24 魔女④ 白い魔女と白銀の魔女
袋を被ったシルヴェールは、三人から放たれる三本の矢に気づいていた。無情にも、その矢はすべてが旅人へと向かい、正確に彼の頭や体を射抜こうとしていた。
……
……
突然にその中は静かになる―
覚えのある光景―
ここは加護の中? こんなに永く?
本当なら刺さるはずだった矢が三本、立ち上がる旅人にぶつかりゆっくりと空中を回転し始める。あたりを観察する。見えるのは苦戦するミート、袋を被ったシルヴェール、敵。全員が止まっていた。そして彼女の方へと振り返ろうとした時。
白い髪の美しい魔女が優しい表情、愁いを帯びた眼で立っていた。その姿は裸のようだったが内側から光っているようで細部までは見えなかった。美しい顔の頬には傷があった。二人は静かに見つめあう。
白い魔女は旅人に近づき彼の体から静かに矢を抜く。そこに痛みはなく、彼に触れ癒す魔法には覚えがあった。しばらく彼を見つめていた後、悲しそうに振り返る魔女はリッカーの元へ行く。突然動き出したリッカーは周りの様子にパニックになっていた。そして、目の前に現れた白い魔女に声を張り上げる。
「うあぉ、ぉぉあ! 魔女! 喰わないでくれ!!」
白い魔女が優しい声で話しかける。
「リッカー。彼を頼みますね。ありがとう。貴方は、成し得る人です。世界がまってますよ」
静かな空間の中、白い魔女はミートの元へ移動する。ミートも最初は驚いていた。そのあとすぐ黙ったまま白い魔女に見惚れていた。満面の笑みを浮かべて嬉しそうにしている。そのミートの笑顔に手を添える白い魔女。そして次にミートの腹筋あたりに手を添え、体を寄せると語り掛ける。
「優しい子。辛かったでしょう? もう大丈夫。ずっと彼と一緒に居られますよ」
白い魔女は最後に袋を被ったシルヴェールの元へ行く。袋を被ったシルヴェールは声を挙げ尻もちをついた。顔から袋をとり、魔女の方に顔を上げ魅入っていた。そして魔女から差し出された手を抵抗なく取り立ち上がる。そこに恐怖は微塵も感じなかった。
「大丈夫。シエナはすぐによくなります。彼女にお礼を言ってあげてくださいね。貴方の想いは、彼女の想いでもあります。大切に」
白い魔女は旅人の傍に戻ってくると、彼の手を取った。まるで手放すのが惜しいかのように彼のことを握った手からゆっくりとその視線を上げていき、彼の目を見た後に彼女は岩陰を指さし、
「二人をよろしくお願いします。特に彼女は……貴方が想う限り、彼女も変わらず貴方を想うのですから。永遠に」
我に返った旅人は、彼女に言葉をかけようと手動かす――
そして、彼女は忽然と消えた。
残っていた敵は皆、気絶していた。皆が口をぽかんと開けていた。そして、岩陰で眠っていた彼女が目覚める。旅人はこの場を後にする為に彼女を抱きかかえようとしたが、体の痛みで持ち上げるのも精いっぱいだった。そんな彼の首に腕を回した彼女がキスをした。優しく、柔らかい、そしてまるで最後のような深く悲しいキスだった。再度止まる時の中では誰一人動いていなかった。
これはワタシのわがままかしら――
でも、これが最良――
最後に貴方の愛がほしかった――
最初の私たちの愛を残したかった――
その時までワタシは貴方を待ち続ける――
遠くにいます。近くにいます――
貴方の愛は彼女を通して私に伝わる――
記憶は増えても、思い返すことは出来ても、感触は分かっていても―
ワタシは遠くで実体のない貴方の愛を受け取る――
最後の経験を――
わがままを許してください――
愛してる――
旅人と彼女がキスをする止まった時間の中、白い魔女が少しずつ体から出てきた。愛と悲しみを含んだ表情で、唇だけは離したくないと抵抗しながら、彼の顔に添えた手を、唇を離すことが辛かった。
ダメ! あなたも一緒に――
一つだけ誤算があった。一緒に連れていくはずだった黒い魔女が彼に抱きかかえられた彼女の中に残ろうとしたのだ。黒い魔女はそんな彼女の空っぽの器へと入りこむ。白い魔女はせめてもと、黒い魔女をひっぱりだそうとしたが全部は無理だった。
白い魔女は取り出せただけの黒い魔女を取り込みながら、その身を完全に魔女へと変貌をとげる。雪の様に白かった髪は灰色がかった白銀の髪になり美しい魔女へと変わった。頬に傷のある白銀の魔女は最後に男の耳に何かを囁くとその場を後にした――
戻った時の中では誰もそのことは知らない。そして、嬉しそうに照れた彼女が彼に抱き着く。顔からは傷が消えて元に戻っている。少しだけ髪の色がくすんでいた。横で見ていたリッカーが旅人に話す。
「旅人……ワシらが探し回っとる間、お前は女としけこんどったんか? お嬢さん、ワシはリッカー。であっちの大きいのがミート」
「ミートォ!」
近寄ってきたミートが自己紹介をすると、言葉がちょっとマシになっていた。そのことに旅人、リッカー、ミートが三人とも目を点にして顔を会わせる。
「まぁ、すごい大きいのね! よろしくね。ミート」
ミートが珍しく照れていた。
「で、こいつが……って、名前を聞くところで崖に落ちたんだったな。わはははは」
「ああ……俺はウィリアム。ウィルでいいよ」
旅人ウィリアムは彼女を見つめながら言う。そして彼女も自分の名前を言おうとしたが……自分の名前がわからなかった。思い出そうとしてもそれが出来なかった。
‥ア…………リア‥ブル……ベ‥
‥ア……ゼリ……ア‥ブルー…ル…
遠く感じる記憶の中、なぜか愛しいウィルの声でそれが断片的に響いた。
「アゼリア・ブルーベル?」
「おお。アゼリア……ブルーベル? どっかで聞いたような。まぁいいかな。わはははは。よろしくな!アゼリア。ブルーベルがいいか?」
「ミートォ。アゼ…ア…アゼ…リア」
「うん。よろしくね。ミート」
四人が岩の横でお互いに挨拶をしていると、シエナを抱えて先に森を戻ろうとしていたシルヴェールが大声で挨拶をし、去っていった。ほどなく、四人が出発しようかという時に――
「はっはっはっは!! イーゼル副団長のお出ましだっ! 覚悟しろ悪漢ども!」
■ 「魔女の森 〜」第6話つながりあり
本編1章と2章の間の話。コメディ主体につき注意




