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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第一章 白銀の魔女
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20 終わりの始まり⑤ 黒い魔女

 旅人が泉でシルヴェールと闘っている頃


 焼却炉がある暗い部屋。焼却炉の扉には小さなガラス窓。その先、黒い灰の中に彼女は潜んでいた。昨夜、四肢を奪われ焼却炉の中へと入れられた彼女はその後、黒い魔女へと変貌した。その黒い灰の中で息をひそめ、機会を待っていた。


 そこへ昨夜と同じ二人のエルフがやってきた。泉で旅人と会っている彼女を「妹」と呼んだ長兄の若いエルフ。そんな彼を「ご主人様」と呼ぶ猫背の助手。二人は彼女を昨日と同じ台の上に運んだ。



「目が覚めたかい? 妹よ」


「――ここは? お兄様?」


 目覚めた彼女は長兄に話しかける。自分が冷たい台の上にいることに気づいた。服は昨日のまま、意識がすこし朦朧としている。部屋の雰囲気、横にいる助手、長兄の顔をみて不安がよぎる。


「私、どうしてここに? ――行かなきゃ!」


 逃げ出したい気持ちと、旅人に会いたい気持ちが入り混じり、急いで起き上がろうとしたが体がうまく動かなかった。傍に立つ二人の存在が不安を膨張させる。長兄が彼女の手を握り、説明を始める。


「今、森では調査隊が出てるそうだ。お前が何をしていたかは知らない。だが、何が居ようと森はすぐ元に戻るだろう。気にすることではない」


「そうですよ」


 助手が不気味な顔で賛同してくると、長兄は助手の首を掴む。


「黙っていろ。昨日のとは違うんだ。これは、本人だ。貴様のような奴が気安く話しかけたり、触れたりしていいものではない」


「……ハヒ――ゲホゲホ」


「どういうこと? 何を――」


 彼女の唇を指で押さえ、


「シー、シー……。大丈夫。お前は昨日、気絶をしたのを覚えているか? 丁度そこに私が居合わせてな。しかも街では魔女が出たと騒いでいる。だから思いついたんだよ」


 長兄は両手を横に広げ、この素晴らしいタイミング、光景、これから起こる出来事を想像すると喜びを隠せなかった。


「明日、魔法の使えなくなったお前が現れても、魔女のせいだと言えばごまかせると」


「魔法が使えなくなる?」


 長兄がガラス玉を手に持ち、それを彼女から見えるところに出すと説明を続ける。


「ああ、そうだよ。ここにお前の中のカギを取り出す。そして私は『奴らのところ』へ行く。安心しろ、取り出す準備はできてる。昨日も無事成功したよ。……だが、やはりお前じゃないとダメなんだ。オリジナルじゃないとな。素体にはどうも、中身がないらしい」


「そんな? 勝手に私の――」


「ああ、安心しろ。俺のを一つ使用して、だいぶ前から用意しておいたんだ。昨日はそれを使っただけだ。だが、今日は違う。何しろ、お前本人で試すんだからな。これからお前は、魔女に殺された死体になるんだからな。ハハハ」


 彼女はそこで自分がどうなるかを理解した。灰の中で息をひそめる黒い魔女は、男の手にあるガラス玉をみてギリギリと歯を噛みしめる。


「あぁ、そうそう。それとここに運ぶまでの間にお前の記憶を移しておいてやったぞ。気絶するところまでだがな」


 長兄が彼女の手を握り嬉しそうに続ける、


「つまり、お前はカギを失いただの死体となる。そう、死んだのは魔女のせい。新しく『生まれ戻る』お前にこの記憶はない。あるのは昨日通路で倒れたとこまでだ。どうだ? 安心だろ?」


「そんな!? 無理に取り出されたら私――」


「んー。昨日のはどうなった?」


 小さく丸まった猫背の助手が、前に出てきて説明する。


「昨日は、生まれたばかりでただ叫ぶばかり。言葉など発することも出来ない状態でした。取り出した後、それはもう狂おしいご様子でした。ただ、死にはしませんでしたよ? 私があそこに放り込むまでは……ヒヒ」


 猫背の助手が焼却炉を指さすと三人が見る。視線の先にいる黒い魔女は身を屈め、息をひそめ三人を見つめる。


「だそうだ」


「なんて酷いこと。許せない――!」


「まぁまぁ、落ち着け。何もできないだろう? その台の素材を集めるのに苦労したんだ。今、世界に国がないのにはその台が関係しているんだよ。苦労したぞ。国を造っては壊し、造っては壊す。お前は長い歴史の副産物の上で、新たな未来を刻む糧となるんだ。ハハハ」


 ――いや! 助けて!!

