲をゆっくりと見回し少しだけ動きを止めた。振り返ると樹の幹を伸ばし出入り口を覆ってしまった。


 魔女をウッドエルフの三人がこっそりと監視していた。その気配をわずかに感じた魔女は、念のために入口を樹の幹で覆うと、同じく自分の周りを木の枝で覆い隠した。


「なんだあれは?」


 ヘンザが誰に聞くでもなく一言口走るとシンザが、


「光を遮断してる。影の中を移動したんだろう……。多分、残りの二体を取りに言ったんだと思う」


「まずいな……。感づかれたか? いずれにしろ、もうあいつらが居ないとわかればすぐにここに戻るだろう。ハパとジュピ、エーダの三人もまだ来ていないし……。中を偵察するのも難しいな。それに、あの中に居ないとも限らない。罠かもしれないしな」


 ヘンザの考えに、シンザとミキの二人も同意する。ミキが、


「私もそう思う。仮に居ないとしても、洞窟がどれだけ深いかもわからないし。影を移動して、戻ってきたら中で鉢合わせするかも。それは絶対に嫌だなぁ。とりあえず、このまま三人を待とうよ。どちらにせよ、揃ってからの方がいいんじゃない?」


 シンザが続く、


「そうだな。影で移動できないようにあれを壊したところで時間に大差は出ないだろう。むしろ、俺たちの存在をわざわざ教えることになるしな。もしも、あの中に魔女がいた場合はもっと最悪なことになるぞ。あの魔女は意外に賢いのかもしれないな」


 息をひそめ、魔女の洞窟を監視していた三人は何もせず、その場に待機した。


 実際には魔女はその場に居なかった。完全な暗闇になると、シューとスピカナがいた場所。もっとも暗い場所からゆっくりと姿を出す。物と物の隙間、影の中の一番暗い場所。そういう場所を利用して、まるで沼から這い出るかのように現れる。


 影から現れた魔女が捕まえたはずの二人の餌が、そこにはもう無いことを知った。切り落とされた木の枝。消えた荷物。それらを確認すると魔女はまた影の中を移動する。洞窟の入口に作った木の繭がボロボロと崩れ、現れた魔女。ウッドエルフの三人には、魔女がずっとそこにいたのか、移動してたのかは分からなかった。


「行かなくて正解だったな。こんなに早く戻ってくるとは……」


 ヘンザが悔しそうな顔をしながら言ったが、難を逃れたことにはホッとしていた。あれが罠だったにしろ、そうじゃなかったにしろ、行動してたら大惨事だった。しばらくすると、ハパとジュピとエーダが合流し全員が揃った。そしてエーダが、


「お待たせ。それじゃ、作戦を考えて姉さんを救うよ!」


 さらわれたネンリを救うために、六人はクレアとエレノアがいる洞窟へと入る準備を始めた。生きているか、死んでいるかわからないエーダの姉であるネンリの為に……。

■ クレア 黒髪の少女 森で育った少女。

■ エレノア 猫のアニム 身体能力が高い。

■ 鹿 鎖につながれた鹿。前脚が折れてた


■ 獣人と魔法 魔法の影響をうけやすい


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