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五話

 

「はいどうも、皆さんこんにちは。居酒屋『しゃぼん』で上司を刺した犯人こと、南川要治です。今日は、僕の犯行に至った経緯を皆さんにお伝えしようと思い、動画撮影しています――あ、彼はスペシャルゲストの修一くん、その居酒屋の店員さんです」


 南川は、そのまま経緯を語り始めた。

 リンチされたこと、上司や周りの人たちが説教したこと、自分のせいにされたこと、仕方がないから受け入れろという自己責任理論の愚かさ、リンチ事件の犯人についての情報が欲しいこと。


 動画を投稿すれば、閲覧者数が増えることは修一にも想像ができた。

 昨日までの自分がそうであったように、人々は他人の不幸が好きなのだ。


 机に向かって座り、紅茶の入ったティーカップを置かれた状態で一緒に撮影される修一は、複雑な気持ちになっていた。


 南川が遭遇した出来事は不幸だと思ったし、彼は自分に対して優しくしてくれる。

 しかし、こんな動画を見た世間の人たちは、自分のことを共犯者だと思わないだろうか。


 不安になってくるが、今は従う以外の選択肢はない。

 両膝はパンパンに腫れ上がり、歩くことができないからだ。


「どうして他人のことを尊重できないのでしょうか。自分たちはそんな失敗をしないという驕り(おごり)があるのでしょうか。事件や事故は他人事ではありません。今回の事件は、そういう分からない人たちに分からせるための犯行です。ちなみに僕には、殺意なんてありません。最初から殺すつもりなんてありません……。もし殺意があれば、被害者の上司も、同僚も、目撃者である修一くんも、苦しむことなく死んでいることでしょう。そうですよね? 修一くん」

「……はい」

 自分が被害者という立場であることを明確に提示されたことで安心した反面、恐怖も同時に襲いかかってきた。


「皆さん他人に対して、簡単に言葉のナイフを突きつけますよね。それがどんな結果を招くかも考えずに、実に簡単に、相手を傷つける言葉を口にします。もっと皆さん、他人に優しくしませんか? 僕が今回傷つけてしまった人たちは、この事件を境に他人に対して優しくなれるはずです。辛い気持ちの人に対して、親身になって話ができるようになるはずです。間違っても、お前が悪い自己責任だっ! という暴言を口に出すことはしないでしょう。そういう優しい世界を作るために僕なりに考えた答えが、今回の事件です」


 修一は動画撮影での演説を見て、南川に正義があるような錯覚を起こしてしまう。

 犯罪者と呼ばれる人たちにも世界は平等に存在している、と強く認識させられた。

 そして正義というのは多数決でも自己責任でもないのだとも思い知らされた。

 今演説しているのは、自分の正義のために闘っている一人の男だった。


 南川は撮影を終えると修一と向かい合って座り、ノートパソコンで作業を始めた。

 先ほど撮影した動画を見やすく編集しているようで、パソコンからは南川の声が繰り返し聞こえてくる。


 どれほどの時間を過ごしたのかは分からないが、修一は日差しの照りつける冷房の効いた室内で再びうとうとしてしまった。


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