 ――イア ‥タス‥テ‥


 焼却炉の中の黒い魔女は彼女を見ながら小さく呟く。中の灰が炎もないのに浮き上がっていた。まるで何かが燃えているかのように、空気が流れ、排煙口を登ろうとしていた。


「では、始めようか? 妹よ」


 長兄が昨日と同じ手順で、彼女から脈打つ光の塊を取り出す。助手がすかさずガラス玉を近づける。彼女は涙を流しながら意識を失わないように必死に抗っていた。ただ、彼に会いに行くために。彼のことだけを考えて。


 ――会いたい。死ねない。あの人の元へ

 ――アノ……ヒトニアイ‥タイ‥アイシテ……


 黒い魔女も苦しみながら、彼女の言葉を、心の声を口にする。


 彼女から取り出した物は昨日の光の塊とは全く別物で、溢れる光にはたくさんの色の粒があった。美しく、柔らかく、温かく、爽やかで、気持ちのいい物だった。長兄もそれに触れ感動に身を浸していた。できればガラス玉になど入れたくないほどに。


 光がガラス玉へ少しずつ吸い込まれていくと、中の石がカタカタと震えだし、それぞれが色を発する。黄色から赤が混じりオレンジになったかと思えば、紫が加わり青が加わり、最終的にはガラスの中は綺麗な白光を放つ。中の石は高速でガラス玉の中を所狭しと回転している。外側はオーロラのように、虹のように、全ての色で輝いている。


「ぉぉぉぉ」


 ガラス玉を手に持っていた猫背の助手は、自然と涙がとまらなかった。しかし長兄にガラス玉を奪い取られると今までにない喪失感を感じ、無意識にその手がガラス玉を追った。


「はははははは! やったぞ! ついにやったぞ!!」


 震える手でガラスの玉を持つ長兄。吸い込まれるようにガラス玉を見つめている。すると、焼却炉に火が灯る。あまりの勢いに扉の窓にひびが入った。それに気づいた猫背の助手が様子を見に行く。


「どうしたのかなぁ? お前も影響されて火がついちゃったのかな?」


 猫背の助手は単に使い込んだ焼却炉に話しかけているつもりだった。その炎が黒い魔女のものだとは知りもしない。近づいてくる助手をみて、パキパキとなるガラス窓。扉を開ける瞬間小さな破片が飛び、助手の顔を傷つける。


「きゃぁ! イタイ!」


 長兄がその手にあるガラス玉の美しさに浸っている中、後ろから聞こえた猫背の助手の悲鳴に苛立ちを露わにする。


「おい。女みたいな悲鳴を上げるな。台無しではないか」


「申し訳ございません」


 振り返り、長兄に腰を折って謝る助手。ガラスの破片で切れた自分の顔の血が地面にポタポタと落ちるのが分かった。同じく焼却炉の方へ振り返った長兄が固まる。謝ったのに何も言わず黙っているので、まだ頭を下げてようかな。と思い、地面に顔を向けたままポタポタと落ちる自分の血を眺めている。


 段々と、自分の影が小さくなることに気づく。後ろの光源がまるで段々と高くなっているかのように。顔を上げた助手は、長兄が自分の背後の何かに驚いているのに気づく。そして恐る恐る振り返ると、そこには炎に身を包む黒い彼女がいた。


「な……んだ、あれは」


「ァアア"ア"ア"ア"!!!」


「ぎやぁああああ」


 次の瞬間、黒い魔女は叫びながら炎と共に猫背の助手の体に抱き着く。倒れ込んだ猫背の助手に乗っかるのは、手足がない顔と胴体だけの黒い女だった。お互い叫びながら、助手と重なる部分だけが燃え、溶かされていく。苦しそうな悲鳴を上げるその様子はとても恐ろしかった。


「ギャアァ、アツイ、アヅイ、イダイ、イダ、アア"ァ、グギァ……――」


 猫背の助手は叫ぶ。この時だけはその猫背が完全に伸びきるほどに。手足以外の部分が燃え尽きる。すると黒い魔女は、残った助手の四肢を使い立ち上がった。手足のつなぎ目、口へと吸い込まれる炎。黒い部分が、助手の白い肌を少しずつ浸食している。


