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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第一章 白銀の魔女
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14 どうしても見たい③ 何が何でも覗きたい!

 剣の勝負をした旅人とエルフの女。二人は今、柔らかい草の上で横になって休んでいる。

魔法の効果で見えなかったフードの中の美しい顔が今ははっきりと見えていた。

額から上はほのかに金色を帯びているように輝き、目から鼻の間は柔らかく赤に染まっている。そしてまた鼻からしたは彼女の陶器のような肌の色に戻る。


 彼女は自分の手を枕に横向きにで、スヤスヤと寝ている。旅人はわずかな間だけ眠り落ちてしまったが、今は彼女の美しい寝顔を見つめていた。


 なんて綺麗な顔なんだろう……。鼻筋、唇、顎、ほっぺたなんて横になってるせいで、なんて柔らかそうな。まるで子供みたいだな。


 女性の顔を見てこんなに純粋に幸せを感じるなんて一体なんなんだと驚きながら、見ないのは勿体ない。目を開けてほしいけど、今は自分だけの楽しみを味わいたいとしばし楽しむ。


 そういえば、フードを取る作戦は成功か? いや――。


 彼女を見つめながら悩んでいると「ん」っという小さな声と共に彼女の目がゆっくりと開いた。


 なんて綺麗な眼なんだろうか。吸い込まれそうだ。なのに、瞳の奥からは輝きが溢れでてくるようだ。


 旅人は満天の星空を正面に、仰向けで寝た時に同じような感覚になったのを思い出した。そらへと吸い込まれそうな感覚と同時に、輝く星々がこちらへと向かってくる、あの美しさ。


 二人はしばらく見つめあっていた。何かに気づいたかの様に、ふと彼女の眼が見開く。そして彼女の顔が段々と赤くなっていく。その様子に旅人は一層のかわいらしさを感じた。そんな彼女の目を見つめながら笑顔で、


「やぁ。目が覚めたかい?」


 彼女は慌てて、フードで顔を隠した。


「ごめんなさい。私、ウトウトしちゃって。寝ちゃったのね」


「いや、構わないよ。結構、動いてたからね」


 フードで顔を隠した彼女が、反対向きに寝がえり、


「もしかして、私のことずっと見てた? どのくらい――」


「あはは。どうだろうね? 見惚れてたかもしれないね」


 彼女は上体を起こし「んんっ」っと、背伸びをする。左手を地面について体を支え、膝を折り座る彼女は恥ずかしそうに言う。


「その……ありがとう」


「よっ――、ん?」


 何かお礼を言われるようなこと、しただろうか? 


 旅人も掛け声と共に上体を起こし、彼女の横で胡坐をかいて座る。優しく吹く風が、周りの草を、周囲の木の葉を奏でる。旅人は彼女のお礼に対して答えを探し、考えてながら背伸びし、腕を伸ばす。


「えと……ちょっと、安心しちゃったっていうか。貴方、悪い人に見えないし。寝てる間に、私に何もしてないわよね? ね? だから、ありがとう」


 旅人はそれを聞いて、肩の力を抜きながら小さく息を吐いた。


「いやぁ、信用してくれるのはありがたいな。けど、すごい悪いことをしようとしてたら、そいつに邪魔されてただけかもしれないだろ?」


 すぐ横にいる、熊とサルを指さして言うと、彼女はクスっと笑った。


「それに俺は、まずは君にフードを脱いでもらいたいわけで。そのあと、君の綺麗な顔を見つめながらいっぱい話して、いろんなところへ行って、一緒に過ごしたいなって思ってるから」


「ふぅん。でもさっき、見てたわよね?」


「いやー、見てないよ。見てないっていうか、全然見えてない。見ようと思ってガンガン見つめてただけで――」


 今はまた、見えづらくなったフードで、こちらを振り返り、


「もう――。うそ。でも、いいわ。ありがとう」


「きっとフードを取る頃には俺の魅力にメロメロで、逆に見つめてほしいって怒るさ。あはは」


「もう、好きになってた場合はどうなるの?」


「それは――」


 真っすぐに放つ彼女の言葉が旅人の胸をまた熱くする。深い意味はないのかもしれない。冗談交じりで言った本心にただ質問をしてきただけかもしれない。それでも彼女の一言は時折、男の頭の中を花畑でいっぱいにする。


 二人は隣り合って座っている。旅人は座ったまま横にある木剣を手に取り、体の前に構えると彼女に今の気持ちを紛らわすように説明を始めた。


「いやぁ、本当はさ! 君のフードを取るのが目標だったんだよ。でも、まさかあんなに当たらないとは思わなかったよ」


 ふふっと笑いながら彼女が返す


「あのね。途中から、貴方の狙いが全部フードだってわかったの。ああ、この人、どさくさに紛れてフードをとる気なのかしら、ってね! だから私も本気だしちゃった。避けるのはすーっごく得意なの」


「あちゃ。まぁ、あれだけ見事に見切られたんだ、バレるかぁ」


 恥ずかしそうに剣を置くと、腕を組み彼女に聞く。


「あれさ、ほんとに魔法はつかってないのかな? これでも結構強い方なんだよ。それに、熟練の戦士だってあそこまできれいに避けれるかなぁ。俺の剣って? もしかして、俺って実は弱い!?」


