呪い
「呪いとは、我々──【陰陽・不死英雄】の両方──が聖遺物と契約した時にかかるものです」
モードレッドが渓谷の淵に座り、口を開いた。
「座ってください。スリルがあっていいですよ」
「いや、私は…」
興味より恐怖の方が勝ってしまう…。
「そうですか。では、話を進めます。彼には神話の人物の『イカロス』の呪いがかかっています。ああ、私たちはその呪いに因み、コードネームで呼んでいるんですよ。私たちは本来の名前が自分自身でも分かりませんからね」
「それってどういう…」
「いえ、なんでもありません。気になるなら後で仰ってください。それで神話の『イカロス』は父親の『ダイダロス』の言いつけを破り、死んでしまうという結末を迎えるのは知っていますね?」
「ええ、なんとなくは」
「その呪いが私たちの仲間のイカロスにかかっているんですよ。違うところは『ダイダロス』に言われた忠告でなくても破ったら死んでしまうところですね。彼は【陰の不死英雄】の中でも最も死に近い存在なんですよ」
「それって、守り続けていれば死なないってことですよね。そんな呪い意味無いんじゃ…」
「まぁ、そんないいものじゃないんですよ。自分の呪いの正体が何なのかは自分自身では分からないんですよ。他人にはわかっていますけどね。ですが、私たちは彼に教えることが出来ないんですよ」
「?どうして?」
「知ってしまったら死んでしまうから」
驚きの発言。
「だから、自分の聖遺物に付加されている名前、私なら『モードレッド』から推測して、死ぬことを回避しなければならない。かなり大変な事のでしょう?」
「え、じゃああなたは自分がどんな呪いにかかっているか分からないんですか!?」
「ええ。まあ、名前から推測していますけど、私のはおそらく死ぬということは無いでしょう。あなたのもそうですよ」
「私の…?」
モードレッドは頷いた。
「あなたのコードネームは『ジークフリート』。弱点は分かりますが、前述したとおり、教えられません。名前から推測してください」
「ジーク…フリート…」
「あなたの仲間は他に、『英雄』は『クーフーリン』。『大魔導師』は『ファウスト』。『賢者』は『アルヴィース』。そして『錬金術師』『ヘルメス』。ヘルメスには弱点が無いとされているよ。彼らにコードネームを教えてやるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、なんてことは無いです」
そう言うと、モードレッドは耳をおさえ、通話するような姿勢をとった。
「ちょっと失礼」
渓谷の淵から離れ、遠くを見るような目になった。
「ええ、ええ。はい、分かりました。至急、帰還しようと思います。では、失礼します」
「帰還命令ですか?」
「ええ、そうです。では、失礼しますよ。また会いましょう」
「ええ、ではまた」
モードレッドが空気と同化し、消えた。
「さて、大変なことを聞いてしまいました…」
「あ、凛々さん、ここにいたんですか。イカロスは…?」
「ここに落ちていきましたよ、アリカ」
森のからアリカが顔を出した。
「あ〜、ここに落ちちゃったら終わりですね。もう登ってこれませんよ。一人潰したということで」
「まあ油断は禁物ですよ。まだ生体反応はありますから、復活してくる可能性も拭いきれないです」
「そうですね。じゃ、戻りましょうか」