49 山賊⑤ 作業分担 ベドとエレノア
灰色犬獣人のベドがクレアの手紙をエレノアに届けるお話
クレアから預かった手紙を届けるため、村へと走るベド。
視界のいい場所では、遠くの方まで山と森が広がる景色が見渡せるようになっている。一見すると単調な景色が続くその光景。雲が落とす影と光の当たる場所でメリハリがあり視線を奪われそうになる。
村に到着したベドは宿屋を探した。自分ほど獣化した獣人がこの村に居ないせいか、少し珍しそうに見られた。いつもだったら気にして影へと隠れていたが、今は何よりもクレアの為に何かすることの方が大事に思えた。
不思議と彼女がそう思わせる。可愛いからとか、若いからとかではなかった。ベド自身もそれは分かっているし、ボクスも同じはず。たぶん、昨夜みんなで食事をしたときあそこにいた獣人のキボー、ミラーも同じだろう。
シティエルフで暗いスピカナでさえも、いつもと違って見えた。黙ったままよくわからないおじさんのボーだってそうだ。いつも「ラララ」と歌っている少年のラも、あの時は何も言わなかった。
ベドはクレアに感じる高揚感を治められないままエレノアを探す。宿に入り主人に「エレノアという獣人を探している」と聞くと「まだ寝てるだろう」と言われた。そこでベドは彼女が起きるまで待つこととなった。手紙を渡して、昼過ぎには帰れるだろうと思い軽い気持ちでエレノアが現れるのを待った。
……
……
昼頃に目が覚めたエレノア。
「ふあぁっ」
起き上がり、あたりを見回すと「そうか! クレアはいないんだった」ということを思い出した。昨日、ジェームズにクレアのことを話した。そして夜になるとジェームズが状況を説明しに来てくれたのだ。
「――ってことで、とりあえずクレアは見つかったんだけど、アボットが言うにはそいつらと腕組んで歩いて、食事を楽しんでたそうだ。森の中からはそれしかわからなかったって。今のところは大丈夫みたいだぞ。明日もアボットが行くから。山賊のところにいるのは確かだし、俺ももう一度ローズ姉さんに救出に向かうように頼んでみるからさ。明日また来るよ」
「腕組んで歩いてた? 楽しそうに食事をしていた?」
そして目覚めた今日。腑に落ちないながらも、することもなく、結局は長いこと眠ってしまった……。とりあえず顔を洗おう! そう思い一階へ降り、外に向かおうとすると宿の主人が声をかけてきた。
「おう、エレノアちゃん。おはよう。今日も遅いね」
「あ。おはよう、おっちゃん」
「そうそう。何時間か前にエレノアちゃんを訪ねてきた獣人がいたよ。灰色の犬で……まぁ、見かけたらすぐわかると思うよ」
「え? んー。知り合いなんていないしなぁ……」
頭を掻きながらエレノアは外に出て、水場で顔を洗う。すると、男が声をかけてきた。
「お前がエレノアか?」
顔を上げると、明らかに主人が言っていた犬獣人がいた。
「うん」
「お前、どんだけ寝るんだ。もう昼過ぎだぞ」
「あはは。目覚ましがいないからね。ところで何か用?」
「ああ。俺はベド。お前にこれを渡すように頼まれてきたんだ」
ずっと握って待っていた為、少しくしゃくしゃになった手紙をエレノアに差し出す。始めは「なんだ?」と見ていたが、それが手紙だと気づくと受け取り広げて読み始めた。
「誰からだろ……」
エレノアへ
私は元気
心配してると思うけど
探さないでも大丈夫よ
宿でおとなしく待っててね
山賊に布でぐるぐるにされて
連れてこられたけど
皆優しくてすごく楽しい
檻の中も過ごしやすいし
鍵を開ける必要もないくらいなの
また連絡するね
すぐに会えるから大丈夫よ
クレア
「クレアーーー!!!!」
エレノアは最後の名前を見て手紙を引きちぎると叫んだ。これが嘘でないことは分かっている。二人は小説をたくさん読んだ中での手紙のやり取りも学んでいた。嘘や真実、無理矢理書かされているか、本人かどうかなど。この手紙はクレアからの嘘のない物だった。
エレノアがベドの胸元を掴み問い詰める。
「ちょっとこれどこでもらったの! クレアはどこ!? 檻の中にいるのに大丈夫ってどういうこと!?」
「ちょっ。落ち着いて。痛いだろ」
