26 外の世界へ② 三人の魔女と白い魔女
上空、街の中で走り回る団員。それを助けようと近づくも「近寄るな!」「来るな!」「ほっとけ!」などと言い逃げ回る。赤い魔女に花火の発射台にされた彼らは、その効果が切れるまで走り続けた。
赤い魔女が彼らに魔法をかけて緑の魔女と宮殿の中へと向かう。ちょうど、アゼリアが空を飛びウィルのところへと辿り着く頃の話。
「あーあ。これで終わりかぁ。もちょっと楽しみたかったなぁ。ゆっくり味わいたいし。はぁ、これ。気持ちいいなぁ」
そう言いながら赤い魔女は自分の胸に手を当ててうっとりとしている。緑の魔女と違って、ほとんど裸に近い格好の彼女は、すれ違う団員を見ながら「いってらっしゃい」と声をかけている。隣を歩く緑の魔女の結界が魔女2人を『ただすれ違う人』にしている。
「お? そうだ! あれ持っていこっと」
アゼリアの部屋の前に来ると、思いついたように中へと入る。
「ヒヒヒ。しめしめ。これこれ! これにする」
そういうと、クローゼットの中から自分の好きな服を掴んだ。下着やタイツも履くとその髪を元の長さに戻した。前の開いた赤いローブを纏い、結局男性なら目のやり場に困るような服装に変わりはなかったが本人は満足している。
「はいはい。いきますよ」
アゼリアの部屋をでた赤い魔女と緑の魔女が向かったのは生命の大樹のある場所。そこには一人のエルフが立っていた。空になった妹のカプセルの前で何かを考えているように見えた。そして、入ってきた二人の魔女に気づく。
「君は……魔女? それに、どうして妹の服を着ているのかな?」
「こんにちは。ちょっと寒かったからね」
横で首を振る緑の魔女。話しかけてきたのは次兄のエルフだった。悲しそうな顔で、質問を続ける。
「妹に何かしたのかな? これと関係あるのだろうか?」
「んー」
赤い魔女は自分の頭に両手を回し緑の魔女に顔を向ける。何も答えないので適当にごまかした。
「まぁ、したっちゃしたし、されたっちゃされたかな。運命共同体っていうか。まぁ、お互い様? ちょっとやだ、怖い顔しないでよ」
「私のあげたペンダントはどうした?」
「あれは、持つべき人が持ってるよ。アタシは貰ってない」
「そうか。ということは、君は妹に似てるけだけなのかな?」
「ひゅー。やっぱ兄さんは強いよ。どうしてもっとこう、そういうのを前に出さないのかな?」
雰囲気の変わった次兄の様子に赤い魔女が言う。緑の魔女はその場から下がり、壁際の低い石に腰掛ける。次兄が生命の大樹の幹に延びた階段を降りてきた。赤い魔女が新調したばかりの服を見て心配している。
「あー。これ、きっとダメになるよね?」
「どうだろうな?」
部屋の中では床に広がる水とそこに滴る音が響く。甲高く、澄み渡る綺麗な音で。次兄が右手を赤い魔女に向けてかざすと、その音が全てしなくなり、静かな時間が流れる。
――ヒュン!
早く鋭く飛んできたのは氷の刃。赤い魔女はそれを右手を振り払うように弾き砕いた。それは止まることなく、彼女に降り注いぐ。すぐに防壁を張ったが、守り切れず服には穴が空いてしまった。
「あぁ! やっぱり……もう。ちょっと、座って見てないで手伝ってよ」
続いて、次兄が両手を動かすとそれに合わせて床の水が凍りながら赤い魔女を捕まえる。黙って動かない彼女の所まで近づいていくと、
「私に君を殺すことはできないけど。捕らえることはできる。話を聞かせてもらえるかな?」
「ごめんね。兄さん」
そう言うと赤い魔女は氷で包まれた手や足を難なく動かし、彼のお腹に一発をくらわす。気絶した兄を抱きかかえると、緑の魔女の横に運んだ。
「じゃぁ、さくっと終わらせるか」
赤い魔女はそう言い放つと、まず長兄の二つの素体へと近づく。そして、琥珀に手を添えると眠ったままの素体が少しずつ消え、樹へと戻っていく。次に近くの長方形の石が床から伸びている場所へと行く。その天辺には、エルフの古代文字と真ん中に模様の入った石が埋め込まれていた。
「あちゃ、やっぱアタシだけじゃだめだ」
座っていた緑の魔女が立ち上がり、赤い魔女に近づいて一緒に試すがやはり何も反応がなかった。
「だよなぁ。全部揃わないと……」
二人はしばし次兄の横に戻り時間を潰す。
いつの間にか次兄の手を握っていた赤い魔女が涙を流していた。それは次兄に対するものではなく、同じころに起こっていた事に対する涙だった。涙を流しているとすぐに頬に傷を負った白銀の魔女が現れた。
「遅いょ……こんな想いするなんて思わなかった。キツイわぁ」
「ごめんなさい。始めましょう」
「あぁ。離れたくないよぉ――」
赤い魔女は、旅人に最後のキスをして戻ってきた白銀の魔女の気持ちを胸にまるで少女の様に泣きながら叫んでいた。そして白銀の魔女に抱き着く。
「大丈夫。私は彼女を通じてあの人から貰えるもの。愛や楽しみや笑いやもしかしたら喧嘩もするかもしれない。それでも、二人の時間や思い出、彼の温もりを知ることができる。貴方には酷かもしれないけど。ありがとう」
「そんなのきついよ……記憶があるのに、記憶が増えていくのに、実体のない感触で――。彼と一緒に過ごし続けるなんて――」
子供の様に泣く赤い魔女を胸に抱く白銀の魔女。少しずつ落ち着くいてくると、
「それにね。一人。少しだけ残ってしまったけれど、きっとうまくいく。だって光を授けたもの。私たちの子がきっと――」
「うぅ、わかってるけど――」
少しだけ沈黙すると、赤い魔女は離れる。そして三人は石の埋め込まれた台までやってくる。三人が台の上で手を合わせると瞬く間に白い魔女へと変わった。その体は内側から光が飛び出そうとしているようだった。そして、台に書いてある言葉を三人が重なるように読むと地響きと共にそれが始まった。
――!!
台から手を離すとすぐに三人の魔女はバチっという音をだし弾けるように戻る。白銀の魔女が言う。
「やっぱり、今はこれが限界ね」
朦朧とした意識の中、次兄がその様子を見ていた。夢か現実か……。
「じゃぁアタシは賑やかな所へ行くよ。なるべく遠くへ。意味ないだろうけど」
「そうね。私は……思うところがあるから」
「……」
赤い魔女、緑の魔女はそのまま外の世界へと旅立った。白銀の魔女はボーっとした次兄の元へ行くと、優しく声をかける。
「兄さん。優しい兄さん。ありがとう。貴方の大好きな妹はちゃんと外の世界で生きていますよ」
彼の首にあるペンダントを手にすると、口を近づけそれに呼びかけた。
「セレーネ・ウル・エル'クレア」
するとペンダントがカパっと開く。彼女はその場を後にし、静かな地響きの中、宮殿や街を歩きながらゆっくりと外の世界へ歩いて行った。




