表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

家紋ホラー集

恐怖旅館

作者: 家紋 武範

「知ってっか?恐怖旅館。」


夏休み前に、友人が話しかけて来た。


「はぁ?また恐怖スポットかぁ?」


「なになに?」


寄って来る女子二人…。

いつも集まる4人。また、他から見ればくだらないミステリー話しの始まり。

気の合う友人と言うのはいいもんだ。

去年の大学一年の時の夏休みは恐怖トンネルだったっけ…。

ま、今年の夏休みにちょうどいいと思い行くことにした。


「なんでも昭和の時代に打ち捨てられた旅館があって、怪奇現象がおきるんだと。」


ということ。

夏休みになった。みんなでめいめいテントやらランプやら持合い、待ち合わせ場所の駅に集合した。


「これも持って来た。」


「へー…線香…。」


「うん。お弔いが必要ならしようと思って。」


「なるほどね…。」


電車にゆられて、山の中のA県に入る。

田舎の駅に止まり、さらにバスに揺られて山の奥に。


「よし降りるぞ。」


バスからおりて、泥の混じった舗装された道を歩く。


「ありゃ。お前さんがた、キャンプ地にいくんじゃないのかえ?」


一緒に降りたおばあさんが話しかけて来た。

キャンプ地はバス停を降りた林道を行く。オレたちは山の上を目指していた。


「いえ、こっちの方に。」


「あら~。そっちにはなにもありゃせんぞ?ウチは、こっちの右の山の上だでわしゃこっちにいくけど…。」


「あ~、大丈夫です~。ありがとうございます。おばーちゃん。」


「ま~、クマとはでりゃせんけど…ハチには注意なされよ~?」


気の良いおばあさんと別れ、また歩き出す。

ジージーとアブラゼミの鳴く声がいっそう熱さを感じる。


「この熱さで…テントで寝るの?女の子もいるのに?」


「まぁまぁ。恐怖で涼しくなるよ~。」


途中、舗装された道が途切れる。

土砂崩れの跡だ。

岩や大木が混じっている。


車で来たらここでアウトだろう。

その土砂崩れの跡の上を踏みしめて歩いてゆく。


この先には人家がないんだろう。

舗装された道にはアスファルトをつきやぶった草が生えていた。


「おいおい…。大丈夫かなぁ。」


ブツブツいいながら枯れ草だらけの道を進む。


ふと、パァッと開け旅館が見えて来た。

人の気配もある。


駐車場に車はないが、キレイに掃き掃除されている…。


「あれ?おかしいなぁ?」


「ここなの?」


「ああ…。ネットでプリントしたマップには…。ホラ。な?ここだろ?」


みんなで見てみる。たしかにここだ。


古い作りだ。昭和というか…大正というか…。

そんな空気をかもしだしてる。

空調とかも…当然整備されてないんだろ…。


と思い、入ってみる。


「ごめんください…。」


「あ、はーーーい。」


古い着物を着た、女将さんがでてきた。


「あら!お客さんなんて珍しい…。ささ、どうぞ…お上がり下さい。」


みんなで、靴を脱いで上がる。

ギィギィと黒い床が音をならす。


「ゴメンナサイ。古くってねぇ…。」


「いいえ、そんな!」


案内された客室は、古くさくて、カビの匂いがした。

女将さんは、窓をあけて、天井に設置されている扇風機を回した。


「お風呂は、露天風呂になってます。1階にあります。お食事は…何時??18時から。こちらも1階の宴会場で…。」


そして、世間話。


「最近はねぇ…。変なうわさでお客さんがこないんですよ…。」


なるほど…。そうか…。ネットで公表されてればなぁ…。

意外と恐怖スポットっていっても、地元の人は無頓着なところの多いって聞くしなぁ…。


「そうですよね。地元に帰ったら宣伝しますよ!」


「あなたたちは、何で…この旅館をお知りになったの?」


「ああ…ネットで…。」


「ネット…。」


女将さんは少し変な顔をした。

そして、しばらく話して、出て行った。


オレたちは浴衣に着替えて露天風呂に。

最高だ。なにが恐怖の旅館だ。

この風光明媚な景色と言ったら…。


「いいとこじゃないか。」


「ホントだよなぁ…。」


そして夕食。

海のもの、山のもののごちそうが並ぶ。


「すごいご馳走ですね!」


女将さんが


「ええ、山の下のお店から急遽運んでもらいましたの!」


「へぇぇ~~。」


山海の珍味に舌鼓…。


夜になった。動物達の鳴き声が田舎だと言うことを知らせる。

フクロウのホウホウという声が近くから聞こえる。


「ちょっぴり怖いね。街灯も見えないし。」


「そうだなぁ…。灯りがついてるのはここだけだなぁ…。」


「あたし…ちょっとトイレ。」


おもむろに立ち上がりトイレに向かう。

古い作りなので、部屋の中にトイレがない。

廊下にでて、階段を下り、1階にある共同のトイレだけなのだ。


1人でていく。


なにも話さないと、夜の静けさが少し怖い。


トトトトトと静かに走る音。

トイレに行った女の子が戻って来て、ドアを静かにしめた。


「ハァハァハァ。」


「ど、どした?」


手招きしてみんなを集める。


「なに?」



「ここ…普通じゃない。おかしいって。」



「な、なんで??」



ゴクリ。



みんな、息を飲んだ。



























「トイレが…水洗じゃない!」













みんなで大爆笑!


「そんな、古いんだから当たり前だろ~??」


「だって、だってさぁ~~。初めて見たんだもん…説明もなかったし…。」


「プフ…プフフ…。そんなんでビックリしたのか~。」


「いいよぉ…。明日の駅までガマンする…。」


「オイオイ、そんなに…大丈夫か?」


そんな感じで夜は更けて行った。

オレたちは普通にトイレを利用した。


朝。目が覚めるとそこは野っ原…。


というわけでもなく、布団の上。


二階から一階におりて、朝食をとる。

これもまた珍味だった。


女将さんが


「それじゃぁ…道中お気をつけて…。」


「あ、はーい。悪いウワサ…消えるといいですねぇ。」


「ホントですねぇ。」


旅館を後にした。

昨日来た道を帰る。


ガサガサと草をかき分けて。


「しっかし…やっぱ、ネットだねぇ…。」


「ホントだな。ネットの害を見たわ。」


「でもさぁ。オレが見たサイトでは暗い旅館の画像が上がってたんだぞ?」


「そーなの?信用できない。」


「いや、ホント。あの床板だってボロボロだったし…。蜘蛛の巣だらけの屋敷だったんだけどなぁ…。」


「へぇ。ネットに踊らせられ君。」


「なんだよぉ…もう…。」


「でも…料理もおいしかったねぇ!」


「そうだよなぁ。山の下から持って来てもらったって言ってたなぁ。」


オレたちは立ちすくんだ。






















「…どうやって?」















オレたちの足跡だけがついた、

この一本道にかかる土砂崩れの跡を見ながらつぶやいた。






【おしまい】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 土砂崩れがあったのにどうやって山の下から料理を運んできたのか、別ルートがあったのかとも思いましたが一本道。 最後のどうやって?のところでゾクゾクっとしました。 幽霊が経営する旅館だったの…
[良い点] セリフや文の間が適度に開けられ読みやすい。 目が悪い私には大変ありがたかったです。 [気になる点] 題名からか? ジャンルがホラーになっていますが、タイムパラドックスなSFでもよか…
[良い点]  深夜。  女将の包丁を研ぐ音が聞こえてくるのかと思いました。  謎の閉じ方に想像が広がります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