手を振りほどかれたエレノアがベドを見定める。ボロボロの恰好に、汚い毛並み。走ってきたであろう足。山賊か? こいつが山賊か? そう考え始めた。
「とにかく、クレアは大丈夫。その手紙になんて書いてあったか知らないけど、俺はそれを渡すように言われただけだから。それじゃ!」
そう言うとベドはそそくさとその場を後にしようとした。エレノアが腕を掴み、
「ちょぉっと待って! お腹空いてるよね? よかったらお昼食べてからでもいいんじゃないかな?」
「あぁ? ちょっと。まぁ、お腹は空いてるけど」
ぐうぅ……と、タイミングよくなるベドの腹の虫。
「おっちゃん!! この犬様に最高のお昼を!! アタシのおごりで!」
「? あいよっ!」
ベドはただで最高の飯が食えるなら、まぁいいかとそのご飯を頂くことにした。腹ごしらえをしてから走ればいいことだ。そして、テーブルに座り料理を待った。なぜかエレノアは違うテーブルに座り何も話しかけてこなかった。
「ありがとな。じゃぁ、頂くぜ」
「うんうん。いっぱい食べてね」
頬杖をつきながらベドを嬉しそうに眺めるエレノア。ベドは気にせず出てくる料理をたらふく食べた。
料理人のトールは上手だがいかんせんレパートリーがないのだ。山の中で限られた食材と人数分の料理を大量に作らなければいけないという状況では似たり寄ったりのことが多い。
そして、料理を食べ終わると少しだけ休む。食事を奢ってくれたエレノアにお礼を言い外に出た。結局、本当に奢ってくれただけなのか? そう思いながら少し歩いて村を出た。
エレノアは急いで部屋に戻ると単眼鏡を手に取り、主人に「部屋の荷物を戻るまで預かっておいてね!」と言い、ベドを追いかける。
ベドは今おなか一杯。あんだけ食べたんだ、本来ほど走れるわけがない。あの長い脚、ほとんど獣化したままの顔、足が速いのは確実だ。クレアが頼むってことは信頼できて足が速いってことなんだろう。でも、間抜けでよかった……
これはエレノアの作戦だった。単眼鏡も持ち、距離を保ちつつベドについていく。尾行作戦だ。
村を出てから数十分は走らずに移動してきたベド。それからしばらくしてベドが走り出した。まだ軽く流しているとはいえやはり速い。エレノアはそんなベドを追いかける。そして、
「よし。大丈夫だな。はやくクレアのところに帰ろ……う?」
ふと後ろを見たベドがエレノアに気づいた。ずっとつけてきたのだ。急いで木の後ろに隠れたのがいい証拠だ。これはまずい、と思ったベドは気づいていないフリをしつつ、お腹いっぱいだぁとお腹を叩く。歩こうかなーという演出をしながら先の木を死角に使い道を曲がった。そして急いで走り出した。
それに気づいたエレノアも必死で走って追いかける。幸い、道では勝てなくても、森の中に入れば五分五分。すぐに二人とも声をあげながら走り出していた。
「まてこらぁーーーー!!!!」
「くるなぁーー! 俺は何も知らねぇ!!」
木々を駆け抜けてくるエレノア。
「おいこら! 逃げるなぁ!」
「逃げるに決まってるだろ! こっちくるな!」
川をジャブジャブと横切る二人。
「ぜぇったいに、にがさねぇ!!」
「しつこいんだよ! 帰れよ」
崖を上り追いかけるエレノア。
「あははは! 逃げれるもんなら逃げてみろ!」
「ひいいい!」
背丈ほどの草の中をカサカサとすごい勢いで追いかけてくるエレノア。
そんなこんなで、どうにかエレノアを振り切ったベドだが体中が葉っぱだらけ、土だらけ、川に飛び込み、崖を上り、気持ち悪いくらい離れないエレノアを恐怖の渦の中、一生懸命に走り振り切った。
そして、アジトに戻った時に最初に会ったのがクレア。
「おかえりなさい! ベド。大丈夫? なんか――」
「だ、だいじょうぶ! それに全然、疲れていないし」
その様子に感づかれて心配されたが、どうにかごまかした。
一方、結局ベドを見失ったエレノアはアジト近くの森を彷徨っていた。いくつかの狩りの後を見つけた彼女は、ここが山賊の狩場であることが分かった。つまり、明日になればまた誰かが来るかもしれない……。そう考えた。
日も暮れてきたため、彼女はとりあえずその森で一晩過ごすことにした。微かにどこか遠くで音が聞こえたような気がしたが、明日に備え準備をした。




