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英雄旅記  作者: 斬緋藍染
短章:アリカ視点
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門前

「止まれ」

 キュヴェイル王城に着いたあたし達は門前で衛兵に止められていた。

「何者だ、貴様らは」

 問われて事実を言っても…。

「【不死英雄(エインヘリャル)】…って言っても信じないだろ?」

「エインヘリャル…田舎モンか貴様らは」

「田舎モンじゃ悪ぃか」

「いや、俺の実家も田舎だから田舎に対して偏見はないぞ。逆にウェルカムだ」

 思ったよりいい感じじゃないか?今なら頑張れば行けるぞ。

「じゃ、通してくれ。俺は『勇者』に用があるんだ」

「残念ながら、こっちも仕事なんでな。通してやりたいが、そうしてやることも出来ないんだ」

「なら、どうすればいいんだ」

「【不死英雄】を自称するなら、ここで俺を倒してみろ。そうしたら周りの衛兵も退くしかなくなる」

 なるほど。公開処刑をすれば、自分の実力を知らしめることも出来るし、見知らぬ人物を城の中に入れなくて済む。一石二鳥ってわけか。

「二人でかかってきても構わないぞ?」

 完全になめられてるな…。

「ガイン、どうする?二人で潰すか、タイマンか。お前の性格ならタイマンでじっくりやりたいとか言い出しそうだけど」

「二人でやってもいいんだが、まあこいつらは二人だったから負けたーとかなんとか言い出しそうだから、俺が正々堂々とやるよ。男同士の戦いだし。お前は俺に強化(バフ)かけてくれればそれでいい」

「分かった。『術式展開』」

 あたしの手首の周りに魔法陣が展開される。

「確かてんびん座だったな…。『てんびん座β星:Zuben(ズベン・) es(エス・) chamali(カマリ)よ。我が盟友、ガイン=ヴァルアに力を与えよ───』」

 あたしの術式による魔法だから、星座と対象者の選択はあたしがやる。

「『そは、腕力の増強、脚力の増強、そして思考能力の強化。我が盟友、アリカ=リュゲルを介し、我に力を与えよ』」

 これはガインによる詠唱。自分の欲しい能力を自ら選択し、それを星々に願うのだ。乙女チックだが、これが『大魔導師(あたし)』が得意な能力。

 そうこうしているうちに、星座(ズベン・エス・カマリ)に願いが届いたのか、宙からあたしに力のもととなる粒子光線が降ってきた。

「『強化(バフ)魔法』」

 ここからも詠唱だ。やらなくてもいいのだが、折角だから衛兵どもに見せつけてやろう。

「ガイン!」

 叫び、彼に向け魔法を射出する。

「…よし、これでこいつをぶっ潰せる。ありがとなアリカ。そして、試合開始だ衛兵さん」

「長かったな…。待ちくたびれたぜ」

「そりゃ悪かったな。これがあれば、あんたのその厚い装甲も破れるんじゃないかと思ってな。…ああ、これだけじゃ心許ないか。『(パワー)増強(ブースト)MMM(ドライタウゼント)』」

 さらに強化する。

「それ、大丈夫なのか?あまりやり過ぎると肉体に影響が出るんじゃないか…?」

「ああ、案ずるなアリカ。俺らの身体はそうヤワじゃない。短時間ならMMM(ドライタウゼント)使ってもきっと大丈夫だ」

「なぁ、お前らいつまでもイチャついてんなよー。さっさとやろうぜー。お前に先制やるからよー」

「そうか、後悔すんなよ?」

 それが目的だったか。あたしと話していれば間に入ってくるのは分かってた。そして衛兵の彼はさっさと戦いをやりたいといった感じだ。そういった場合、「先制をやる」と、大体の人は言う。ゆえにそれを狙ってガインは長引かせていたという事だ。

「フンッ!」

 衛兵にゆっくりと近づき、腹を殴る。

「ッ…!」

 鋼鉄の装甲はひしゃげ、役目を果たさずに使い物にならなくなった。

 (パワー)増強(ブースト)(アインス)でも、地面を穿つほどの力を持つ。MMM(ドライタウゼント)ともなれば、人は軽く殴られただけで消失する。生き残ったとしても再起不能の植物状態となるのは必至だ。

