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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
55/144

55 闇の魔女② 腕と腕

 壁にぶつかると、ドン!と重い音を立て地面に落ちた一本の腕。あんなに力強かったシューの腕が今、とても柔らかく地面へ落ち、転がっている。手甲を避けるように、二の腕から切り落とされたその切り口は、とても綺麗だった。


 スパっと切れた切り口を見て、クレアはすぐに理解した。荷物を降ろし、小剣を引き抜いた彼女は、どうするか考えるより先に魔女の元へと走っていく。


 腕を失い、膝をつくシューの前に立った魔女は右手を高く振りかざしている。その手には黒曜石の歪な刃物を持っていた。まるで、走ってくるクレアに見せつけるかのように、その目と歪んだ口が語っていた。


 間に合う!!


「ああああ!!」


 剣を握り走ってきたクレアが叫びながら、シューの首を刎ねようとしていた魔女の刃物を弾く。魔女は少し驚いていた。近くで倒れていたスピカナが、


「クレア!?」


「エレノア! シューをお願い!」


 クレアは魔女へと追撃する。魔女は刃物でクレアの剣を弾きながら後退していく。声をかけられたエレノアは動揺したままだったが、シューの元へ駆け寄り、スピカナと一緒に彼を引きずり移動させた。


 最初はクレアが一方的に剣を振るっていたが、次第にその立場は逆転していた。いつの間にか、魔女の攻撃を避けることで背一杯になっていたのだ。骨と皮だけのような腕からは考えられないような速さと力で、不気味な刃物が次から次へと襲い掛かってくる。反撃する余裕がクレアにはなかった。それでも、

 

 集中しなきゃ!


 もっと集中を!


 もっと!! 

 

 クレアは魔女へと意識を集中させていく。歪で不気味な黒曜石の刃物を剣で捌き、目を逸らさず避けながらもわずかな反撃をする。次第に加速していく少女。魔女は楽しそうにクレアの剣を捌いている。それを見ていたエレノアは段々と恐怖よりも怒りがこみあげてきて、


「あのやろう!!」


 自分を奮い立たせた。驚いていた自分。恐怖した自分。何もできていない自分。クレアが一人で戦っている。今はとにかく、この短い間で起きた……何も起こせなかった自分への怒りが原動力となっていつものエレノアを取り戻させた。シューとスピカナから離れると、


 

 ヒュルルルル


 

 ゴン!!


 「ギャア!」


 突如、横から飛んできたフライパンで頭を打った魔女が驚いていた。エレノアが投げつけたそれは見事に魔女の頭に命中した。お母さんのノラ曰く、「ドワーフ製の頑丈な鍋だから、旅にはうってつけだよ」とのことだった。


 痛がる魔女を見つめる三人。そのわずかな時間、皆考えは同じで次にクレアが何をするかは容易に想像がついた。しかしスピカナだけは結果を知っている。


 シューの手投げ弾を受けた時もそうだ。わざと受け、痛がるふりをして反応を見ながら笑い、再生しながら次の表情を見て喜ぶ。


「だめだクレア! そいつ痛がるふりをして楽しんでる!!」


 すでに踏み込んだクレアの剣が魔女の右腕を斬り飛ばした。受け止めようとした魔女の腕を空中へと飛ばす。


 クレアは勢いをそのまま、魔女の背後へと陣取る。スピカナの忠告を受け、魔女の次の一手を待ち構えた。


「ギャアアアアア!!!!」


 右腕を失った魔女が、左手で残った部分を掴み叫んでいた。先程までとは違う、本気の叫び声の様に聞こえる。とても演技のようには見えなかった。クレアがもう一度斬り込むと、


「キィヤアアアアア!!」


 甲高く、耳障りな声が響く。魔女を中心に突風が巻き起こる。声も出せずに吹き飛んだ四人は、魔女が作り出した壁に叩きつけられた。魔女は骨が折れるような音を出しながら、ずれて開いた口を閉じ歯ぎしりしている。


