47 山賊③ プレゼントはクレア
「ふぅ。これで最後っ!」
「やったぁー! 美味しそう……」
テーブルから顔を覗かせ、キラキラした目でお菓子を見つめる少女サラ。焼いたクッキーやお菓子をかごに飾り付けるクレア。様々な色の飾り付けが、灰色の石壁を背景にしてるせいか鮮やかに映える。クレアより少し年上のモラが、お菓子を前にはしゃいでいるサラに、
「だめよ、サラ。これはみんなと一緒に食べるんだから。ボスをお祝いしてからよ」
「……うん!」
細くてノッポの料理人トールは、次々と出来上がった料理を運ぶために階段を上がったり、下がったりしていた。モラとサラも一緒に運び始めると、クレアは片づけをしてからカギのかかった檻の中へ、鉄格子の隙間を通り戻った。
「ふぅ。やっぱり、大人数だと大変ね」
クレアは少しずつ運ばれて無くなっていく料理を見つめながら、楽しいひと時を思い返していた。外は既に真っ暗で、地下調理場の出入り口の松明が階段を下りてくる人の影を壁にゆらゆらと落とし込む。
階段を降りてくる足音とリズムはさっきまで一緒に料理を作っていた三人とは違う物だ。階段を降りてきたのは、クレアをさらった小さな男。ギョロ目で赤い鼻のジウ。
ジウはクレアが『ちゃんと』檻の中に入っていることを確認すると、ゆっくり近づいてくる。鉄格子の前で止まると、クレアを見上げて話しかけてきた。
「お、お前、そこを出るなよ? 俺はジウ。覚えてるか?」
「覚えてるわよ。ジウね。私はクレア。今、みんなで料理を運んでるの。ジウも手伝ってくれる?」
「あ? お、おう。どれを……」
料理の皿が残っている調理台まで行くと、いつもより豪華な食事をみてジウは笑顔になった。そして、皿を取ろうとしたところ「はっ!?」っとした顔でクレアの元へ戻ってきた。
「なんで、お前に指図されなきゃいけないだ? ちょ、ちょっと可愛いからって騙されないぞ。俺はボスにお前をプレゼントするんだ。そのためにお前を連れてきたんだからな。宴の始めに、ボスにお前を差し出して食べてもらうんだ」
ジウはそう言うと檻の鍵を開けて、クレアに出てくるように手と顔を動かして指示する。クレアは促されるままにジウの前を歩き、階段を上り地上に出た。
松明の輝く夜の森。地上に出ると目の前には崩れかけた石壁が長く続いていた。そして、左側を向くと折り返して上る階段があった。上がった先には大きな木のドアがある。今は両側に開いていて明るく広い会場が見えている。
「よし、そこを上がれ。すぐに開いたドアがあるだろ? 入ったら右に抜ける通路がある。そこに仲間が二人いるから、一緒に呼ばれるまで待機してるんだ」
昔の城壁跡だろう。クレアは暗闇の中でそう考えながら階段を上り入口を通る。その先は明るい広間となっていて、四人で作った料理が運ばれていた。ドアのすぐ横に抜ける通路がありそこへずれると二人の獣人がいた。二人とも顔はほぼ完全に犬化した状態だった。
「いいか、この二人がお前を見張ってるからな。合図がしたらこいつらに連れてこられるから、あ、あばれるなよ! 逃げようとしたらその鋭い歯でかみ殺すからな」
ジウが言ったその言葉に合わせて、二人の獣人はニヤッとして鋭い歯をクレアに見せつける。
四角顔でベージュの毛並み、クレアより小さい男。
細長い鼻と灰色で長い毛並み、長い脚でクレアより大きい男。
「じゃぁ、俺はボスのところへ。へへへ」
ジウは嬉しそうに会場の中へと入っていった。ここにいる人達は服装が皆、同じようなものだった。麻のシャツとパンツで袖があるかないか程度の違い。農作業をする人の方がまだ綺麗な格好だと言える。
クレアを隠すように前に立っている獣人の二人組。大きい灰色獣人の男がクレアに話しかける。
