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英雄旅記  作者: 斬緋藍染
第4章:キュヴェイル王国
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【真・神類】

「な、なんで…!」

「ふん、これも【神類】の力だ。アリカ、こいつの精神状態を安定させてやれ」

 凛々を蔑むような目で見下ろす。

「『精神安定(メンタルリカバリー)』」

 緑色の光が凛々を包み、そのうち凛々に吸収された。

「あ、私は何を…」

「俺を殺した」

「そ、そうだ。ガインを…ってあれ?」

 ガインを見上げると、目が飛び出さんばかりに目を見開いた。

「驚いたか。先程のように知らなかったふりなんてのは通じないぞ」

「し、知らない。分からない!なんで生きてるんですか!」

「精神安定したのかよ…。まあ、これは本当らしいな。教えてやろう」

「ちょ、ちょっと待て!なんでそんなことが分かるんだ?」

「それも含めて説明するから、ちょっと黙ってろ」

 ガインたち3人はソファに先ほどのように座った。ちなみに、アリカと凛々が隣りに座り、ガインが2人の目の前に座るという感じだ。

「俺は首を斬られて死んだ。それは不変だ。だが生きている。これがどういう事かわかるか?」

「【神類】の力って言ってましたけど…」

「そうだ。お前に殺された。が、その直前にこういうシールドを張ってたんだ」

 中央の机の上に紫色の薄い板が出現した。

「これは…?」

「破壊した人の聖遺物(レリクト)内の魂を術者が吸収するものと、蘇生の能力があるものを混ぜたものだ。まあそうだな、『聖邪(せいじゃ)の盾』とでも名付けておくか。蘇生が『(ひじり)』、吸収が『(よこしま)』。これを死ぬ直前に凛々に壊させ、凛々の魂の一部を吸収したんだ」

「へぇ…。…あれ?エスターライヒを吸収しましたか…?」

「してない。しないように注意した。気になるんならこの場に出せよ」

 エスターライヒが机上に出現した。

 気を失っているようだ。

「良かった…」

「【既死戦士(サリエル)】の主が変わることは無いから、吸収することは出来ない。注意したってのは嘘だな」

「そうなんですか。なら安心ですね」

「で、このシールドは出している時間によって効力が変わる。短ければ短いほど奪える魂の量が増える。今出しているこれは2分前くらいに出したから、せいぜい奪えて200個くらいかな。ある地点で変わらなくなるようだけど、調べる気は無いな。同様に、蘇生の確率も時間によって左右される」

「じゃあ蘇生は一か八かって事だったのか!?危険すぎるだろ!」

「お前、声でかい。うるさいよ。まあでもそういう事だ。俺が出現させたのは斬られる0.45秒前。蘇生の確率はほぼ100%だ。そのまま張らずに斬られてたら0%だったけどな」

 笑いながらそう言う。

「それはさておき、さっきアリカは俺がなんで凛々の言葉の真偽が分かったかと聞いたな。あれは俺が次の段階、つまり【神類】の上位職である【真・神類】になったからだ。魂の含有量が一定数を超えると、それになることが出来る。俺の場、英雄は神話となるということで『神』になった」

『神』。それは、人間を超越した威力を持つ、かくれた存在。人知を()ってはかることのできない能力を持ち、人類に禍福を(くだ)すと考えられる威霊だ。奇跡を起こし、人々に幸福を与える。

「人々が思い描くような天界に住み、上半身裸でいるようなおっさんではないし、それ以前に『神』とは名ばかりだ。彼らに人間である我々がなれるわけが無い。比喩表現のようなものだな」

「で、なんで真偽が分かったんだ」

「せっかちかよ、お前は。おそらく【真・神類】の能力として、嘘と真実を見分けるというものがある。おそらくと言ったのは他の【真・神類】にそれがあるかが分からないからだ。今まで歴史上の誰もなった事がないからな」

「なんでなれると思った?一歩間違えたら死んでたのに…」

「誰もやらなかったんなら試してみればいい。魂の量が許容量をオーバーしたらどうなるのか。ただ気になっただけだ。このシールドも張れるのを知っていたし、何も起こらなければそれでいい。起こったならそれはそれで活用すればいい。何もマイナスな事が無いゆえに俺はこれをやった」

「そうなんですか。好奇心があって素晴らしい事だと思います」

 微笑みながら凛々は言う。

「はッ!嘘をつくな、愚か者だと思っているだろ。内心は」

 笑みがぎこちなくなった。図星か。

「嘘はわかんだよ。お前が嘘を認識されないようにしない限りはな」

「…」

「さ、こんなことをしている暇はない。それに魂を凛々から奪ったのはワンランク上がるためだけだからな。返すから、このシールド展開しろよ」

『聖邪の盾』を指で小突いて言った。

「1秒展開したらもうそれはアウトだから、最高でも0.(コンマ)な」

「それ、死なないですか?」

「大丈夫だ。『聖邪の盾』があれば斬られても蘇生ができるし、何かあればアリカに頼めば良い。問題は無いさ」

「じゃ、じゃあ…」

「「せーの!」」

 ガキン!