 ギリギリガチガチ


 壁際で倒れている少女二人を睨みながら、囲いを作った時と同じように木に手を添える。シュルシュルと伸びた枝がクレアとエレノアの首を絞めた。


「かっ――」

「う――」


 苦しそうにするクレアとエレノア。首に巻かれた枝を手で掴み、体を動かし、足をバタバタとさせている。


 エレノア!! 絶対にたすけ……

 クレアだけでも……


 二人は互いに片方の手を差し伸べ、力になろうとしたが抵抗むなしくぐったりと手足をぶら下げた。その様子に安堵した魔女は、そのまま二人をミノムシの様に枝でぐるぐるに巻く。そして別の場所に吹き飛ばされたシューとスピカナにも同じようにした。


 スピカナは苦しくも意識を失わないように耐え、魔女の動きを追っていた。


 何かを探す魔女。地面に落ちてたそれを拾うと装着された手甲を外す。スピカナの視線に気づいた魔女は、にやりとしながらスピカナの前へと手甲を投げてきた。


 ドサ


 目の間に転がり落ちたシューの自慢の手甲。顔も体も動かせないスピカナ。視線の先、落ちた手甲の向こう側では、魔女がシューの腕を左手で持ち、大きく開いた口へ運んでいるのが見えた。


 そして、少女二人の枝を掴むとそのまま引きずり、森の奥へと消えていった……。


 魔女が投げてきたシューの手甲が、自分の目の前に転がっている。目を閉じなければ、今、気絶しなければ峠を越すように意識を持ち直せるかもしれない。そう考え、ひたすらに耐えていた。


 視線を動かすことすらできないスピカナの視界に突然、数人分の足が入ってきた。


 聞き取れたのは断片的な言葉ではあったが、自分達を助けようとする声と、ほっとけという声が入り混じっていた。考えを巡らせようとした途端、限界だったスピカナは意識を失った。



     ※



 クレアが何かの気配に気づき、すぐに双頭の鹿が現れた時まで遡る――



 森を歩くクレアとエレノア、シューとスピカナの四人を密かに観察する六人がいた。


 皆、耳が長く浅黒い肌をしている。男性が四人と、女性が二人で全員がウッドエルフだ。


 髪は長く、編み込んでいたり、飾りをつけたりしていたりでバラバラだが後ろに流しているのは共通している。髪の色もみな同じ薄茶色。無駄のない体と引き締まった筋肉、軽装で、腹部や足、腕といったほとんどの部分が隠されていない。


 森の狩人、森の王、森の人と呼ばれるウッドエルフ。太古の昔から人間との交配を禁じ、エルフの郷を出たあとは森で暮らしている。いつしか、エルフの郷へ帰ることを夢見て。


 使っているのは古エルフ語で、独自に変化した部分もある。シティエルフの中には一部、教養や交流に必要なものとして僅かに使える者がいる程度の言語。


 一人の女ウッドエルフが、


「すごい。あの子、私たちに気づいたかも……」


 人差し指と親指で円を作り、離れた場所からクレア達を観察していた女ウッドエルフのエーダが言った。指の先には小さい図形と文字が描かれていて、それを重ねると魔法が発動するウッドエルフ独自の術で一般的なものの一つ。


 重ねた指を通してみると、双眼鏡と同じ効果がある。目のいいウッドエルフにとっては鬼に金棒。その距離をもってしても、視線を合わせてきたクレアにエーダは心底驚いていた。