「お、おい。合図があったら、俺たちと一緒にボスのところまでいくんだからな」
クレアは話しかけてきた方の男を見る。ふと、彼のシャツが中途半端にズボンに入っていることに気が付いた。クレアはそのシャツを揃えてあげた。
「あ、おい、ちょっ」
「待って、おとなしくしてて。今日は大事な誕生日なんでしょ? ズボンのところおかしくなってるの――。はい、これでよし」
大きい灰色獣人は、クレアにシャツを整えられると顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。隣にいたもう一人の四角顔の獣人がその様子を見ていた。そして、クレアの顔を見つめていたかと思うと、急いで自分の服も同じように崩す。準備が終わると、これ見よがしにクレアへ見せつけた。
「あら? 貴方も? はい、これでずっと良くなった。ね?」
「ありがとう」
大きい獣人と同じように、顔を赤くした四角顔の獣人。満足した顔になり、ちょっと誇らしげに胸を張り待機を続けた。クレアがそんな二人の後ろから、
「二人が私と一緒に歩くのよね?」
「そうだ」
「そうだよ」
背の高い灰色獣人はそっぽを向いたまま。小さい四角顔の獣人の方は嬉しそうに振り返りクレアの質問に答えた。
入口手前、通路ので待機する三人の前を料理やお菓子が通過する。クレアは二人の獣人が食べ物を見つめているのに気づくき、
「今日は、お菓子をたくさん作ったから食べてね。口に合うといいんだけど」
二人は顔を見合わせると、クレアの方に振り返り嬉しそうに言う。
「「あれはお前が作ったのか!?」」
「うん。あ、でも私一人じゃないのよ。モラとサラも一緒につくったんだから。皆で上手にわけてね。まぁ、すごい柔らかい手ね。それにしっかりした毛」
獣人二人はクレアの手をとって喜んでいた。しかし、ふと気が付いて顔を真っ赤にする。しばし沈黙が流れたが……背の高い灰色獣人がクレアに、
「俺はベドだ」
クレアは不愛想だった灰色獣人のベドが、まるで何かを決心して言ったような自己紹介がとても嬉しかった。笑顔で自己紹介の返事をくれるクレア。見てることを悟られないように、チラっとクレアの顔を確認するベド。
「ベド。ベドね。よろしくね。クレアよ」
自己紹介をしたベドをもうひとりの四角顔の小さい獣人が、目を丸くし口をあんぐりと開けて見つめていた。そして、遅れをとったと気づくとすぐに後を追う。
「俺はボクス! ボクスだ!」
「あはは。ボクスもよろしくね」
ベドはまたそっぽ向いて立っているが、ボクスはでれっとした顔で嬉しそうに前を向いた。二人とも腕をくの字に曲げて腰にあて立っている。
中では誕生会が始まり、ギョロ目のジウが「それではプレゼントをどうぞ!!」と大きい声で言っていた。クレアを持っていくはずの二人には聞こえていないのだろうか? 全く動く気配がしなかった。
「合図があったわよ?」
「お、おう」
「……」
その様子に気づいたクレアが二人の間に割り込み、くの字に曲げた腕に自分の手を回す。ベドとボクスは同時にクレアを見つめる。
「二人とも緊張してるの? 私はすっごい緊張してる!」
「ちがう、これは緊張じゃ、そういう緊張じゃない」
ベドが天井を見上げたまま焦ったように言った。
ボクスはそれまでデレっとしていたが、クレアが腕を組んでくると一気に緊張したように背筋を伸ばした。呼んでも来ない三人にジウが再度、大きな声で合図をする。
「プレゼントッ!! どうぞっ!!!」
ボクスがガチガチに固まった中、クレアに言う。
「あ、あ、合図あったぞ。いかなきゃ、ク、クレア」
「そうよね。大丈夫よ。緊張してるなら、張り切ってごまかしましょ! さぁ、二人とも、大きく息を吸っていくわよ!」
スーーッ!
