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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第一章 白銀の魔女
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2 何もない森② 小枝は響くよ どこまでも

――森に入り道なりに200メートルくらい進んだところ。



 旅人は歩きながら腰のベルトにぶら下げた鈴に指先を当てた。鈴を動かしても音が鳴らないことを確認し周囲を見渡す。ふと道をそれた先の木陰に地面から鋭く突き出た岩があるのに気づき、その岩の傍へと歩いて行く。


 「よしよし、よかった。これはちょうどいいテーブルだ」


 立ったままでも丁度いい高さの斜めになったテーブルの上に、歩きながら広げて準備していた地図を置く。旅人はもう一度、念入りにベルトの鈴に指をあて、音が鳴らないことを確認した。


「さぁて、親父さんの言ってたとおり魔女はいないみたいだし、とりあえず準備するか」


 地図を見ながら、親父さんから聞いた被害にあった畑、村の場所、見つかった足跡に小石を置く。次に被害の回数や大きさに合わせて石を大きくしていった。被害にあった順番、ここ最近狙われていない場所、聞いた話を思い出しながら地図を眺める。地図の中の岩場で寝ぐらになりそうな場所、近くに川もある手頃な場所に目星を付けるとまずはそこから調べることにした。


 旅人は腰にぶら下げた剣を鞘から引き抜くとその具合を確かめ鞘に戻す。岩のテーブルに置いた荷物を整理すると森を更に奥へと進んでいった。


 森の中をしばらく歩いて来たところで周囲の異変に気付く。よく見ると、折れた枝、踏まれた草などの『何かが通った道』として出来上がっていた。何より畑の作物の残骸がいくつか落ちていたことでそれは確信へと変わった。


「おいおい、なんだこれ。本当に獣か? なんて大きさだ。親父さん、これは馬車と果物じゃ割が合わないかもしれないぞ」


 しゃがみ込んで地面を調べていた旅人は地面、草、枝と順番に視線を迫り上げて驚いた。自分の背より高いところの枝が折れて出来た通り道だったのだ。頭の中でその姿を思い浮かべたが、それはどれも獣というより魔物だった。


「森の動物、ちょっと大きい獣を想像してたがこれは改めないとな……」


 旅人はすくっと立ち上がり剣を抜く。今度は剣に写った自分と見つめあう。しばし目を閉じ、考えをまとめると目を開け「カチン」と剣を鞘に戻す。大きく息を吸ってから「よし!」と一声。旅人は『何かが通った道』を畑や集落とは反対、さらに森の奥へと慎重に歩き始めた。



     ※


 ――!!  !!


 

 周囲を警戒しながら慎重に歩き続けること数十分。何か伝わるものを感じ取った。


 ん? 何かやってるな。


 歩くのをやめ、片膝と手を地面につけ振動や音、空気、匂いに全神経を集中させた。



 ――!!  !!


 

 旅人はその方向へと鋭い視線を向けた。慎重に、静かに、素早く。


 ドスン!! ドスン!!


 大きな音と振動、草木がつぶれるような音が聞こえるほどに近づいた旅人はさらに慎重に動く。

低く、素早く、静かに、いつでも剣を抜ける形をとりながら、音の方向へと近づいて行く。一番近い、最後の死角になるであろう木のそばまで辿りついた旅人は慎重にその先の様子を確認した。そしてすぐに()()を見つけると、


 おいおい。何なんだあれは!? 俺は一体、何を見てるんだ? あいつは何をしているんだ!?


 畑の作物を盗み、罠を掻い潜り、そして時に持ち去り、見たこともない足跡を残す大きい謎の獣。その正体を突き止めることはできたが、目の前の奇怪な光景にしばし唖然とした。森の中、家一軒分ほどの開けた場所で、


「とえ、ええぇ、とえ、ええぇ! アージャぁ! アアージャアぁ!」


 ドスン! ドスン!!


 とても大きな男が四つん這いになって、ドスン!ドスン! とその()()()地団駄じだんだを踏みながら何かを叫ぶ。ただひたすらにそれを繰り返していた。


 一体何を言っているのか……いや、そもそも喋っているのか? 吠えているのか?


 少しの間、観察をして気づいたことがあった。四つん這いで暴れているが、パンツ一丁の大男は二メートルを頭一つ抜けたであろう大きさ。手と足に小岩や枝を組み合わせて作ったひづめのようなものを結び付けてある。


 あれが謎の獣の足跡の理由か……


 手についた()は、しっかりと結んであり自分では外せないようだった。そう、自分では。それはつまり、仲間がいることをほのめかす。あごが悪いのか、かみ合わせが少しずれているように思える。そのせいでうまく喋れないのか、または言葉を知らないのか。まだ判断はできないがとにかく何かを叫んでいた。


 仲間がいるはずだ。こいつは言葉が通じるのだろうか? 襲ってくるだろうか?


 自分よりも明らかに大きい、それも二メートルを超す大男が四つん這いになって、意味不明の言葉を発しながら、ドスン! ドスン! と暴れている。正直わからなかった。種族は巨人症ジャイアントなのだろう。小人族ドワーフの中から生まれる。知能が低く、成長が止まらず手に負えないため外の世界へと出すしきたりだった。


 純情で従順、素直とも聞く。まぁ、仲間からどういう命令を受けたかによるか


 ジャイアントとはともに戦ったことが数回、手合わせもしたことがあった。初めての相手ではないという心強さと、村人に危害を加えていないという事、相手が武器を所持していないことを踏まえ、とりあえず声をかけることにした。


 旅人は隠れていた木の陰から出ようと立ち上がる。静かな空気の中、パキっと枝の折れる音が響いた。ジャイアントが顔を向け、二人は見つめあう。


「ホエ?」


「あ」


 ついさっきまで、ドスンドスンと足音を、バキバキと枝や草が折れて揺れる音を出していたのに。その時だけは疲れた大男が一休みしたため、運悪く静まり返っていた。時が止まったような時間。視線の合った二人の間に沈黙の時が流れた。

■ 巨人症ジャイアント ドワーフから生まれる

■ 鈴 音が鳴る時は魔女がいる時



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