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英雄旅記  作者: 斬緋藍染
短章:アリカ視点
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能力解放

 ガインとあたしはキュヴェイル王国を目指し、歩を進めていた。

「ガイ〜ン、まだ着かないの〜?」

 かく言うあたしは歩くのに飽きてきていたが…。

 体力的には何ら問題は無い(不死英雄(エインヘリャル)になったから、無尽蔵の体力があるためだ)が、流石に一週間も歩き続けていれば飽きが訪れるのは必至だ。

「あと少しだから頑張れよ。ッタク、飽きが来ないようにするような魔法はないのか…?」

「なんか言った〜?」

(なん)も言ってねぇ!地獄耳かよ」

 ああ…早く着かないかなぁ…。こんな会話を何回続けただろうか…。

 そんなことを思っていると、突然、目の前が真っ白になり、轟音と地響きが起こった。

「な、なんだ!?」

「爆発だ!方角としてはキュヴェイルの方!今の俺らなら走れば五秒で着く!急ぐぞ」

 ガインは言い切る前に走り出していた。かなりのスピードだ。

 轟音とどろき、土は舞い、周りの木々は薙ぎ倒される。ニンゲン(・・・・)の走りではない。

「あたしも…!」

 あたしも同じように駆け出した。


 五秒ほど走った後、王都の入口の前で佇むガインを見つけた。

「ガイン、なんで入らないの?」

「『勇者』の力を見てみようと思ってね。あそこに巨大な土人形のようなモノがあるだろ?」

 見ると、王城の前で暴れている巨人のようなものがいた。

「あれ、おそらく【陰の(イビル・)不死英雄(エインヘリャル)】のモノだ。で、その前で光放って飛んでんのが、おそらく『勇者』だ。お手並み拝見ってことだよ、ここにいるのは」

 ここで斃れるようでは仲間にする意味が無いってことか。

「上から目線だな」

 ガインは無言で微笑んだ。

 しばらく見ていると、光の粒子が集まっていた。巨人の口の部分に。

「なあ、あれマズイんじゃないか…?」

「ああ。マズイな」

 ガインは淡々と言う。

「なにか手助けを…」

「じゃ、術式展開しろ。魔法はヤツと同じく光の光線で」

「分かった。『術式展開』!」

 そう叫ぶと、あたしの目の前に白い魔法陣が展開された。

「『光魔法』」

 魔法陣が黄色く変化。

「今、真上にてんびん座があるらしい。その星の力を拝借しよう」

「分かった。『てんびん座α星:Zuben(ズベン)el(・エル)genubi(・ゲヌビ)よ。我に力を与えたまえ──』」

 天から光が降臨し、あたしに直撃した。

「うぅ…ッ」

「チャージを始めろ!」

「や、了解(ヤボール)っ。『huge laser(デカイ光線)』」

『チャージ開始』

 どこからともなく、電子音声が聞こえてきて、魔法陣に光の粒子が集中してきた。

『チャージ完了』

「『Fire!!!』」

 巨人に向けてビームが飛んでいく。巨大ゆえに反動もすごいが、その分威力があるから対価交換だと思えば良い。後ろの木々(樹齢およそ100年レベル)が何本か吹き飛んだが…。

「ア…カ!だい…う…か…!」

 光線からは特徴のある変な音が爆音で鳴っていたため、ガインの声が途切れ途切れでしか聞こえなかった。

 おそらく『アリカ!大丈夫か!』だろう。

「大丈夫!自分ではなったものでだいじょばないなんてことは無い!」

「そ…!見ろ!土…うがき…たぞ!」

『そうか!見ろ!土人形が消えたぞ!』

「!良かった…」

『そうですねぇ。王都が守られて本当によかった』

 男の声がした。ガインの声ではない。

『まあ、僕としては非常に残念なのですが』

 声のする方を見ると木の影に、帽子(ハット)を目深にかぶった、顔が青白い男がいた。

「なんだお前は。俺たちに何か用か」

 低く唸るような声でガインは言った。

『そんな怖い声出さないでくださいよ。僕はあなたがたと友好な関係を築きたいと思っているだけです』

「なぜ、一般人のあたし達にそんなことを?」

 ガインが敵と判断しているんだ。きっと敵なんだろう。

『一般人?あなたがたが、あの美しい我が愛友『ギガンテス』を倒したんでしょう?』

「一般人だと言ってるだろうが。あんな巨人、しかもこんな遠くから倒せるはずないだろ」

 そう言うと男は目の色を変え、声を低くし、言った。

『嘘は言わないでほしい。あの方向から攻撃を仕掛けたんだ。逆算したらこの山の、この位置でしかあれは出来ない。それに、君たちからは【不死英雄(エインフェリア)】特有のオーラを感じる。故に君らが攻撃したんだ』

