2.きっかけにはなるかも?(完結)
帰宅して、台所の籠に入っているみかんを手に取った。
おもむろに皮を剥いて食べる。うん、甘酸っぱい。
あんなに甘いみかんって、糖度とかどうなってるんだろうとぼんやり思った。
「あ、お礼言わないと」
そういえば「ありがとう」と言ってなかったことを今さらながら思い出した。
翌日、学校へ行ってクラスメイトの男子の姿を探した。同じクラスの男子なんて人目を引くような容姿でもなければ気にすることなんてない。今までこちらから声をかけたこともないから、どうしたらいいのかわからなくてまごまごしてしまった。
「りえ、どーしたの?」
「……なんでもない」
そう、実は私の名前は”りえ”という。先輩と待ち合わせしていた女の子と同じ名前だから余計に敗北感がすごい。様子がおかしいのに気付いた友だちに聞かれて、私は彼から目をそらした。
(いつさりげなくお礼言おう……?)
今日はそんなかんじで彼が気になってしょうがなかった。
そう考えると、クラスの男子と二人きりになるシチュエーションなんてそうそうないものだ。
(手紙とか? うーんどうしよ)
思い悩みながら彼を見ていたらふと彼が顔を上げた。
髪型は少し長めのショート。別段人目を引くような容姿でもない。いつも猫背で……と考えて、なんで私は彼を吟味しているのだろうと思った。
「山本、これ」
「え」
いつのまにかまた彼が横に来ていたらしい。猫背なのは、背が高いからだったみたい。
「手」
「手?」
また条件反射で手を出してしまったら、みかん。
「甘かっただろ」
「うん……甘かった。……ありがと」
「どういたしまして」
声は嫌いじゃない。またキレイなオレンジ色のみかんをもらってしまった。
「なんでみかんあげてるんだよ?」
「ちょっとな」
彼と、その友だちとのやりとりを聞きながら、頬が熱くなるのを感じた。
「あれー? おかしいな、寒いはずなのに熱いなー?」
「……っ、そんなんじゃない」
私は私でにやにやしている友だちにからかわれて、かろうじてそれだけ言った。
え? みかんはどうしたのかって?
もちろんおいしくいただきましたよ。昨日みたいに甘くて甘くて、舌が溶けるかと思った。
(みかんもらって恋とかない。絶対にない)
そう思ってたのに、試験が終わった頃には彼が横にいるのが当り前になったのはなんでなのかな?
うちの男共はみんな策士かもしれない。
女の子かわいい。
読んでくれてありがとうございました。