 ブシュッ

 グチャッ……ドン…。

「おい…。首が落ちたけど、大丈夫…なのか…?」

「さあな。これは使用者自身の魂によっても左右される。死ぬようならここで切り捨てておいて正解だったということになる」

(切り捨てる事が前提かよ…!)

「ああ、あと人に見られていると魔法が発動しないみたいだから城下町の様子でも見ておこうか」

 二人で窓の方に向かった。

「へぇ。人が多いな」

「そりゃ村とは違うでしょ」

「街には出たことがなかったからな。圧巻だ」

「そうでしょう。この街は国の中でも最大の人口を誇りますもの」

 後ろから凛々がそう言った。

「終わったか。…いや、なんだ?この違和感…」

「私も感じてました。何でしょうか…」

「お前、【真・神類】になってない…のか…?」

「魂の量は足りてるはずです!そんなはずは…」

「もしかしたら、エスターライヒさんが凛々さんの中に入ってる時にガインはやったから、エスターライヒさんの中にいた魂も入ってるんじゃないか?」

 アリカがそう言うと、二人はいっせいに振り返った。

「なるほど。その線はあり得るな…。凛々、ちょっとやってみてくれ」

 エスターライヒに凛々が触れた。

 すると、エスターライヒが消滅し、凛々に吸収された。

「顔に紋章が…。アリカの考えは正解だったようだな」

「紋章?お前、そういえば消えてるぞ?『英雄』の力を継承した時にはあったはずだけど…」

「俺は腹部にある。ほら」

 服をめくり、腹をさらけ出す。

「うわ、ちょっ、待って…」

「なんだよ、興味を持ったような目で見てくるから見せてやってんのに」

(子どもの頃とは違って恥ずかしいだろうがよ…。うわ、視界に入った…。腹筋スゴぉ…!)

 一人で舞い上がっている。

「ン゛ン゛。そこらでいいかな2人とも?」

 咳払いをし、凛々が言った。

「ご、ごめん、凛々さん」

「アリカ、すまないがお前がグレードアップするのはまた今度にしていいか」

「?なんで?」

「魂の量が足りないんだよ。吸収するのにもそれは使う。だから俺らは今、敵が攻めてきたら戦えない状態なんだ。ああ、いや戦えない訳では無いんだが、魂の量の差で確実に敗北する。そんな状態だ。だから…すまない」

「あ、ああ。分かったよ」

 裏があるのかと思ったが、そうでは無かったらしい。

「で、私は力を得る代わりにエスターライヒという強力な仲間を失うわけですか」

「ま、出し入れ可能だから完全に失うわけじゃないけどな」

「それは分かってます。ただ、出したら力を失い、【神類】…でしたっけ?の力に戻ってしまうんでしょう?」

「まあでも【神類】なだけでも、普通の人間にはサクッと勝つことが出来るから、あまり心配する必要はないと思う」

「ですが、私たちの敵は対極の【神類】なのでしょう?それで大丈夫かどうか…」

「んな細けぇこたぁいいんだよ。お姫さまはいつもそんな事で足踏みしてんのか?」

「…そう、ですね」

「実戦になって不便のようなら対応すれば良いし、今はガインの言う通り気にしない方がいいよ」

 無言で頷き、了承した。

「そう言えば、凛々は俺らについてくるんだよな?」

「そのつもりですけど…」

「お前のお祖父さん…キュヴェイル国王はもうそろそろ死ぬぜ?」

「何を言っているんです。冗談でも不謹慎すぎます!」

「さっきここに来る時にすれ違ったんだが、何か黒いものが見えた。恐らく悪魔かなにか。そいつに殺される」

 ゴッ───

 鈍い音が響いた。

 凛々がガインを殴ったのだ。

 力が増幅されているため、壁を突き破り、外まで飛んでいった。

「ガハッ!」

「許されることではありません…。死を冒涜することなど!」

『冒涜…じゃ、ない…。警告だ…。グッ…。フ……。誰が言ったか忘れたが…死んでからじゃもう遅いんだろ?…だったら、死ぬ前に教えてやらにゃ…』

 空中で立て直し、頭の中に直接語りかけてきた。

【神類】特有の連絡網だ。

「凛々さん、直接見に行ってみましょう。国王陛下の様子を」

「…そう…ですね。真偽はこの目で見ないと分からないですしね…」

「ガインは…」

「どうせ飛んできますよ…。そんな事より…」

 そう言い、凛々は意識がないかのようにフラフラと歩いて部屋を出ていった。

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