十拳剣(仮)
「さて、これからどうするか…」
「お前…なんであたしの静止を無視した!」
アリカはガインの肩を掴み、言った。
「なんで、か…。自分の夢を叶えたいという渇望が一つ。この世界を変えたいというのが一つだな…」
淡々と言い放った。
「…お前がやる必要は無いだろ!」
「前の世の中の方が活気があって良かった。俺の生まれていない時代の情報が、かつての英雄達の記憶から流れ込んできたんだが、まあ、戦争は遺憾だが、やるべき目標を持って皆が生きていた…。今の時代はこの支配されるという状況に慣れて、怠慢になっている。アリカ、お前はその状況を打破したいと思わないのか?」
英雄になるためのそれがあった山を見つめ、ガインはアリカに聞いた。
「だけど、支配されていても、豊かな生活は送れている。それに、帝国の帝王もこの状況に慣れていると言えるじゃないか」
「なるほど。だが、昨日、かつてあった忌むべき法律、奴隷法の制定が発表されたようだ。対象は俺らのような無力な人民。ここは帝国の支配下にあるから、確実にそうなるだろうな」
「そんな話、聞いてない!」
そうだ。この世界での大体の政府の方針の発表は、そんなに早く一般には公開されない。ガインが知っているはずがないのだ。
「なんで知ってる…」
「英雄になったからかな。それともヒトラーが念力でも飛ばしてその状況を見ていたか…。まあ、どちらにせよ、英雄の力のようだ」
「英雄はそんなことも…!?」
「できるようだな。実際、聞こうと思えば、カムクラの反対側まで聞こえるからな」
カムクラはこの世界での『地球』に相当するもの。地球は外周40万キロメートル程だが、アナクラはそれより少し大きく、45万キロメートル程。
「五感とかが超強化されているようだな」
「……」
「!アリカ、みんなを避難させろ!」
「何を…」
「いいから早く!俺の視線の先の山の向こう側に帝国の船が2隻来てる!」
地響きが起きた。
外を見ると、ガインが見た船が、村の近くにある草原に向け、砲撃を行ったようだ。
「遅かったか!」
「ガイン!どうするんだ!」
「仕方が無いから俺が牽制してくる!お前は言った通りにみんなを避難させろ!」
「わかった!」
「ああ、それとあとひとつ…」
クルーズ船は砲撃を徐々に村の中心部に近づけているようだ。
「さて。どうすればいいかな…。時間でも止まってくれればやりやすいんだけどな」
カチッ、カチッ、カチッ―――
―――ガチン!
「これは…!」
その刹那、世界がモノクロになり、ガイン以外のモノが動きを止めていた。
「これなら、試し打ちもやりやすい」
『卿にそれの使い方を教えてあげよう』
目の前に、小学生くらいの少女の幻影が出てきた。
「なんだ…?」
『私はシャラスティア・アズマラガ。卿の前の前の前の…前くらいに英雄だった者だよ』
「なるほど。先輩がチュートリアルをしてくれると」
『まあ、そのような認識で構わないよ。今はね。まずは、『停止』をしたね。時間関係でいうと、『停止』『減速』『加速』の三種類がある。『停止』は、卿以外のモノの活動を一時停止するもの。卿が指定したモノの時間は動かすことが出来る。試しに村の人たちを動けるようにしてごらんよ』
村のみんなの名前をすべて覚えている訳では無いが、みんなが避難している『像』がある方を見て、動けと念じると、みんなが動き出した。
「急いで!死にたくなければ!」
アリカがみんなにそう呼びかけているのが聴こえた。
「アリカ!急がなくていい!ゆっくり、確実に避難させるんだ!」
「なんで!ってあれ?攻撃が止んでる?」
「いま、時間を止めている!今ならゆっくりでも大丈夫だ!」
「そ、そうか…。ゆっくりでいいんで、みんな安全に避難してください!」
『そうだ。それでいいよ。残る二つの説明もした方がいいかな』
会話が一段落したところでシャラスティアが話しかけてきた。
「時間はあるんだろ?なら頼む」
『じゃあ、次は『減速』について。名前の通り、時の流れを遅くする能力なんだけど、その時間の割合を変えられるの。たとえば、時間を2分の1秒にするだったり、4億分の3時間にするだったり幅は無限大にある。これは『加速』にも同じことが言える。2倍にしたり、5京倍にしたり出来る。この『停止』『減速』『加速』の三つの能力は、物体そのものだけに掛けることも出来るの。たとえば、あの船だけの時間を止めて、他のものを動かすって言うのとか。さっきの逆だね』
「ちょうど避難も終わったようだし、試してみるか」
体を船に向ける。
「ハアアアアァァァ!!!」
ガインが黒い円筒状のものに力を込めると、ガインを中心に風が巻き起こった。
しばらくすると、筒から刃が出てきた。
「これは…」
『それが君のベースとなる武器だよ。伸縮自在で、刃に入ってる溝で湾曲することが可能の日本刀みたいなもののようだね。名前決めときなよ。名剣には名前があるものだしね』
「じゃあ…」
頭をフル回転させ、名前を考える。
「じゃあ、十拳剣で」
『うわ、ネーミングセンスどうした…。っていうかその名前じゃ拳10個分しか長さがないことになるぞ?』
「…いいんだよ。何かいいの思いついたらまた変えるから!」
そう言い、ガインは十拳剣を船に突きつけ、
「さあ、行くぞ!」
そう言い放った。