 衛兵の彼もその一撃で内臓のほとんどが潰れたことだろう。血が口、鼻、目などから流れ出ている。

「後悔したか?ガキだからと油断したか?」

「……!」

「おい、なんとか言えよ。俺ァ気が長いわけじゃないんだよ」

「…………」

 口をパクパクして、なにか話そうとしているが声にならない。

「チッ。死ねよ、お前。アリカ、最高の強化(バフ)を頼む。今なら太陽が昇り始めているから、それから力を得るんだ」

「分か…った」

 やり過ぎだと思う。彼は既に反撃不能の状態だ。あたし達の敵では無いのだ。そこまでやる必要がわからない。だが、ガインは自分が正しいと思った行動しかやらない人間だ。なにか意図があるのだろう。

「『大いなる我らが父、太陽よ。爾の燦たる力を我に与えよ』」

 あたしが詠唱すると、辺りが灼熱の紅い炎に包まれた。

「これは…!」

『貴様、我が力を欲すると言うか』

 炎の中から声が聞こえてきた。男の声とも女の声ともつかない、人間的ではない声だ。

『傲慢だな。一人の人間にとどめを刺すためだけに我が力を使おうとするとは…。人間も腐ったのぅ』

「お願いだ。彼に力を与えてくれないか」

『与えても良いが、その辺の木々や動物たち、そして人間の造ったモノはすべて燃え去るぞ?ああ、もちろん人間もだ』

「それは…」

『ダメだと言うなら欲するな。我は貴様らの世を見てきたが、人間どもは傲慢すぎる。世のことを知らぬのに知った気になっている。我にも知らぬ事はあると言うのに、だ』

 んん?話が逸れてきたぞ?

『我も知識を取り込むのに忙しいのだ。全面戦争、確かこの世界にはアレがいたな。【神類(じんるい)】が』

「【神類】…?」

『なんだ、知らぬのか。自分の事だというのに。ま、そっちの彼はよく知っているみたいだから、彼に聞くと良い。我は帰る』

 まるで嵐のようなものだったな。恐らく彼(?)は太陽。わざわざあたし達のために降りてきてくださったのか。

「まあ、いいや。太陽の力はその時になったら使おう」

 ガインは這いつくばってる衛兵の顔を脚で踏み、

「『重力(グラビティ)増加(インクリーズ)C(フンダート)』」

 彼の周りの重力を100倍にし、

「『(パワー)増強(ブースト)MMM(ドライタウゼント)×2』」

 さらに3000を2倍かけ、

「よいしょ」

 潰した。

 血が吹き出て、脳や眼球などが飛び出ている。

 その周囲は重力やガインの力の影響で円形に凹んでいた。

「ひ、ひぃぃぃ」

 他の衛兵が狼狽える。

「おい、通してくれるか?」

「い、いぃぃや、やゃ。こ、ここ、国王、へ、陛下も殺されてしまうか、かかも知、れないから、とと通すわけにには…」

「お前、震えすぎじゃないか?こういう訓練を受けてきてんだろ?」

「こ、こんなグ、グロい死に方なんて…」

 ああ、そういうのでダメなのか。あたしは、いやあたし達は過去の能力者たちの戦場での記憶が頭にあるために全然平気なのだ。

「なら、国王陛下様に許可を取ってきてくれねぇか。こっちもこっちで時間がないんだ」

「その必要はございません」

 門から、女性が出てきた。

「ガイン様にアリカ様ですね?国王陛下から入城許可が出ています。どうぞ、お入り下さい」

「あの、あなたは…?」

「わたくしはキュヴェイル国王、早芽神或の秘書官、テロル・エスターライヒと申します。以後お見知りおきを。ここの案内はわたくしが行います」

「あんた、衛兵が死んでんだぞ。なんとも思わないのか」

「殺したのはあなたでしょうに。それに、わたくしに感情というモノは無いのです。それについて知りたいですか」

 感情が…無い…?そんなバカな…。

「興味深い話だな。聞かせていただきたい」

 ガインも興味をもったらしい。

「そうですか。では応接間に着きましたら雑談としてお話いたしましょう」

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