「そんなバカなことがあるか。たかが人間の少女だぞ。見てみろ、あの獣に反応しただけだろう」


「はいはい」


 エーダの話を流したのはヘンザという男。六人はクレア達が鹿の爆発で吹き飛ぶのもそのまま観察していた。


「うわ、えげつない。っていうか、あれ、おかしくない?」


 唯一髪の短い女のウッドエルフ、ミキが顔をしかめて見つめていた。それを聞いたエーダが、


「こんな縄張りの外れに、あんな魔法をかけた獣をよこすかな? ねぇ、助けに行かなくていいの? ヘンザ」


「構うな。人間など勝手に増えるし、一人助けたところで大差ない。俺たちの目的を忘れるな」


「はいはい。お? 全員が無事だったみたいだね。あのシティエルフのおかげだね」


 遠くからクレア達一行を観察するウッドエルフ六人の中で一番体の大きいハパが額には汗を流し、森から現れた魔女を見て、


「おい。どういうことだあれ」


 森の魔女が『わざわざ』現れたことに驚く六人。立ち上がろうとした仲間をヘンザが制止する。


「これはチャンスだ。あの旅人たちを餌に使おう。魔女はきっとあいつらをねぐらに運び込む。その後を追えば、きっと、あいつの居場所を突き止められるぞ」


 冷静に言い放つのは、リーダーのヘンザ。エーダとミキはその発言に難色を示すが従う。魔女がクレア達を木の囲いで閉じ込めるとミキが、


「見てあれ。あれがあいつの能力だ。どうりで‥‥‥。捕らえることに特化してるみたい。ちょっと見づらいね。移動しよ」


 六人は静かに移動し、囲まれた檻の様子が見える場所まで来るとそのまま観察を続けた。


「さっき、火の魔法使ったみたい――。見て、すごい再生力。あの感じだと最近も人を食ったってとこかな? あーあ、あんな弓矢なんて効果ないのに……。って、あの人間の男、がんばってるなぁ」


 ミキがスピカナとシューの戦いを観察しながら声に出していた。そして、魔女がいびつな形の黒曜石の刃物を取り出しシューの腕を斬り飛ばしたとき、


「待て、エーダ。ここで動けばネンリが助からないぞ」


「でも!?」


 立ち上がろうとしたエーダの腕を掴み、その場に留まらせたヘンザ。体の大きいハパは心配そうに魔女とシューを見つめていた。そして、クレアが魔女に立ち向かい間一髪で魔女の刃物からシューを守ると、その表情が変わった。それを見たミキが、


「ほら、あの子やっぱりすごいじゃない。あんなに小さい人間の女の子が魔女と渡り合ってる。さっきの動き見た? まるで加護を受けてるみたい」


 ハパとミキが、魔女と渡り合っているクレアを夢中に見ている。その横でエーダがヘンザに言った。ヘンザは何か言おうとしたが、クレアが魔女の腕を斬り飛ばした瞬間に皆が唖然とする。


「え? どういうこと?」


「何だ、あれは? 何か特別な剣なのか?」


 斬られた腕を痛がり、再生しない魔女の様子を見てミキとヘンザが言葉を漏らした。すぐさま魔女が四人を吹き飛ばす。


「きゃっ」


 見ていた六人のところまで突風が届くほどの強さ。皆がバランスを崩さないように地面や木を掴んでいる。ヘンザが魔女を睨みながら、


「よし。あいつは木の枝を操り、火の魔法を使う。あの状況で咄嗟に使ったのが風の魔法ってことは、本当は風魔法が一番得意なんだろう。あいつら十分に役に立ったな」


 エーダが無言でヘンザを見つめる。魔女は四人を縛り、シューの腕を拾い口の中へと入れている。


「あーあ。これでまた少し強くなったんじゃない? でも、あれ? 腕が再生してないよ? どういうことだろ……。剣かな? まさかフライパン!?」


 六人は互いに目を合わせる。リーダーのヘンザが立ち上がり、


「よし、それじゃ行くぞ。あいつの後を追ってネンリを救うんだ」


「待って! 私……。腕の無くなった彼を治療してから行く。それに、もう一人も! あの子、エルフが中に残ってるみたい。追跡だけでしょ? すぐに追いかけるから、お願い……。いいえ、お願いじゃない。私は魂を汚したくない。だから、先に行ってて」


 エーダは決心したように言い放つと、倒れているシューとスピカナの元へ行く。


「くそ。しょうがない、とりあえず行くぞ」


 怒ったヘンザがすぐにエーダの後を追いかけると、残った四人もやれやれといった感じで顔を見合わせすぐに追いかける。


 重症のシューの元へと駆け寄るエーダ。縛り付ける枝は硬く外せなかった。一生懸命に手で広げようとしたが全く歯が立たず、シューの右腕部分からは血がにじんできている。


「どけ」


 追いついたヘンザはクレアの剣を拾ってシューの近くに来ていた。魔女を斬り、痛みを与え、再生を拒んだ剣。剣身に彫られた装飾は人間のものではなくオークの物。


「なんだ。何の変哲もない普通の剣ではないか」


 持っていたクレアの剣を地面に刺さるように落とす。自分の剣を引き抜くと、シューに巻き付く枝を斬り落とした。握りしめられた剣は微かに光っていた。ヘンザは文句を言いながらスピカナへも近づき、同じく巻き付く枝を斬り落とす。そして、