クレアを中心に腕組した三人は大きく息を吸い、胸を張り同時に大きく歩き出し会場の中心を行進する。その様子にジウは「あいつらなんで一緒に行進してるんだ??」と疑問に思っていた。
誕生日会場の広間では、長いテーブルが四角く囲うように一周ぐるりと並んでいる。ボスは奥の壇上の席に座っている。中央はボスの席まで歩けるようになっており、壇上の手前まで来ると三人は足を止めた。体の大きい口髭のボスが立ち上がると、横にいたジウがすかさず
「こちらがボスへのプレゼントです。へへへ」
「……」
「私はクレア。お誕生日おめでとうございます! そのクッキーはお気に召しましたか?」
ボスは黙ったままクレアを見ると、会場内を見渡す。
「これはお前が作ったのか?」
「私とモラとサラ、それにトールさんよ」
それを聞いたボスが、モラとサラとトールに視線を送る。三人とも嬉しそうな顔で自分のことを見つめていた。そして手を伸ばしカゴに入ったクッキーを掴んで食べる。今度は、飲み物の入ったコップを掴み、一気に飲み干すと目を見開きクレアに、
「そうか、そうか! これはジウの新しいプレゼントのお菓子担当の女だな!?」
「え? いや、その……」
隣でジウが指をいじりながらもじもじしている。ボスが笑いながらジウの肩を叩く。するとジウは困惑した表情のまま、
「そうです。新しい料理人です。捕らえてきたんですよ。へへ……」
「はーっはっはっは」
「お、おい! お前、新人なんだからぼさっとしてないでもっと料理を運ぶの手伝え!」
開き直ったジウがクレアに命令すると、モラが近づいてきて顔を赤くしたまま動かない二人の獣人からクレアを奪う。ベドとボクスは手と足をぎこちなく動かしながら席に着くとボーっとしながら食べ始めた。
「クレアも手伝って」
「うん」
クレアは賑やかな宴の中、料理を運んだり、誰かと座って食事をしたり、話したりしていた。
しばらくするとボスは自分の部屋に戻っていった。併せて、子供たちが寝始めると皆が運ぶのを手伝いながら各々の寝床へと戻った。
片付けは、モラとトールとクレア、それとドーアという一番年上の三つ編みの女性が手伝ってくれた。サラのお母さん代わりなのだという。
細い体で皿を運ぶクレアの様子をうっとりと眺めていたベドとボクス。先に動いたのはボクスだった。クレアが皿を取りに来ると、自分から運ぶといいだした。そしてクレアと一緒に歩き出したのだ。
それを見たベドは悔しがり、かわりにたくさんの皿を担いで持っていく。それを見たクレアが、
「まぁすごいベド! ありがとう。器用なのね」
どうだ?と言わんばかりに小さいボクスを見下す。ボクスは悔しがり皿をさらに運ぶ。そうしてあっという間に片付けが終わり、皆が寝床に就いた。
クレアも自分の檻へと戻り蝋燭の火を消そうとした時、一人の男が地下調理場のドアを開け、階段を降りてきた。
「ボクス?」
「ク、クレア。これ、よかったらどうぞ」
ボクスが持ってきたのは綺麗とは言えないが、新しく布を被せた枕だった。クレアはボクスに抱き着きお礼を言う。
「まぁ! ありがとう! 優しいのね」
「ま、またね!」
そう言うと、途中でつまずきながらも急いで帰っていった。そして枕を敷いて寝ようと思うとまたドアが開き、誰かが階段を降りてきた。
「ベド?」
「おう。これ、余ってたから。よかったら、クレアにと思って。いらないものだから。別に、どうってものじゃないけど」
「そんなことない。ありがとう。ベド」
ベドが持ってきたのはボロボロのマットレスに明らかに新しく布を張った物だった。クレアは嬉しくてベドにもボクスと同じようにお礼をする。
「……」
ベドは黙ったまま、つまずいて階段を上り帰っていった。クレアが蝋燭の火を消すと、最後にモラとトールがやって来た。トールが手渡してきたのは、
「これさ、毛布。使いなよ。朝になると冷えるから」
「うん。ありがとう。トールさん」
「あら? あははは。もう、先客がいたのね。どうせあいつらね。あんな二人初めて見たもの。あははは」
モラが笑いながらクレアに届けられた品物を見ている。クレアはそんな彼女にお願いをする。
「そうだモラ。私、手紙を書きたいんだけど、紙とペンをお願いできる?」
「ん? いいよ。明日もってくるよ。今日はお疲れ様」
「うん。おやすみなさい。モラ、トールさん」
「おやすみ、クレア」
「おやすみ」
そう言うとトールとモラは二人とも地上へと戻った。そしてクレアはそのまま眠りについた。
■ ドーア 一番年上の女性。お母さんみたいなもの




