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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第三章 闇の魔女
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42 高原③ 頂上で待つ者

 巨大な獣の咆哮は、瞬く間に静かな空間を突き破る。泉の対岸、岩のそばで昼食をとっていたクレアとエレノアにとって、初めて見る種類の獣が放つ大きく太い重厚に響き渡る叫びは圧巻だった。泉の水面を漂う余韻がゆらゆらと光を躍らせた。


 隣でエレノアは手を後ろについて小刻みに震えている。クレアは胸を圧迫されるような思いの中、目を逸らさずその獣を見つめていた。


「ライオン?」


「そう。本でみたの。ああいう感じだったの。耳から首の周りに立派な毛を生やしてて、猫みたいだけどちょっと違う。あんなに大きくない気がしたけど。生き残りかしら?」


「生き残り!? 太古……のそれも滅んだって言われてる奴でしょ?」


「そうね……」


 二人は座ったまま身動きせずにライオンの様子を伺っていた。対岸で座ったまま動かない二人の様子を見ていたライオンは、水を飲み終わるとそのまま森へと帰ってしまった。最後は軽く吠えていたが、最初の咆哮ほどではなかった。それでも低く太く強い音がうねりと共に泉の上を渡ってきた。


「ふぅ――。びっくりした。行っちゃったね……エレノア?」


「……」


 恐怖にやられたのだろうか? エレノアが黙ったまま動かなかった。視線はついさっきまでライオンがいた場所を見つめている。小刻みに震えた腕を少しずつ胸の前に集め体を小さくすると、急にサンドイッチを全て口の中に放り込んで一気に飲み込んだ。


「エレノア? そんなに急いで食べたら――」


 案の定、サンドイッチが喉をうまく通らない状態になったエレノアに急いで飲み物を差し出す。それをつかみ取り一気に飲み干すと、


「――っぷは! はぁはぁ」


 突然、エレノアが立ち上がった。


 拳を握り腕をくの字に曲げ、一気に吸い込んだ息で胸を張る。膝を曲げずに大きく男らしく歩きながら、数歩進むとクレアに振り返り、鼻の孔と目を見開きさらに大きく息を吸い込み、


「―ッガオォォオオオ!!!」


 そのまま後ろに倒れてしまった。


「あはは。どうしたのエレノア?」


「くぅーーー!! みた? あれ見た!?」


「一緒に見てたでしょ? すごかったね」


「んーーーー!! くぁあっこいいいいーー!!!」


「あははは」


 エレノアが寝っ転がったまま草の上で手足をバタバタさせている。よほどさっきの咆哮が気に入ったのだろう。


「ねぇクレア? あたしもああいう風になれるかな?」


「どうかしらね? ダンおじさんより一回り以上大きかったね」


「そう! そうなんだよ! なんだよあの大きさ! それにあの首の周りの……」


たてがみよ。あれが特徴なんだって」


「鬣かあ。いいなぁ。かっこういいなぁ。ガオォォ!!」


「あははは」

「あははは」


 昼食と摂るために寄った泉での突然の訪問者。その巨大で見たこともない獣に感動した二人。食事を終えたあと少しだけ休み、また元の道に戻りおばあさんに聞いた村までの道のりを歩き始めた。


 おばあさんの話では村までは歩いて半日。朝に出たから、あと五、六時間だろうか? 山賊が出ると言っていたので明るいうちに到着しておきたい。


 しばらく道を歩いていると、周りはすっかり高い木で囲まれていた。歩いている道幅は広く、上がったり下がったりの山道だ。


 エレノアは横で、ライオンに会ってからはずっと何かの練習をしている。「こうかな」「いや、こうか?」「こうだな」と言いながら威厳のある歩き方をしようとしたり「あー、あー」とか言いながら咳ばらいをして低い声をだそうとしている。女の子なのに……


「あそこを登ればそろそろ村が見えるんじゃないかな?」


「あー。あー。こほん。だめだ! え? この上り坂かぁ。けっこう急だね、クレア……あれ!」


 二人で急な上り坂の頂上を見る。道の右側に馬車より高いくらいの大きい岩があり、その上に誰かが立っているのに気づいた。


「誰かいる」


「なんだ、あれ?」


「何かしらね……私たちを待ってるみたい」


「襲ってきたらこのフライパンでぶんなぐってやる」


 念のため警戒しながら坂道を上る二人。声が届く程度の距離まで来ると、頂上の岩の上に立っているのが女性であることが分かった。その女性が大声で、


「あんたたち! ここへは二人できたのかい?」


 その女性が大きな声で話しかけてきた。髪はオレンジに近いジンジャーで、編み込んで後ろに流し、大きく垂れた前髪が特徴的。細い剣を腰に携えている。ゆるっとした白いシャツにコルセットでくびれが強調されている。足はしっかりとしているが、ブーツに向かって細くしなやかに伸びていた。


「女の人だ。クレア、あの人剣持ってるよね? 女の剣士?」


「そうね。それに荷物がないわね……」


 戸惑っている様子の二人にその女性がまた声をかけてきた。


「そこで止まりな!」


 言い終わるかどうかの時に、女性の立っている岩陰から更に二人の男が出てきた。さすがにそれを見たクレアとエレノアは警戒心を強める。エレノアはフライパンを片手に。クレアは背中のリュックに括り付けてある父から貰った小剣をすぐに抜けるようにしておいた。