「キャンプに運べ。ただし、エーダとハパの二人でだ。残りの、シンザ、ジュピ、ミキは俺と一緒にあいつを追いかける。見失ったらお前のせいだぞ。エーダ」


「はいはい。すぐ行って。こっちはハパとやるから」


 ヘンザ率いる四人はすぐに魔女の後を追った。エーダはシューの腕の傷を魔法と持ち合わせていた薬で処置する。体の大きいハパがクレア達の荷物とシューを担ぎ、エーダは背負い手甲を持つ。そして、自分たちのキャンプへと運ぶ。


 

     ※



 パチパチ


 緩い焚火の音で目覚めたスピカナ。


「くっ!」


 起き上がるなり素手だろうがなんだろうが闘ってやると憤慨した様子にエーダが、


「ちょっと、ちょっと! 落ち着いて。あんた達を助けたんだから。って、言葉通じるのかな?」


 スピカナはエーダの言ってることが半分もわからなかった。使っているのが古エルフ語なのは分かる。ただ、理解できたのは「落ち着いて」「助けた」「言葉」の三つ。


 上体を起こしたスピカナは周囲を確認する。クレアとエレノアの荷物、シューの手甲、治療されたシューがいる。武器もそのままに置いてあることから、偶然助けてくれたのだろうか? そう思いながらもエーダに頭を下げてお礼を伝える。浅黒く、耳が長いウッドエルフでスピカナにはとても美しく見える。


 もう一度あたりを見回す。どこか崖の上だろうか? 壁に打ち込んだ杭からロープと布を張り、屋根と壁を作りテントにしている。簡易ベッドもあり、長期間ここで何かの活動をしているように見えた。


「エーダ。ジュピが来た」


「ありがとうハパ。もしかしたら、魔女のねぐらがわかったのかな!?」


 テントの横から腰を曲げ現れた体の大きい男ハパが、中にいるエーダに声をかけてきた。ハパの後ろから別のウッドエルフがひょこっと顔をだす、


「おまたせ。お? やっぱりこいつエルフの血が入ってるな。結構、色濃く出てる方じゃないか?」


 魔女の尾行から戻ってきたジュピ。六人の中では一番若く体が小さい。ちょうどスピカナと同じくらいだった。


「ここから北の方にある『爪痕』のそばの洞窟だった」


「ネンリは?」


「それはまだ。どうにかしておびき出して、ネンリを救わないと……。とにかくみんな待ってるから、早くきてくれ」


 それだけ言うと、ジュピはすぐに出発してしまった。エーダは手振り身振りを添えつつスピカナに、


「君、次は私たちの里で生まれるといいね。私はエーダ。それと、あっちはハパ。まぁ、通じていないかもだけど。これから魔女のところに行くから、出来たらあの女の子二人も助けてあげたいけど……。とりあえずは食べられる心配はないと思うよ? 今日はその人の腕を一本、平らげたんだし。それじゃ、お大事にね」


 スピカナに聞き取れたのは、「魔女」「北」「爪痕」「洞窟」「女の子」「助ける」「腕を一本」程度と、


「エーダ……」


 顔を赤くしたスピカナが、ウィンクをして出て行ったエーダの背中を見つめていた。すぐに我に返ると地図を広げ、聞き取れた範囲で場所の特定を急いだ。


「これだ!」


 地図には『三本爪の岩』というものがあった。ここの近くにある洞窟の中にきっと魔女がいるのだろう……。スピカナはシューの容態を確認しながら、どうやったらクレアとエレノアを助けられるかを考えた。

■ウッドエルフ

エルフの末裔。一番耳が長い。褐色の肌、狩りで鍛えられた体。

森や動物の恩恵を利用した衣服。髪や腕、足に装飾を施すことが多い。

魂を汚す行為を嫌う。善悪ではなく、自身の純粋な魂の声に従う。


■ヘンザ :男。リーダー。頑固

■シンザ :男。兄弟ではありません

■ジュピ :男。若い。小さい。

■ハパ  :男。デカい。アゴ

■ネンリ :女。さらわれた。

■エーダ :女。治癒系に特化。

■ミキ  :女。ショートヘア


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