 なるほど。こいつはめんどくさいな。頭の回転が早く、刺激に敏感だ。きっと話しかける前から確信していたのだろう。

「あ?あんた、めんどくせぇな。こっちが(ちげ)ぇっつってんだから違ぇんだよ。そんくらい分かれよ。その調子だとあんた、友達いないだろ」

 ガインのこの言葉が良くなかった。禁忌に触れてしまったようだ。

『友達?友達なんていらない。それがいるからって何になる。あんなのいたってバカが感染す(うつ)るだけだろ』

 自惚れ、コミュ障、ナルシスト。友達嫌いには、様々な因子があるが、この男は特殊だな。きっと、子どもの頃イジメにあっていたとかそんな感じだ。それも、恐らく自分が正しいことを言っているのにバカが殴ってきた、といった感じだろう。地球時代の有名な青いタヌキが出てくる作品にもそういった人物がいた。その名は横暴な人を形容する言葉にもなっていたな。今でも、地球肥大化(アース・ブレイク)の生き残りのじいさんが言っていたりする。

 しかし───

「友達というのは必要だぞ?生きていく上で支えになってくれる。そこから特別な存在になっていくこともあり得るんだ。仲いいヤツは愚痴も聞いてくれるし、いいぞ〜?」

『どう…でもいい!僕はお前らを殺す…!それだけだ!』

「そう、か。なら仕方が無い。ま、俺もダラダラとどうでも良いことについて語っている気は無い。さ、やるならかかってきな」

 ガインは手のひらを天に向け、指を開閉させた。挑発だ。

『言われなくとも!』

 ガインに向け、男が殴りかかった。

「『停止(time lock)』」

 キィィィィ―――

 ガコン!

 この前とは違い、流暢な発音で言った。発音によってエフェクトが変わるのかな。世界はモノクロになり、あたしとガイン以外の総てが止まっていた。

 いや、男の首以上は動いている。

『くっ…。なにを、した…!』

「時間を止めただけだよ。身の危険を感じたんでね」

 どうやら男はもがこうとしているようだが、それは叶わない。首だけが動くのみだ。こっちから見るとヘドバンしているように見える。

「あんた、相手間違えたね。俺はあんたの役職は分からないが、推測するに、『愚者』だろう。相手が誰でも突っ込んでいく、無謀な挑戦者(チャレンジャー)。良く言えば度胸があると言えるが、しかし愚行に過ぎない。勝てない相手には立ち向かうべきではないよ」

 そう言い、ガインは右の拳を振りかざし、殴る姿勢を見せた。

「『(パワー)増強(ブースト)(ツヴァイ)』」

 そう詠唱(いう)と拳の周りに紅い魔法陣(二列ある)が現れ、ガインは容赦なく男を殴った。

『ッ…!』

「『速度(スピード)増強(ブースト)(ドライ)』」

 両手の拳に蒼い魔法陣(今度は三列)が現れ、目にも止まらぬ速さで顔面を殴り始めた。

「ガイン!それはあまりにも酷いじゃないか!やめろよ!」

 それでもやめない。

 じきに、男の顔が青く変色し始めた。

「も、もういいだろ!無抵抗の奴にそんなやるなんてあんまりだ!」

「『再生(restart)』」

 世界が色を取り戻した。と、同時に、

「『(パワー)増強(ブースト)ⅩⅩⅩ(ドライスィヒ)』」

 ガインはそう詠唱し、男の腹を殴り飛ばした。

『グハッ………』

 力が強かったせいか、口から吐瀉物を吐き出し、ギャグ漫画のように飛んでいった。

「敵は、潰せる時に潰しておくべきだ…」

「それが転じて、戦争に発展したら…?」

「ぶっ潰す。俺の力を見たろ?っつっても、お前らでも使える能力だがな」

 声を抑えて感情を押しつぶすように言う。

「そんな…あたしは…。あたしはそんなの認めない!」

「お前が認めなくても!」

 さっきとは反対に、急に大声で怒ったように言った。

「お前が認めなくても、俺はやる。世界の平和とお前との友情。どっちが重要だと思う」

「っ…!」

「俺は世界の平和だと思う。天秤にかけることも難しいだろ」

 そうだけど…。こんなことですれ違いたくはない…。

「なんでついてきたんだ?敵を倒す覚悟も無いのに」

「それは…」

 気づいて…。

「力に目覚めたから、自分を達観しすぎたんだろ」

 違う…。あたしの目的はそんなのじゃない。

「仕方ないことだ。俺もそうだ。だが、俺には人より遥かに優れた力と知恵がある。お前もあったはずだが、数年前からどちらも人並みに落ちている。何かあったか?」

 話を変えるのが上手だな…。

「何も…ない」

「なら良いが、だったら尚更だ。殲滅すべき敵はすぐに殲滅する。これは戦場での暗黙の了解だ。分かったな」

あたしは頷いて答える。

「それだけだ。お前には俺が怒っているように見えただろうが、別にそんなことはない。血に濡れた戦場で生きていくのにそのことを理解していないのを憐れんだだけだよ。だから、その…泣くなよ」

「泣いてない…。さあ、さっさと『勇者』を回収しに行こうよ。もう正午を過ぎているよ」

「ああ、そうだな」

あたし達は光速以上で再び駆け出した。

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