「あはは。そんなことないわよ。強さは――、よくわからないけど、すごいのは確かね。うん。っていうことは、強いのかな?」


 彼女が強いという定義について考えている。旅人が聞く。


「俺の剣、全部見えてた? 顔を一切逸らしてないようにみえたんだけど?」


「そうね。よく見てたわ。早く避けすぎると、追いかけてきそうだったから全部ギリギリで避けたの」


「え? 『早く避けすぎると』か――」


 早く避けず、ぎりぎりで避けるってことは、やっぱり完全に見切られてたのかぁ。内心ちょっと傷つくな。


 そんな旅人の様子を見て、彼女が説明をする。


「うーん。あれはね、私だけの能力ちから。力が強い人、速い人、頭の回転が速い人。んー、呼吸は自然とするし、無意識に力を入れてる時ってあるでしょ? なんていうか、そんな感じ」


 彼女は自分の指先を唇に当てながら、説明を考えていた。そして、旅人は彼女の言ってることがよくわからなかった。


「どんなに速くても私に届くことはないの。紙を半分に折るでしょ? そしてまた半分。ずっと、ずーーっと半分に折り続けてもね、その紙は無くならないの。わかる?」


 あ、あきらめた。


「ははは。まぁ、おかげで君ともう十日ほど一緒に居られるんだ。負けたのにこんなに嬉しいことは初めてだよ」


「やった。私、貴方のこともっと知りたいわ。それにもっと外のこと、知らないこと教えてほしい。だって、聞いてた話や、本に書いてあることとは違うんだもん」


「あのさ――、俺と一緒に外の世界を見に行かないか?」


 旅人がそう言うと、彼女は少しの間、下を向いて黙る。そしてすぐに、旅人の手を握り、


「私、行きたい。行きたいの。外の世界。でも――」


「俺はもっと君と一緒に居たい。心からそう思ってる。君さえよければ一緒に旅をして、嫌になったらまたここへ、きちんと連れ帰るよ」


 彼女がどれくらいの時間、外の世界を知らずに過ごしたのかは知らない。だが、行きたがっているのもわかる。お互い惹かれているのもわかる。


 でも今は、返事を聞くのが怖かった。


 旅人は立ち上がり、前に少し歩くと、手を腰にあて声を張る。


「よし! 汗をかいたし、俺も水浴びをするかな!」


「キッ!」


「おっと、お前は覗くなよ。裏切者!」


「……」


 上半身だけ振り返り、サルを指さす。


「いや、なんか言えよ。じゃぁ、これ」


「キッ」


 サルとそういうやりとりをしながら、旅人は服を脱ぐ。彼女サルの上に投げ被せると、そのまま歩いて泉へと入っていく。


「ひゃっ。つべて」


 そんな旅人の様子をみていた彼女は、クスっと笑った。泉に入っていき、膝まで水に浸かったあたりで体を動かす旅人は考えている。


 フードの中の顔は堪能できた。まぁ、できればもっと見ていたい。だが、しかし! やはり、考えた作戦はやり遂げねば。実行しなければ!


 顔が見れたことで目標は達成したが、ことごとく失敗する作戦。その結果には、もどかしさを感じていた。そして旅人の目的は、ただ作戦を成功させるという方向へとシフトしていた。ジャブジャブと泉の中へ入っていく旅人。


 初めて旅人がここへ運ばれてきた日。服を脱がせた時にそのたくましさ、鍛え上げられた体、傷を見た。その後も治療で何度か見た。自分の周りいるエルフと違って体には経験と人生の歴史が刻まれていた。綺麗な美しさとはまた違う美しさ。そんな彼の背中にとても惹かれるものがあった。彼女は今、最初に彼の体を見た時とは違う眼差しで強くその様子を見つめていた。


「ははは。気持ちぃぃなぁ」


「ねぇ! 冷たくないかしら? ()()()()()()には丁度良くても、人間にはどうかしら?」


 もう、エルフって断言しちゃったよ。しかし、なんて冷たいんだ! 動かなければ!!


「え? 今、なんて?! 聞こえないなぁ! 人間にも気持ちいいぞぉ!」


 こんなに日の当たっている泉なのに。冬でもない季節なのに。冷たい水のせいで、旅人の声は若干震えていた。彼女は、そんな旅人の様子を楽しそうに見ながら、


「そうね! 気持ちいいでしょ? あんまり長くいると体ひえちゃうわよ」


「あはは――」


 もちろん、彼女がここで一緒に入ってくるなんていう幻想は妄想で済ませてある。ここからが本番だ。っていうか、本当に冷たいな。なんだこれ? 毎朝、こんなのに入ってるのか? エルフってどうなってるんだ?


 旅人は大きな泳ぎをすることで、水の冷たさを和らげようとしてた。泉の中央ほどまで来た。水はとても綺麗で、底が見える程に透き通っている。


 ここなら、いいか? 見える限り、そんなに深くないよな?


 旅人が泉で泳いだり浮いたりしている中、彼女は座ったまま横にいる二匹に話しかけていた。


「ねぇ? どう思う――? そうよね……私、次第よね」


 突然、旅人の大きな声が響き渡る。


「ああっ! あああぁっ! なんてことだ、足がつった!」


 突然ジャブジャブと激しく水を叩く音が聞こえたかと思うと、旅人がそう叫んでいる。


「ぷはっ。あ、足がっ! 足がつって! って。たすけ――」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「きっとフードを取る頃には俺の魅力にメロメロで、逆に見つめてほしいって怒るさ。あはは」 「もう、好きになってた場合はどうなるの?」 え?それって… ってどっちもそれ以上踏み込まないの…
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