帰還
「さっき心当たりがない訳では無いって言ってたけど、誰のこと?」
アリカがガインにそう聞いた。
「今から向かおうとしている。凛々、故郷に向かおうと思うんだが、大丈夫だよな?」
「ええ。私は大丈夫です」
「じゃあ飛ぶぞ!」
そう言い切る前に、ガインは窓から光の速さで飛んでいった。
「私たちも行きましょうか」
「そうですね」
次いでアリカ、凛々と飛んでいった。
「ここが…」
「長閑な場所だろ。キュヴェイルにもこんな所があるんだぜ」
「すごい…ですね。私、こういう高原の雰囲気とか好きなんです」
「そっか。存分に楽しむといいよ」
「ただいま」
アリカがガインの家に入って行った。
「ああ、おかえり」
ガインの父、リュエルが出迎えてくれた。
車椅子に乗っていた。
「そろそろ来るだろうと思っていた」
「なに?」
「この身も昔は【不死英雄】だったからな。なんとなくは分かるんだ」
「おじさん…なんで車椅子に…?」
「ああ、お前らが旅に出た日のことを覚えているか?」
「帝国軍が攻めてきて…」
「そうだ。そこで俺はアリカに『大魔導師』の力を与えた。しかし、それは前期『英雄』のヒトラーに体を侵食されている途中だったから、かなり無理をしたんだ。その影響で体が不自由になったって訳だ。だが、他に日常生活に支障はない。心配するな」
「へぇ。ところで、その二人は?」
リュエルの後ろには二人の少年と少女がいた。それぞれ10歳くらいだ。
「ああ、この子たちはお前ら【不死英雄】の『支援者』だ。あそこの『勇者』は既に持ってるんだろ?」
「ああ、そいつ等が俺らの“裏”か」
「ほら、自己紹介しなさい」
「ぼ、僕はウコン。ウコン=シュタイネル」
「私はサコン。サコン=ストロエフ」
少年は気弱そうで、少女は男勝りな感じだ。どちらもとても可愛らしい。いや、恐らくこの世に2人といないほどの至高の顔なのでは?
「へぇ。俺はガインってんだ。よろしくな」
珍しい。ガインは子供が好きなのか。
「あたしはアリカ。よろしくね」
「ふ、ふん!言っとくけど、私はあんた達に使役される気は微塵もないからね!」
「サ、サコン。ダメだよそんな事言っちゃあ…。僕らの存在意義が無くなっちゃうよ…」
「ウコン…と言ったな。お前は気弱そうだが、強い心を持ってるな。成長したら良い男になりそうだ」
ガインが頭を撫で、そう言った。
「サコン。お前は抵抗する心があるから相手に押されることはなさそうだ。だが、それは時にいけないこともある。程々にしといた方がいいぞ」
頭を撫で、そう言う。
「ガイン…お前、子供には優しいんだな…」
「ば、バカを言うな。こいつらが仲間にならなければ大変だからだろ」
「そこらでいいか。ガイン、お前はサコン。アリカはウコンだ。よろしく頼んだぞ」
早速懐かれたのか、サコンはガインにベッタリとくっついてる。
「サコン、暑苦しい。それに動きづらいからちょっと離れろ」
「こんなにカワイイ子がくっついてるのに、そんなこと言っていいのかな?」
「自分で言うな。気持ち悪ぃ」
「ウコンはいいの?ガインに甘えなくて」
「僕はいいんです。そんな事したら迷惑でしょうし…」
「じゃああたしに甘えなよ。あたしなら迷惑だとは思わないしさ」
「お前たち、こいつらの本来の存在意義を忘れたわけじゃなかろうな。愛玩じゃないんだぞ」
「分かってる。親父こいつ調整ミスってんじゃねぇのか?」
「ウコンを能力が最大限出すようにしちゃったから、サコンは人間性を出来る限り出そうとしたんだが、失敗だったか…」
ガインが剥がそうとしても剥がれない。
「吸収しちゃえば問題は無い。それに、二人とも性能は究極だ。少しサコンの方が劣っているがな」
バチバチッ!
「もう邪魔だから吸収するぞ!」
凛々の時より遥かに早く終わった。ガインの強さか。
「あたしも!」
バチバチッ────
アリカは凛々と同じくらいかかった。
「さて、やりたい事は終わったし、長い旅だったろう。外にいる『勇者』も一緒にくつろぐがいい」
「そうだな」
「くつろげるものならどうぞ」
ドアの方から声が聞こえてきた。
「久しぶりだな。『英雄』に『大魔導師』。外には『勇者』もいたな」
「お前は…『愚者』!」
「貴様、何故ここに…!」
ガインが怒りを持った声で問う。
「君たちの生活をぶち壊しに来たんだよ」
ガインは前触れもなく殴りかかった。
「フッ。愚か者めが」
その拳はイカロスには届かず、虚空で抑えられた。
と、次の瞬間ガインの体が右腕を軸に回転し、床に叩きつけられた。
「ガッ…!」
「ナイスだ『機械兵』」
「な…んだと…?」
イカロスの隣に女が立っていた。
透明化していたようだ。それも【神類】の力の一つ。
「こんな所に一人で来るわけないでしょ。と、言うよりわたしが行かせないわ」
機械の手を開いたり閉じたりしながら女はそう言った。
「名乗りましょうか。わたしは『機械兵』。デウス・エクス・マキナ。マキナと呼んでください」
「凛々!」
パリーン!
窓ガラスを割り、凛々が飛んできた。
腕を剣に変え、マキナに突進した。
「っ!」
二人は反対の窓に突っ込み、外へ出て行った。
「親父!あんたは逃げろ!」
「そうはいくか。俺も手助けするよ」
イカロスの足元に魔法陣が展開された。
次の瞬間、イカロスは部屋の中から消えた。
「外に移動させた。早く行かないと『勇者』が死んじまうぞ?」
聞くより早く、二人は窓から飛び出して行った。リュエルが考えることなど分かっているというように。
「はぁァァァ!」
エクスカリバーと同化した腕を振るいながら凛々はマキナに斬りかかっていた。
対するマキナは機械の腕で攻撃を受けている。ダメージはほとんど負っていないようだ。
「効きませんね!私の体は絶対防御。本気を出さないと殺せませんよ!」
「本気を出さずとも殺して見せます!」
「凛々!あまり一人で突っ走るな!」
ガインが叫ぶ。
「いいのか?他人に気を回していて!」
イカロスが後ろからナイフで奇襲してきた。
しかしそれはアリカによって展開されたシールドによって防がれた。
「コンビネーションはバツグンか。なら…」
マキナの近くにイカロスが寄って行き、
「こっちも二人で戦うまでだ」
「凛々、お前はイカロスとやれ。お前なら相性がとても良い」
「どういうこと?」
「お前は戦士の精神を重んじるだろ?だったらその心に聖遺物が答えてるはずだ。ここから先のことは実戦で見つけてみろ」
「何ごちゃごちゃ言ってる?こっちも本気出すから、本気で来いよ!」
そう発したと同時にマキナが咆哮した。
「うおおおおォォォ!!!」
体に纏ってる機械が反応を示し、巨大化していった。
「これはこの前の…」
「王都を襲った巨人じゃないか!」