「なんだお前は!! くそう! 来るな!」


 長兄はガラス玉を体に抱き寄せ守るように持ち、残った右手で雷を放つ。ガラス玉も活用したその威力は、腕の太さとは見合わない程の電撃を放ち、凄まじさから逆に自分が吹き飛ぶ。その勢いで壁に頭をぶつけると長兄は気絶した。右手は肘から先が焦げ、左手に持っていたガラス玉は手放され、地面を転がる。


 電撃を受けた黒い魔女は、その新しい手足を再度失い床へと落ちる。パリパリと残っていた電撃を、焼却炉の炎や灰と同じように吸収してしまった。そして、ガラス玉の方へと這いつくばって行く。


「アァ……アァ……カエ‥シテ」


 少しずつ


 少しずつ


 ガラス玉まであと少しのところまで近づくが、力を使い切りもう進むことが出来なくなり、嘆いていた。


「アァ……アイ‥タイ……カエシ‥テ」


 吹き飛ばされたのは台上の彼女もまた同じだった。痛みに耐え、もがきながら、傍にいるのが実験のために作られた自分の素体だとすぐに分かった。体内からカギを取り出されてからは内側の何かが崩れていくようで、死が近いことも感じていた。


 そんな痛みと恐怖と不安の中、彼女は必死に黒い魔女の元へと這いつくばっていく。そして、黒い魔女を抱き上げると、


「ごめんなさい……ごめんなさい……痛かったでしょう? 私のせいで……辛かったでしょう……こんな、本当にごめんなさい――」


 自分の痛みに耐えながら、泣きながら、抱き上げた黒い魔女を抱きしめる。黒い魔女もまたその心地よさに、今はない腕を彼女の体へと回す。


「アア……カレ…アイシ…テル」


「ええ。愛してる。会いたい。もっと一緒にいたい。私、死にたくない――」


 黒い魔女を抱き上げた彼女は、先程までの痛みが和らいでいくのが分かった。黒い魔女が炎や電撃を吸収したように、彼女の痛みもまた吸収しているのだ。


「ダメよ! そんな――」


「カレ…アイニ…イ」


「ありがとう……ありがとう――」


 涙を流しながらお礼をいう彼女。しかし徐々に自分が崩れていくのを感じる。内側から何かが変わっていく。必死にそれに抗っていた。


 彼女は近くに転がってきたガラス玉を手に取る。すると輝きが増し、色が鮮やかになった。黒い魔女を抱きかかえながら、そのもう自分には戻らないガラス玉の光を抱き寄せると突然に黒い魔女がそれを包み込み彼女の中へと入ってしまった。


 突然の出来事。さっきまでの苦しさとはまた別の、息が止まるような痛みに両手を床について耐える。荒い呼吸をしながら、状態が落ち着いた彼女は無意識に自分の両手をみた。ついさっきまでいた黒い魔女と、手に持っていたガラスの玉が無くなっている。


 一度取り出されたそれが、元に戻ることはなく内側に抑え込むのに必死だった。しかし、立って歩くことができる。彼女は外へ出ると、壁に手をやりながらある場所へ向かった。


 すぐに、団長のリードレがこの部屋へとやってくる。再度現れた魔女の気配と轟音によりたどり着いたのだ。引き連れた部下が中を捜索するも狭い部屋の中には男が一人倒れているだけだった。


「団長、こちらを」


 部下の一人が長兄に気づき、案内する。右手の焦げた状態で気絶して倒れている。見たこともない素材と模様で出来た台、焼却炉、飛び散った肉片。何か繋がりがあるのは明らかだった。


「丁重に扱え。だが、容赦はするな。兄はもう一人いる。その焼却炉も調べろ。何を処分してたか突き止めろ、言い逃れなどできまい。それと、この飛び散った肉が誰のものがもな」


「は!」


 そう伝え、いったん外に出ると別の部下が駆け寄ってくる。


「団長!」


「どうした?」


「先程、シエナがまた暴走したようで。何かあったようです」


「そうか。一緒に行ったのは確か、シルヴェールだったな?」


「はい」


「そうか。今、ここで魔女の気配がしたが、また消えてしまった。私が来た時にはすでに扉が開いていた状態だ。どこかにいるかもしれん。私は森へ行く。シエナが暴走したということは、多分、シルヴェールがやられたのだろう。それとここの編成は、捕獲だけに特化させろ。決して、倒そうなどと思うな。とどめは私が刺す」


「はい」


 リードレはそのまま、森の編成部隊に合流しに向かった――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 御兄さま…なんてやつだ [気になる点] 生まれ戻る?それがエルフが長寿であることと関係あるんでしょうか? [一言] 魔女の誕生はえげつないですね。そして悲しい。 助手は良い仕事をしてくれま…
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