敵襲
「陰の不死英雄…」
『僕はこの国を滅ぼしに来た』
男が喋っている間も爆発は止まない。
「凛々。不死英雄ってことはあなたが対抗できる相手ってことだ。敵の位置を特定し、攻撃を仕掛けるよ」
エスターライヒの口調が変わった。戦闘の準備は出来ているってことか。
『この国には『勇者』がいるそうじゃないか。出てきて、戦いに来い。逃げたって無駄だ。不死英雄同士は互いの場所を感じ取ることが出来る。陰と陽で対極だからといって例外はない』
(なるほど。エスターライヒと話している時から、いつもとは違うモノが入り込んでいる感覚があったけど、そういう事なのか)
『早くしろ。僕は気が長いほうじゃないんだ。先程のように大規模な爆発を起こすぞ』
(脅しの仕方が子どものそれ。まともに教育を受けてこなかったか、或いは本当に子どもか…)
どちらにせよ、国を荒らす者は容赦しない!
「エスターライヒ、特定できた。今から突撃するから援護をお願い。後は、傭兵団の使用を許可する」
「分かった。すぐに出撃の準備を始めるよ。国王には戦闘を始めることだけを伝えておく」
「助かる!」
割れた窓から外に飛び出し、手を前に出す。
「エクスカリバー…応えてくれ!」
そう詠唱と、エクスカリバーが手の中に出現した。
武器は出し入れが自由で、必要が無い時は消すことができるようだ。いや、消すと言うより、身体の中にしまうと言った方か正確か。身体の中にデータのように保管し、出したい時に形成する。その方が、かさばらないし、重量を感じることもないから便利なのだ。
『貴様か、『勇者』は』
そう言ったそれは巨大な黒いロボットのようなものだった。
「そうだ!私が『勇者』だ!」
『そうか。姿を現してくれて嬉しいよ。お礼に、僕に殺される権利を与えよう』
殺人狂かよ…。
「その前に私に殺されないようにするんだな!」
『ほざけ。僕の方が大きな体をしているし、力を持っている。小さな者が何を言う!』
「イカロス…と言ったか。その人形は君の聖遺物か?」
沈黙。
(聖遺物を破壊されたら、その力自体が消失するから迂闊には言えないのか…)
聖遺物が破壊されると、不死英雄の力が未来永劫、誰にも継承されることがなくなり、完全に消え去る。何百年何千年も経てば新たな不死英雄が生まれてくると予測されるが、そこまで生きられる人間はいない。ゆえに、聖遺物に関してのことはあまり口にすることが出来ない。
「そうか…。答えられないのならそれでいい」
『詮索は済んだか?なら、始めるか』
そう言うと、ロボットが私に向けて拳を振るってきた。
「その程度…!」
斬ッ!
右腕を破壊。
『小癪なァ…』
ロボットの口の部分に光の粒子が集まっていく。
『これで消し炭にしてやる!』
(あんなもの食らったら…私どころか、国や城さえも吹き飛んでしまう!)
『Fire!』
そう言うと、ロボットの首が吹っ飛んだ。
『な…何が起こった…!?』
そのままロボットは倒れ込み、消失した。
「助かった…のか?」
どうやら、城の反対側に位置する山の方から光線が飛んできたらしい。
「誰がやったんだ…?」
(この国にこんなことが出来るのはエスターライヒかヴァトラーくらいしかいない…。しかし、エスターライヒは下で傭兵団を指揮しているし、ヴァトラーは地下牢に収容中…。一体誰が…)