 岩の上の女性が何やら二人の男に指示を出している。最後にその女性がクレア達を指さすと頂上からその男二人が走って向かってくる。


 一人は、細めの体と顔。髪は茶色で軽くウェーブしている。首の後ろでくくっているようだった。袖の膨らんだシャツにズボンにブーツ。少し垂れ下がった目とは対照的に眉毛が上がっているように見える。


 もう一人は、とても大きい。筋肉はないが、脂肪で隠れているような感じだ。同じく茶色の髪で、強くカールした髪のせいで短く見える。半袖でボタンのない服にズボンだ。


 岩の上に残った女性も入れて三人。全員が人間だ。


 大きい男は坂を走って降りてくるのが辛そうだった。それをみながら細い方の男が声をかけていたが、


「おいおい! しっかりしろよ? 先に行ってるぜ。ははは!? ああ、あっ、とっっとっとっととと――」


 調子に乗ったせいか、大きい男より先に坂を駆け下りてくる男は次第に加速し物凄い勢いになっていく。坂を駆け下りる足の回転が物凄い速さになり、表情もだんだんと焦り出す。


「うわあああ」


 男はクレア達のいる場所へ辿り着く前に、坂道でつまずいてゴロゴロと転がってきた。クレアとエレノアが自分たちの前に転がってきた男を不思議そうな顔で見ている。男は立ち上がりながら、


「いたたた。ははは。これはこれはお恥ずかしいとゴファ―ッ!」


 立ち上がろうとしてたところに、走ってきたもう一人の大きい男が後ろからお腹でぶつかると吹き飛んだ。クレアとエレノアが一歩だけ横に動いてそれを避けると、ちょうど二人の間に滑り込むようにして止まった。 


「ごめん。兄さん。止まらなくて。はぁはぁ」


「だいじょうぶ?」


 エレノアが膝に手を当てて呼吸を整える大きい男に声をかけた。


「え? ありがとう――。優しいね君。名前は?」


「エレノアだよ」


「そう……。僕はアボット。で、二人の間で寝てるのが兄さんのジェームズ」


 クレアとエレノアの間に滑り込んできた男が、地面に寝そべったまま肩ひじで顔を支えすました顔で、


「やぁ、美しいお嬢さん。俺はジェームズ。君の名前は?」


「クレア」


「クレアか。綺麗な名前だね。美しい花には相応の名前があるもんだ。クレアか……また一つ、この世界に――」


 ジェームズが言い終わる前に、冷めた目で見てるエレノアが男の尻に蹴りを入れた。


「いでっ! ちょっと、俺の挨拶を邪魔しないでくれる――!? あれ? 君もまたかわいいね。俺はジェームズ。君の名前は?」


「ねえ。あんた達、何しに来たの?」


 じーっと冷めた目で見るエレノアが、寝そべったままのジェームズに言うと弟のアボットも続く。


「ジェームズ兄さん、ローズ姉さんに怒られるよ?」


「……。ちぇっ。じゃぁ、クレアちゃん。今日の出会いは明日の付き合いになることを祈ってるよ」


「しっし」


 立ち上がるジェームズをエレノアが手で追い払う。立ち上がった彼は二人の少女より背が高い、二十代の大人の男だ。弟のアボットはそんな彼よりさらに大きい。見た目は二十歳前後で優しい顔をしている。


 背中を向け戻り始めたたジェームズが空を見上げながら、ふと立ち止まる。そのままゆっくりと振り返ると、


「そうだ。これを君にあげよう。この花は君にこそふさわしい。それでは! ははは」


「待ってよ、兄さん」


 どこから出したのかジェームズが綺麗な花をクレアに渡す。呆気に取られた二人の少女を残して兄弟は坂を戻っていった。クレアがエレノアに振り返り、


「何しに来たのかな?」


「ほんと。なんだあのバカ二人は」


 急こう配の坂道を兄のジェームズが、体の大きい弟のアボットの背中を押しながら登っていく。頂上まで戻ると、岩の上に立った女性が二人から話を聞いている。そして、岩から飛び降りると男二人を蹴飛ばしていた。そしてまた、二人が走って降りてくる。


「ねぇ、クレア……? あれコントなのかな?」


「わからないけど、注意はしておきましょ。エレノア」


 ……


 ――ズザザザザ


「お待たせ。クレア」


「大丈夫? ジェームズ。服がボロボロ?」


 結局またこけて転がってきたジェームズ。さすがに二回目は距離感を掴んだようでうまいことクレアの前までやってきたジェームズ。立ち上がりながら体の土を払い落としている。その後ろではエレノアが少し距離を空けるため後ろへ下がり始めた。土を払い終わったジェームズが顔を上げ笑顔で、


「悪いんだけどさ、俺たちゃぁぁあっっ」


 一生懸命走ってきた弟のアボットにまた吹き飛ばされるジェームズ。はぁはぁ言いながらアボットは二人に説明を始める。


「はぁはぁ。さぁ、二人とも金目の物を出すか、命を差し出すか、はぁはぁ、好きな方を選びな。やった!」


 アボットが達成感を握りしめた拳で表して、喜んでいた。

■ 巨大な黄色い獣 ライオン (目安としてはサイより大きいくらい)

■ ローズ姉さん 謎の女性 ジンジャー編みヘアー 大人色気 垂らした前髪

■ ジェームズ 兄弟の兄。後ろで軽く縛るウェーブヘア。憎めないイケメン風

■ アボット 兄弟の弟。縦にも横にも大きい。カールヘアー。パンチじゃない。

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