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三話

 ガキィンッ――

 不快な金属音と手足の引っ掛かりで修一は目を覚ました。

 ひんやりとした感触が、まどろみから現実へと引き戻す。


「――あ、おはようございます」

 三十センチほどのカーテンの隙間から眩しい光が差し込む部屋。

 見覚えのない部屋の真ん中に修一は寝ていて、カーテンで遮られた日陰に男が座っていた。

 修一が目覚めたことに気がつくと、男は立ち上がって近づいてくる。


 自分が寝ていた場所は、ベッドではない。

 手術台のようなステンレス製の台だった。

 理科の実験室に置いてあるようなものだが、自分の体温で温かさを感じる。


 修一は、金属製の拘束具で手足を縛り付けられた状態で、大の字に寝かされていた。

 窓から入ってくる眩しい光は修一の顔を照らして、現実を突きつけているようだった。


「状況分かりますか? 分かりませんよね、説明しますね――」

 男はカチャカチャと音を鳴らして、コーヒーの匂いを部屋中に充満させた。


「昨日、僕たちすれ違いましたよね。顔見られちゃったなって思って気になってたんですよ。前から田中課長のこと刺してやろうと思ってたんですけどね、昨日刺すことになるとは……僕も想定外でした」

 頭を掻きながらコーヒーを啜りながら笑ってみせる。

 よく見ると昨夜の事件の後、すれ違った男だった。


「――で、なんだっけ? あぁ、そうそう。顔を見られちゃったので公園で手を洗ってから、もう一度あなたが働いてるお店に再入店したんです。あなたのことを監視するつもりだったんですが……田中課長の家族に警護がついてしまって、目的が果たせなくなったことを知りました。どうしてだか覚えてらっしゃいますよね?」

 男は偽りの笑みを顔に浮かべたまま、修一に近づく。

 手にはフライパンが握られていた。


「おかげで田中課長の家族が狙えず、計画は失敗です。あなたには償いをしてもらおうと思いまして……勝手ではありますが、僕が用意した部屋に運ばせていただきました。割と大声を出しても平気ですから安心して騒いでください。随分とぐっすり眠られていたので、途中で起きることもなく拍子抜けでしたよ。まぁ、起きたら痛い目に遭うだけだったので、あなたとしてはラッキーでしたね」


「こ、殺すつもり……?」

「まさか。流石に殺すのは、()()()()でしょう? だって課長も生きてますし……」

 男は息を吸い込んでフライパンを振りかざすと角の部分を修一の膝に叩きつけた。

 左膝に強い衝撃と痛みが広がっていく。


「――あぁっ! ごめんなさいっ……ごめんなさい……」

 突然の出来事と痛みによって混乱しながらも、口から出たのは謝罪の言葉だった。

 男は満足そうに笑顔を作った。


「あなた、()()()()()みたいですね――あ、僕二ヶ月前、リンチ事件に遭ったんですよ。田中課長は、僕にも問題があったってよく説教したんですけど、あなたはどう思いますか? 今、実際に理不尽にいたぶられる被害者になってみて()()()()って諦められますか?」


 先ほどの痛みは引くどころか、熱を持って腫れているように感じる。

 黙っていると男は再びフライパンを振りかざして、今度は右膝に強く打ち付けた。


「――あぁっ、できませんっ! 諦めることなんてできません、だからもう辞めてくださいっ! 本当に……よく分かりましたから……」

 痛みによって懇願する修一の様子を見て、にっこりと笑うと男はフライパンを置いた。


「そうですよね。いやぁ、分かってもらえて嬉しいです。痛みますか? すみません。では、少し休んでニュースでも見ましょうか」


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