不死英雄
みんなを避難させていると、
「アリカ!」
あたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の方向を見ると、ガインがこちらを向いて叫んでいた。
「急がなくていい!ゆっくり、確実に避難させるんだ!」
「なんで!」
よく見ると、ガインの向こう側にある帝国の船が空中で止まっている。
あそこまで近ければ、総攻撃してもおかしくはないはずだが…。
「時間を止めている!」
英雄の力は頼もしいな。時間すらも操ることが出来るのか。
「今ならゆっくりでも大丈夫だ!」
「わかった。ゆっくりでいいんで、安全に避難してください!」
ガインの方を見ると、何やら幻のように、向こうが透けて見える少女と話している。
「なんだあの子…」
「あなたは避難しなくていいのかい?」
一人の老婆が声をかけてきた。
「あたしはまだやりたいことがありますので。あそこにいる彼と協力して帝国の船を撤退、または破壊をしたいと」
「まぁ。そんなことが出来るのかい?若い子はすごいねぇ」
「まぁ、若いからって訳では無いですけどね。さ、今のうちに避難をしてください」
「はいはい。分かりました」
みんなの避難が完了した。ガインを見ると、宙に浮き、手に持っている刀で船に斬りかかっていた。
「空飛んでるし…。刀なんかで斬れるはずが…」
しかし、斬れていた。
「ここからじゃ遠すぎて見えないな…。近づいてみるか」
ガインのところに走り出した。
「セヤッ!」
近くで見ると、船の断面が赤くなっていた。どうやらガインの刀が熱を放ち、その熱で金属を溶解して切断しているようだ。
「ガイン!」
「アリカか。避難は終わったのか?」
「終わったからここにいるんだ」
「そうか。なら、早速だが、加勢してくれるか?」
「加勢って…。お前のさっきの話は本当に本当なんだろうな」
先ほど、帝国軍が砲撃を始めた直後、すなわちアリカが住民の避難をガインに命じられた時…
「仕方が無いから俺が牽制してくる!お前は言った通りにみんなを避難させろ!」
「わかった!」
「ああ、それとあとひとつ…」
その後にガインが言ったことは衝撃的なものだった。
「お前と俺は血が繋がっているみたいだ」
「は?何言ってるんだ?」
「さっき、クソ親父がヒトラーに支配され時、クソ親父がお前に力を渡したんだ。ヴァルア家に代々伝わる『大魔導師』の能力を。そして、その能力はヴァルアの血を宿していないと継承できないんだ」
「それは本当なのか…!?」
「ああ、多分そうだ。そして、その力はあらゆる魔法に通じるから、初心者であるお前でも、高度な一級魔法を使うことが出来る」
「今すぐにでも使えるのか?」
「ああ。『英雄』の俺と『大魔導師』のお前が協力すれば、どんな強大な敵でも対抗できるだろうな」
こんな会話をした。
「違ったら、こんな頼み事はしないさ」
「…そうだな。わかった」
「なら、あの船を爆発してくれないか?」
手をかざし、念じる。
しかし、何も起こらない。
「あれ?」
「多分時間を止めているから、吹き飛んだりしないんだろう」
「あ、ああ。そうか」
あまり気にしていなかったが…。ガインは気になるのだろう。
「さ、あと2隻ある。一つずつといこうか」
「わかった。じゃああたしは左のやつをやる」
ガインは無言で頷き返し、右へと飛んでいった。
「あたしは飛べないのかな」
そう思い、飛ぶイメージを浮かべてみると、一気に30メートルほど飛び上がった。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
止まれ止まれ止まれぇ!
ガクン…。
「痛たたた…」
念じると、急停止した。その衝撃で首の骨が…。
「遊ぶのはもう終わりにしよう…」
あたしは帝国軍の船に向き直り、右手をかざした。
「爆発魔法ッッ!」
こんなこと言わなくても使えるのだが、雰囲気って大事だよね。
例の如く、何も起こらなかった。
「なんか、気が失せるな~…。ガイン!終わったか?」
「ああ!時よ動き出せ…。『再生』」
時間が動き出したと同時に爆発した。
「おお…」
「落ちる前に、奴らが来た方向に向かって突風魔法を使うんだ!」
「わ、わかった。突風魔法」
強烈な風が吹き、船の瓦礫が吹き飛んだ。それらは山を越えていき、しばらくし、見えなくなった。
「あっちの方角には帝国がある。宣戦布告って訳だ」
「おま…!マジで戦争をする気なのか!?」
「そりゃそうだ。負ける気がしねぇ。だって数多くの世界を希望へと導いてきた『英雄』の力を持った俺と、世界を創る指導者である『大魔導師』のお前がいるんだぜ?大丈夫だろ」
「そうは言っても…あっちは国だぞ?2人だけで勝てるわけがない!」
「大丈夫、大丈夫。世界を希望に導く勢力は俺ら2人だけじゃない」
自信満々にそう言ったが…。何を言っている…?
「『勇者』、『賢者』そして『召喚士』。この3人のうち、あと1人でも仲間につけることが出来れば、どんな大国にでも勝てる。と思う」
「昔話に出てくる、5つの【不死英雄】か…。絶対に死ぬことがないから【不死】なんだと思ってたけど、実際は死んでも次代の者に継承されるからなのか…」
ガインが無言で頷く。
「しかし、【不死英雄】は世界中にバラバラにいる。俺らが一緒にいることは奇跡なんだ。だから探すのは困難だけど…」
「だからどうした?せっかくこの力があるんだ。困難でもお前について行くさ。この力が本当だと分かってからはお前の考えを受け止めることが出来た。だから…逆にお願いだ。あたしをお前の近くにいさせてくれ」
「ああ、もちろんだ。俺もお前がいないと目的が達成できない。もちろん、目的のためだけではないがな」
恥ずかしいことを平気で言ってのける度胸は尊敬するよ。
「さ、アリカ、みんなに呼びかけて出てきてもらうんだ。そしたら早速、旅に出るぞ」
「わかった!」
あたし達は村のみんなのところへ行った。